The Magician Wants Normality

Love goes beyond the walls of the race.

ある晴れた日。

その『生き物達』は可愛がってくれた人々に連れられて後宮の裏庭へと移動した。

久々に解放された中庭では王主催の茶会に側室達が参加中。侍女達も同行し後宮内に人影は少ない。

そして。

先日空いた部屋から『生き物達』は内部へと招き入れられ、各部屋へと放り込まれていった。

可愛がってもらえばその分の愛情を返そうとするものである。

まるで刷り込みの如く言い聞かされた苦労話に『生き物達』は思った。

――『奴ら』は敵だ、自分達が役に立とうと――

※※※※※※

「上手くいくか?」

「さあ? やってみなきゃわからない」

ルドルフの言葉にはっきりとした答えを返せない。

なんで茶会の主催者と私が呑気に部屋でお茶を飲んでいるかといえばルドルフなりの嫌がらせだ。

うん、始まって五分程度で私を連れて退席だもんね。今頃は悪口大会と化しているだろう。

だから妙に騎士の数が少ないこともきっと気付いてないだろうね。ま、餌として麗しのセイルリート将軍がいるから文句も出ないだろうけど。

「そいつを知ってると大丈夫そうなんだけどな」

ちら、と机の上に乗っている生物を見る。

すると『任せろ!』とでも言うように一声鳴いた。

「これが人間並みに知能が高いとは……」

「いや、これ長らしいよ? 身を守る術を持たない種族には賢い個体が生まれるらしいし」

「だからって人の言葉を理解したり他の個体を誘導したりするなんて普通思いませんよ……!」

今までの常識を覆す事態に現実逃避気味の宰相様。まあ、その気持ちは判る。

私だってゲームのモンスターとかに使われてなきゃ、そんな発想してません。

だいたい、私の世界に居たのはもっと小さくて知能低いから!

近くの沼から拉致されてきた幼生が掌サイズだった時は驚きましたとも。

傷ついていた個体を見つけて治癒し部屋で療養させてなきゃ知能の高さに気付きません。

……まさか自分の名前を認識して返事するとはね。さすがファンタジー世界。

「一般的に女はそいつら苦手だとは思うぞ?」

「そうですね、好むという奇特な方はあまりいないでしょうし平気なミヅキ様が特殊かと」

「だからな、ミヅキ?」

ルドルフは良い笑顔でぽん、と肩に手を乗せる。引き攣っているのは気のせいだろうか。

「お前は何故そういうことを思いつく?」

「幼生を大量に捕獲してもらって護衛の騎士達に育てさせたこと? 中庭の池で飼育させたこと? それとも成体になった子達が側室の部屋を中心にバラ撒かれようとしていることかな?」

「それもある。だが、傷ついた幼生を治癒して手懐けたり種族の壁を超えて意思を疎通させたりすることも含む」

「……。成せばなる」

ゲームではモンスターも仲間にできたし、これも大きさからして魔物の一種なんじゃないかね? 

はいはい、王宮組は頭を抱えないの! 騎士達は楽しそうだよ?

ねー、元オタマジャクシで現在カエルのタマちゃんや?

くぇっ!

緑色の体につぶらな瞳のカエルは大きさの割に高い声で一声鳴いた。

「会話できてるよな……」

「騎士達の報告は正しかったわけですね……」

深々と溜息を吐くでない、そこの主従! これは始まりに過ぎないのだよ?

※※※※※※

その後暫くして。

「キ……キャァァァァァッ!!!」

「か、顔に、カエルがっ!」

「な、なぜ部屋の中に……ヒっ!」

盛大な悲鳴が後宮各所で響き渡ってた。いやぁ、大パニックですね!

さあ、逃げ惑うがいい! 側室は勝手に後宮から出られないから逃げ場なんてないけどな!

まあ、驚きも当然か。茶会が終って部屋に戻ったらカエル達がお出迎えしてるんだから。

しかもカエル達は側室や侍女の顔を狙って飛びついているらしい。

……報復か? 報復なのか? それとも騎士達への恩返しか、カエル達よ。

私はそこまでしろとは言ってないぞ!? ねえ、タマちゃん!?

くーぇっ!

そして満足そうに鳴くカエルが一匹。にやりと笑ったような?

思わず皆の視線が集中する。

「育ての親に似たのか、こいつは」

「どういう意味だ! 朝と夜に話しかけて餌やってただけだけど?」

……尤もその餌は茹でた肉や野菜、パンといった雑食だが。

それでも育つのだからカエルの姿をしていても魔物なのだろう。

ルドルフはタマちゃんの頭を軽く撫でながらしみじみと呟いている。

呆れてるんじゃなく感心してたのか、ルドルフ。あんたも懐かれてる一人なんだがね?

「騎士達の苦労話も聞かされていたみたいですからね……この子達にとっては敵に認定されているのでは?」

「ミヅキは何で敵認定されてないんだ?」

「王宮行く時に池の様子を見ていたからじゃない? この子を放しにも行ったし」

「ところで皆さん……」

いつも穏やかセイル君が欠片ほどの焦りもなく『ある可能性』を口にする。

「あの大きさですと顔に張り付かれた場合…口と鼻を塞ぐ可能性もあるのでは?」

「「あ」」

思わずハモった私とルドルフにセイルは「まあ、事故ですし構いませんよね」などと付け加える。

え、黒い。黒くなってますよ、猫はちゃんと被らなきゃ駄目ですって、将軍!

茶会会場に置いていったからストレス溜まりました?

「じゃあ、そろそろ騎士達に回収してもらう?」

「もういいのか?」

「ん? だって嫌がらせって言っても次の準備みたいなものだし」

側室達の部屋や後宮内にある仕掛けをすることが最大の目的ですよ。

カエルを放り込むくらいはできても部屋に入るのは無理だしね、カエル回収の名目で側室や侍女を隔離し部屋に入り込んでバレ難い所に仕掛けてくるのです。

「まだやる気なんですね、ミヅキ様は」

「向こうが仕掛けてきた以上は報復されて当然だろ? ミヅキ徹底的にやれ、俺が許す」

宰相様、呆れの篭った目で見ても無駄ですよー? ルドルフが許可した以上、正義は私にあります。

それに騎士達にも報復の場を与えてあげなければ気の毒じゃないですか!

そもそも反省しない連中が悪いのです、この『嫌がらせ』で厄介な連中以外は脱落すると思うけどね。

「それでは回収と設置を御願いしますね」

さて、側室の皆様?

貴女達にダメージを与える方法は暴力だけではないのですよ?

むしろ精神的にくる物の方が何倍も性質が悪い上に利用できるのです。

楽しみになさっていてくださいね!

……カエル騒動もイルフェナの一部で笑いものになってるとは思いますが。

私と計画を知っている騎士達はにこやかに微笑みつつ、ルドルフと宰相様を見送ったのだった。

余談ですが。

カエル達は回収後、生まれた沼へと戻されました。タマちゃん含む数匹が自主的に育った池を選んでくれたので今後増えるかもしれません。

良かったねー、ルドルフ? 強力な味方ができたみたいだよ♪