The Marquis’ Eldest Son’s Lascivious Story

Kidnapped village daughter gets yummy in a perverted club run by a bad merchant_(inside)

壁には等間隔に燭台が備え付けられていた。

ゆらりゆらりと揺れる蝋燭の炎が、廊下に怪しげな人影をいくつも落としている。

その影の動きはまるで闇の底から何者かが手招きをしているようにも見え、わたしは気がつくと自分自身を抱きしめるように腕を回していた。

「早く歩け」

暴力下男が前、冷酷下男が後ろになって、わたしたちを挟み込むようにして列を作っている。

手錠はされていないけど、この状況で逃げることはできないだろう。

わたしは首筋にあたる冷酷下男の声に恐怖を覚えながらも、黙って歩いた。

「あぁぁぁ……いやぁ……」

「嫌……うぅ……もう、やだ……」

わたしと一緒に部屋から連れ出された女性たちは、どうやら全員が「外の部屋」を経験済みのようだ。

部屋を出てからというもの、ずっと泣きながら歩いている。

どれほどの行為が待っているのかわたしはよくわからないが、その恐ろしさだけは十分に理解できた。

「あのっ、キアネス……わたしの、弟は……?」

部屋を出たとき、キアネスだけは別の下男に連れられてどこかに行ってしまった。

わたしと離れることを嫌がったキアネスは何度も叩かれ、引きずられるように消えていったのだ。

冷酷下男のことは怖ろしいけれど、キアネスがこのままいなくなってしまうことはもっと怖い。

手も足も、声すらも震わせながら、わたしは必死な気持ちで問いをかけた。

「黙って歩け」

「……は、い」

でも答えは得られなかった。

これ以上言葉を続けて怒られることが恐ろしい。わたしは半開きだった口をゆっくりと閉じてしまった。

しばらく不気味な廊下を進み、わたしと女性たちは小部屋に通される。

下男たちの会話によると、この部屋は化粧室と呼ばれているようだ。部屋には下働きの女性が何人かいた。

「綺麗にするからこちらに来なさい」

どうやらひとりひとりに下働きの女性が付くらしい。

わたしは下働きの女性によってひょいひょいと服を脱がされた。

近くに下男たちがいるので恥ずかしかったけれど、それに逆らうことはできない。

濡れた布で全身を念入りに拭かれ、髪に櫛を通される。

そうして綺麗に磨かれると、新しい服を着せられた。生地の触りごたえから、とても高価なものなのだろうと思った。

「うわぁ」

しなやかな柔らかさの布を肌で感じながら、わたしは目の前に置かれた鏡石で自分の姿を確認する。

新しい服は、まるでお姫様が着るドレスのように見える。

わたしが村で着ているような麻で作ったワンピースとは違ってとても綺麗だ。

薄い紫色に染色されたそれは、おそらくわたしの髪の色に合わせて選ばれたのだと思う。

これまで紐で丸めていただけの髪は下ろされ、髪飾りで軽く束ねられた。

紫色のわたしの髪とそのワンピースの組み合わせは、とてもよく似合っているように感じる。

こんな状況なのに、大人っぽくなった自分の姿を見ることに私は少しだけ楽しさを感じていた。

「はい、あんたはもういいよ。着替えは終わりだからね」

「え? でも、何も履いてない……」

いまわたしが着ているのは、このドレス一着のみだ。

ドレスの丈は膝上までしかないので、少しめくったら見せてはいけない部分まで丸見えになってしまう。

「それでいいんだよ、早く下がりな」

背中を押され、わたしは下男たちのもとに送り出されてしまう。

一緒に連れてこられた女性たちも同じようにお化粧と衣装替えをしていたようだ。

それぞれに合った色合いのドレスを着ていることはみんな同じだけど、やっぱり大人の女性たちは胸やお尻がよく目立つ。

「たまんねぇ格好してんなぁ、おい。俺の相手もして欲しいもんだぜ」

「黙ってろ。旦那様に聞かれたら解雇されるぞ」

「わぁーってるよ!」

下男のやり取りを聞きながら、わたしたちは化粧室を出た。

歩いている女性たちが化粧室に入ったときよりもずっと暗い顔をしている。

わたしは廊下を一歩進むたびに鼓動が早まるのを感じた。

「うぅぅぅ……お父さん……お兄ちゃん……助けて……う、怖い……怖いよぉ……」

わたしは下男たちが「控え室」と呼んでいた部屋で、ひとり震えていた。

化粧室を出たわたしたちは、この控え室に連れてこられた。

わたし以外にも女性がいたのだが、ひとりまたひとりと呼び出されて部屋を出ていってしまったのだ。

今ではわたししか残っていない。

「やだ……やだよぉ……キアネス、どこにいったのぉ……?」

ついさきほど、なにげなく壁に頭をつけて座っていたら、壁の向こう側から音が聞こえたのだ。

何の音だろうと聞き耳を立てたことが失敗だった。

それは先に連れて行かれた女性たちの悲鳴だったのだ。

それを聞いた瞬間、心臓がばくばくと音を立て、わたしは膝を抱えて床に座り込んでしまった。

なにも履いていないので、お尻が床に直接触れてとても冷たい。

「うぇ……きもちわるいよ……お母さん……」

この控え室の窓は高い位置にあるため、逃げ出すこともできない。

下男たちによるとわたしが呼ばれるのは最後らしい。

鼓動は激しくなるばかりで、食べたものを吐き出したい気持ちが強くなってくる。

こんな状態のまま放置されるのなら、いっそのこともう連れて行って欲しい。

わたしが床に涙をこぼしていると、扉がぎぃと音を鳴らして開いた。

そこに立っていたのはきっちりとした服装の男性だ。

一瞬、誰か優しい人が助けに来てくれたのかと期待したけれど、そんなことはなかった。

「この娘が最後か。まだ子供だが……美しい娘だな。これならお客様にもご満足いただけるだろう」

「ひっ……」

「怯えてないでこちらへ来なさい」

このままここで待たされるくらいなら連れて行かれたほうがましだと思ったけれど、やっぱり怖いものは怖い。

できる限り時間を稼ぐためにゆっくりと歩みを進めると、手首を掴まれてしまった。

引きずられるようにしてわたしは控え室を出ることになった。

「お前の弟はこの部屋の中で待ってる」

「キアネスが……?」

綺麗な装飾が施された扉の前までやってくると、男は言った。

位置を考えると、控え室に届いていた悲鳴はこの部屋から聞こえてきたのだと思う。

つまりこの中で女性たちが悲鳴をあげるような行為がされているのだ。

膝がかくかくと震え、そのまま倒れ込んでしまいそうだった。

「中に入るぞ」

「……はい」

わたしが拒否できるはずもない。

下男が開けた扉に足を踏み入れ、ゆっくりと先に進む。

「うっ……」

部屋の中には妙な臭いが立ち込めていた。

いままで嗅いだことがないそれは、どことなく心を不安定にさせるような生々しい臭いだった。

一歩、一歩と足を踏み入れるたびにその臭いが濃くなる気がする。

扉を抜けると横に長いついたてが置かれていて、そこに男性がひとり立っていた。

「あとはこの司会の男に従え。じゃあな」

そう言って、下男は部屋を出ていった。

わたしは司会と呼ばれた男性に視線を向ける。

「これが最後の女か。ふむ、可愛らしくて良いな。お客様もお喜びになるだろう」

「あの、キアネスは……?」

勇気を振り絞って口を開いたのに、司会はわたしの質問を無視して手首を掴んだ。

引っ張られながらついたてから出ると、部屋の様子が目に入る。

蝋燭が贅沢に使用されているようで、室内はそれなりに明るかった。

炎の色に染められた広い部屋には、ソファとテーブルがあちこちに設置されている。

そしてそこには豪華な衣装をまとった男性たちが座っていた。

さすがに蝋燭の光だけでは部屋の奥まではよく見えないけど、人影のようなものが見えなくもない。

下男や司会の言葉から判断するに、彼らがお客様なのだろう。

お客たちは司会に引っ張られるわたしのことを、じっとりと舐めるように見ている。

「みなさん、最後は趣向を凝らした見世物をご用意致しました」

一段高くなった台に登った司会が、わたしのことを手で示しながら言う。

「この麗しい少女の名前はティコ。弟とともにここへやってきました」

どうしたら良いのかわからないわたしは、黙ったままその司会の言葉を聞いていた。

わたしの出身や、どういった生活をしていたのか、どういった経緯でここに連れてこられたのかが説明される。

何気なく部屋を見回してみるが、女性たちの姿はなかった。もう牢獄に戻されたのだろうか。

「ティコの父はナンボナン防衛戦に傭兵として参加し、村に帰ることはありませんでした。おお、なんという悲劇でしょう……」

この部屋にいるお客たちは、ナンボナン市の商人ばかりだと聞いている。

司会の言葉に対して何の感慨もないその様に、わたしは一瞬、恐怖を忘れるくらい腹が立った。

わたしのお父さんやお兄ちゃんが死んだのは、この人達のせいなのに。

「彼女の父は、彼女の弟に言いました。自分が帰るまでティコを守って欲しい、と」

ナンボナン市に傭兵に行く前の夜、お父さんはキアネスにそう言った。

村に残るお母さんとわたしを守るのは、男であるキアネスの仕事なのだと。

「弟はその約束をいまでも守っています。我々がティコに触れようとすると、彼は番犬のように立ちふさがるのです」

キアネスはお父さんがいつか帰ってくると信じて、その言葉を必死になって守っている。

その約束を破った瞬間にお父さんが死んでしまうと思っているかのように。

「素晴らしい姉弟愛だとは思いませんか?」

司会が腕を流すように動かし、部屋にいるお客たちに問いかけた。

するとそれにお客たちは下卑た口調でそれに賛同する。

それはキアネスを小馬鹿にするような言い方だった。

「私は皆様にも、その美しい愛をご覧になって頂きたく思います」

わたしには意味がわからなかったけど、お客たちにはそれの意味するところが伝わったようだ。

「見せてもらおうじゃないか」

真ん中のソファに座っていたお客が、司会に向かって言った。

そしてそれに続くように、周囲の席のお客たちが拍手を始める。

司会はにっこりと不気味な笑みを浮かべ、腕を扉に向けた。

「ティコの弟、キアネス。入場です!」

いつの間にやってきたのか、ついたての横にはキアネスが立っていた。

叩かれたことで腫れた頬や、鎖が外されたために露わになった手首の痣が痛々しい。

「キアネス……」

でもそれ以上に目を引いたものは、その姿だ。

一糸まとわぬ姿で、キアネスはそこにいた。