The Me Who Wants To Escape The Princess Training
They're still kidnapped.
私は憤慨していた。
「だから!」
ドン、とガタガタ揺れる質の悪いテーブルに酒の入ったコップを叩きつけるように置く。
「被害者のいうことを聞きなさいよ!」
「いやだね!」
きっぱりとルイ王子に否定される。くうううこの小僧うううう!
私たちは今宿屋にいる。そして話し合いをかねて食事をしている。色々あってお腹空いたんだ。夜会でも食べたけど大丈夫。大丈夫なはず。
そしてびっくりするぐらい私たちは意見が合わない。
私の主張。
「そのままあんた達の国に連れて行ってもらって誘拐した慰謝料としてお金もらってそのまま庶民暮らししたい。被害者の意見を最優先にするべき」
ライルの主張。
「帰国途中で賊に攫われているレティシア様を見つけ保護したという形で元の国にお返しする。お礼としてマリア様とルイ王子の縁談の話をする。そして私は何も罪も問われない立場でありたい」
ルイ王子の主張。
「マリアが手に入ればどうでもいい」
さりげなくライルが一番鬼畜なんだけど。
「ひどいひどい! 私誘拐され損じゃない!」
ぐいっとテーブルに置いた酒を再びあおる。ビールという庶民のお酒ははじめて飲んだが中々美味しい。
「でも平和的解決をしないと」
ライルが言いながらサラダを食べる。
「おい、これはフォークを使わないのか?」
ルイ王子が不思議そうに食事を見ている。
「それはそのまま手づかみなの。庶民の食事知らない?」
「今まで王城で過ごしているのに知る訳ないだろう」
それもそうか。私はいざ結婚せずに済んだら庶民の暮らしをしても生きていけるように庶民飯も熟知していた。
「ルイ殿下は世間知らずなんです」
「おい」
「知ってる」
「おい」
世間知らずと言われてたのが気に入らないのだろう、不機嫌な顔を隠そうとしないルイ王子。
「だって追手がいつ追いついてくるかわからない状況で、風呂に入れないなどありえないって主張して丁度近くにあった村の宿に泊まるって世間知らずだと思うけど」
今追手がこの街に来たらそれぞれ色々な意味で終わる。
ライルがこくこくと頷いて私に同意する。
「一日の汚れを落とさないなんて不潔すぎる!」
「いや我慢しなさいよ!」
「僕には無理だ! 本当はこんな小汚い宿も嫌だったんだ!」
「しー! 王子しー! そんな大きな声で言っちゃダメ!」
王子の言葉でぎろりとこちらを見た宿屋の人間と目が合う。空気を読め!
王子に対して叱ると子供扱いするなと言う。子供扱いされたくないなら大人になれ。
「明日、とりあえず僕の国に行こう」
王子が慣れない食事に四苦八苦しながら言う。
「なんで?」
「お前の主張もライルの主張も、国に行ってからでも大丈夫な提案だ。着くまでまだ時間があるからそれぞれの主張をするならどうしたらよりよいか話し合えばいい」
私とライルは顔を見合わせた。
「で、殿下……」
ライルが口を開く。
「庶民飯合わな過ぎてちょっとおかしくなった?」
私が言う。
「馬鹿にしているのか!」
王子が賢い発言を急にするから驚いただけなのに怒られた。
◆ ◆ ◆
さて、問題は宿の部屋割だ。
小さな宿はそれなりに繁盛しており、二部屋しか取れなかったのである。
私の主張。
「王子と従者なんだから二人が一緒の部屋でしょ」
ルイ王子の主張。
「僕が相部屋などありえない」
ライルの主張。
「邪魔者扱い辛い」
悲しそうにしているが、私だって譲れない。
「妙齢の女が妙齢の男と一晩一緒に過ごせるわけないでしょう」
「大丈夫だ、お前は色気がない!」
「なんですって! 言い直しなさい! 私は色気ムンムンだもの! 女らしいもの!」
「女らしさのかけらもみられない」
「キー!」
腹立たしい子供だ!
「二人で話を進めないで……」
「ライル……」
泣きそうな顔でライルが言う。私とルイ王子は顔を見合わせた。
「仕方ないわね」
「仕方ないな」
私とルイ王子の言葉に、ライルが嬉しそうに顔を上げた。
「あなた、見張りね」
「しっかりドアの前にいろよ」
私とルイ王子を見て、ライルは絶望の顔をしたが、きっと気のせいだと思う。