ミモンとの一方通行な愛の営みを終え、俺は着衣を正す。

彼女は股の処理を終え、脱ぎ散らかされた服を着なおしていた。手早い動作だ。

「今日はもう家に帰って良い。給金は減らさないから安心して休め」

「……ありがとうございます」

ぎこちなく頭を下げるミモン。バナナ色というべきか、黄パプリカというべきか、そんな色合いの彼女の髪の毛を俺は撫でた。

「他の社員に陰口を叩かれたり、何か困ったことがあれば、今度俺に抱かれるときに言え。悪いようにはしない」

さりげなく今後もセックスをすると宣言しておく。

この開拓結社本部には何人も社員がいるが、女性社員の数は少ない。その中でも美人な者といえば、イブとミモンしかいないのだ。ミモンは大人の美女という貴重な人材なので、これからも大事にセクハラしていきたい。

「それと、俺はこの後に生産部の視察に行く。誰か付き添いのものを用意するよう伝えておくように」

「はい」

ふらふらとした足取りでミモンが社長室を出て行く。

不憫でしょぼくれた感じの佇まいが心にぐっと来た。今度、別邸に呼んで一晩中可愛がるのも良いかもしれない。

開拓結社の管理職のおっさんに導かれ、城下町の外へと向かう。

石鹸工場や養蚕場、各種工房を始めとする開拓結社の生産部門は、軍事拠点の近くに設置されている。石鹸製造技術や品種改良された蚕など、生産部には外部に漏らせない機密が山ほどあるので、かなり厳重な警備が敷かれているのだ。

ニューネリー市には大河の支流である川が城下町を撫でるように流れていて、それを水源にした水堀がいくつか設置されている。水堀に囲まれて孤立した浮島のような土地の中に、開拓結社の生産部門があった。

もともとは犯罪者や捕虜を収容する施設があったのだが、老朽化して放棄されたのだという。犯罪者をまとめていただけあって、広さもそこそこにある。前世日本で例えると草野球が3試合同時にできる程度の広さはあるだろうか。

なお、現在では牢屋は軍事拠点の一部に統合され、捕虜収容所とは別施設になった。

「若様ではありませんか。視察でしょうか?」

「ああ。通してもらうぞ」

開拓結社生産部の入り口は一箇所しかなく、そこにはクオルデンツェ軍の兵が詰めている。開拓結社は民間企業ではなく官営企業なのだ。

重要機密を扱うだけあって、ここの警備をする兵は出自がしっかりしたものが多い。

「もちろんです。おい、扉を開けよ」

「はっ!」

かつて犯罪者や捕虜の逃亡を抑制する最終ラインだった扉は、現在は生産部の従業員の逃亡を防止している。

生産部の従業員とは、奴隷だ。表現ではなく実際に奴隷身分なのだ。市内の奴隷商から購入された奴隷は、ここにとじ込められて延々と石鹸を作ったり、蚕を育てたり、俺の工房で働いたりしている。

開拓結社本部の奴隷管理担当にそのあたりは任せているので、どの程度の奴隷がここにいるのか俺は知らない。唯一知っていることと言えば、美人の奴隷が一人もいないということくらいだ。性奴隷専門の奴隷商人はニューネリー市にいないのだ。

「奴隷も増えたものだな」

扉をくぐって中に入ってから周囲を見回して言うと、隣を歩いている管理職のおっさんが口を開いた。

「それも悩みの種です。生産部が大きくなったこともあり、いまの土地ではもう広さが足りません。だましだまし回していますが、やはり新しい土地が欲しいところです」

前に視察に来た時に比べて奴隷の人口密度が高くなっている感じがした。リソースを集中させた効率的な大量生産を実現するためとはいえ、ちょっと手狭な印象を受ける。

以前はこれに加えて蚕の餌の畑があったので本当に狭かったのだ。いまは農村に餌の栽培を依頼しているので多少は広くなったのだが、それをやっていなかったら本当に狭苦しい空間になっていたことだろう。

「あまり窮屈な環境では奴隷のやる気も下がるだろう。早いうちに手を打っておく必要がありそうだ」

レヴィオス王国はもちろん、隣国であるジンカーエン帝国にも奴隷制度は存在する。そしてそれはどちらも救いのない制度だ。

奴隷は一生奴隷のままである。前世の歴史においては自分を購入するといった形で自由になれる奴隷制度もあったようだが、ここでは無理だ。購入者が奴隷を解放する意思を見せない限り、奴隷自身はもちろん生まれた子供も奴隷である。悲しいほどに救いがない。

そんな未来のない奴隷たちを末永くこき使うため、俺はそれなりに配慮している。

ここではちゃんと働けば1日3食きちんと食べられるし、病気になれば仕事を休むことだって許される。模範的な奴隷であれば魔力持ちの兵による治癒魔法を受けることもできるのだ。しかも盗賊や野生動物に襲われることもない環境である。

生産部の外に出られないことを除けば、ニューネリー市外の小さな農村に住む住人よりよっぽど良い生活をしているのではないだろうか。

「まずはどちらから視察されますか?」

「工房からだ。今日はそこに用事がある」

管理職のおっさんが先頭になって、工房区画に移動する。

工房は俺の趣味の空間だ。俺が欲しいものを実現させるために存在しているので基本的に赤字だ。

赤字の例としては、炭がある。ニューネリー市では燃料に薪を使う傾向が強く、炭がほとんど手に入らなかった。俺は火鉢で部屋を温めたかったという、ただそれだけの理由で自分専用炭焼き小屋を作らせた。先行投資という名の道楽である。

目的の工房に入ると、仕事をしていた職人オヤジが身を低くしてこちらに走ってきた。このオヤジも奴隷である。

「これは主殿。本日は何用で? 火薬の件ですかね? 銃の件ですかね?」

「いや、違う。これだ」

そしてこの工房では銃を作ってた。いわゆるマスケット銃というやつだ。

これは「新兵器マスケット銃の力で他領を侵略して大切に育てられた姫様たちを犯しまくるぜ!」という壮大な夢をもとに始まったプロジェクトだった。もう頓挫した計画である。

なぜ頓挫したのかといえば理由は単純で、魔力持ちの人間はマスケット銃の弾丸程度では死なないどころか骨折すらしないことが判明したためだ。

この世界の戦争は、魔力持ちの人間の動きが非常に重要である。数を揃えたマスケット銃の威力は有用だろうが、魔力持ちの人間をも一気にひっくり返すほどかというとそうでもない。それほどまでに魔力持ちの人間は強力なのだ。

一応、いまでも細々と火薬と銃の改良は続けさせている。肉壁になる平民を銃で一掃できれば、戦略の幅は広がるからだ。先はかなり長そうだが。

俺は鶏卵サイズの小物入れを職人オヤジに渡した。

「これは?」

「中に粉末が入っている。これを鉄に混ぜて弓の矢じりを作ってくれ。粉は少ないから、矢じりの数は5つくらいあれば構わん。貴重な粉だ。大事に使え」

すると職人オヤジは訝しげな表情を浮かべて口を開いた。

「ははあ。作るだけならすぐできると思いますけどね……」

まともな矢じりにならずに文句を言われることを心配したのだろう。俺は実験目的であることを伝える。

「とりあえず混ぜて作ったらどうなるかだけ知りたい。強度が弱くても構わん」

「わかりやした」

職人オヤジが小物入れを受け取り、中身を確認した。

話によると今日明日にでも作ることは可能だという。俺は早めに結果を知りたかったので、さっそく作ってもらうよう依頼した。

用事も済んだので、俺は気ままに工房を見学して改良された火薬やマスケット銃を見て過ごした。

石鹸工場では新作の石鹸が作られていたので、お土産に1つ横領して行くことにした。薄いピンク色の石鹸で、花のエキスと、はなびらのチップを混ぜ込んであるのだという。

ニューネリー城に戻った後、その石鹸をファニィにプレゼントしたらとても喜んでくれた。それは良いのだが、実はその石鹸に混ぜ込まれた花は、ミニットが良く持ってくる良い香りのする赤い花、マロアシュイナだったのだ。

それに気がついたのは、夜になってファニィが俺の部屋に遊びにやってきたときのことだった。

ファニィの髪から漂うほのかな花の香りでミニットとの情事を思い出し、股間がびんびんに勃起してしまった。

ついうっかりファニィを押し倒すところだった。実に危険な石鹸である。