The Mightiest Hero of Black ~My Party Members Betrayed Me so I’ll Stick With The Strongest Monster~
23 Stories Chasing in the Mountains
オルガンを出たシオンは野を越え川を越え、ハクに跨がってのんびりと道を進む。
魔奪石があるであろうロダン王国の国境付近の山までは、何事もなく到着した。
『ここを越えたらロダン王国です。でもこの山には良い薬草があったはずですよ』
「採取しながらいくのもアリかな」
『ええ、でも魔物も多いので気をつけましょうー』
首肯して、シオンは山を登っていく。清々しい自然の空気が鼻腔を心地よく刺激し、花を咲かせる野花も目に優しい。
カサ、と草木の揺れる音がして確認すれば、そこには黄色の毛をした動物がいて頬が緩む。
「ハク、仲間がいたぞ」
『こんこん、こんこんこーん』
狐に対して、全力で猫なで声にチャレンジするハクだったが、結果はあえなく撃沈。ビックリして狐は逃げ去ってしまった。
「どんまい」
『今年の目標、狐語覚えます』
「ははっ、頑張れ」
さすがに薬草の群生地は発見できないが、それでもチラホラと有用なものが幾つかある。
胃薬に用いられるリモ草、精力剤になるというレンリン草など。他にも薬草は様々種類があり、知識のあるシオンは良いことを閃いた。
「そうだ、入浴剤用に集めておこう!」
甘草や十草など数種類をブレンドして、血流を良くしたり温めたりする物を作っていくのだ。
あれもこれもとすっかりシオンが夢中になると、ハクは話しかけても生返事をされてちょっぴり拗ねる。
『……私、魔物でも狩ってます。何もしてない感ありますしー』
「気をつけてなー」
『はーい……』
引き続き、シオンはご機嫌に草を集めていく。一時間もした頃、巨大な猪の死体を見つけて少々驚く。ジャイアントボアという魔物なのだが調べたところ目立つ外傷がない。
強いて言うなら、泡を吐いているくらいか。
「死体が無事なのを見るに、襲われた人間が返り討ちにした? でもどんな方法だろう」
『シオンさーん、いっぱい魔物倒しましたよ〜』
「ああ、お帰り」
話を聞けば、狩りすぎて持って来れないというので闇袋で回収しにいく。素材としても売れるし、肉はいざという時の保存食として悪くない。
ハイドードーという腹の丸い大きい鳥が、喉元を一撃でやられて横たわっていた。
「ナイス、結構高く売れるぞこれ」
『ハイドードーは鳥なのにまず飛ばないので楽でしたよ~。むしろあっちが少し面倒で』
「おおおお、ワイバーン!!」
小型ではあるが飛行竜に分類される魔物で、手と翼が繋がっている強敵だ。基本空から下りてこず、剣士殺しの異名まである。種類によって火炎を操るもの、岩を吐くものなどが分かれる。
『ちょっかい出してきたので感電死させました』
「いいぞ、死体も綺麗だ。お、あっちのハイドードーも感電死か」
『あ、そっちのは私じゃないんですよー。誰かがやったみたいで』
状態からしてジャイアントボアを倒した者と同一かもしれないとシオンは推測。
――と、シオン達はほぼ同時に首を巡らせ、警戒の態勢を取った。ザザザ! と地面を擦るような音がして、何かが急に接近する気配を感じたからだ。
躍り出るように木の隙間から出てきたのは、人など丸呑みできそうな真っ黒な大蛇だった。
シオンとハクの対応は迅速で、左右から挟み撃ちにするような形で一気に勝負を決めにいく。
「わっ!?」
『あらら……』
が、シオンはギリギリで剣を振るのをやめ、ハクもまた振った爪を直撃せぬよう調整した。巨大蛇の太い胴体に、何と女性が跨がるようにしていたからである。
「ただならぬ気配がすると思えば、珍しいのがいたもんねえ」
「君は……」
「あたいはオーナ。こっちの美しいのはスネ子よ」
ペロペロッ、と細い舌を出し入れして凝視してくる黒蛇に対してシオンとハクは顔を見合わせ戸惑う。少なくとも美しくはないでしょう、と。むしろ怖い。
飼い主に似るのか、二十半ばほどの女性の方もつり上がった目と舌舐めずりが不敵な印象を与える。軽装で、一見武器は所持していない。
「見たところ魔狐かしら? よく手なづけたわね。優秀な従魔士と見たわ」
「従魔士ではないけどね」
「どっちでもいいわ。あたしのスネ子とどっちが優秀か勝負しようじゃないの!」
剣士が剣の腕で競うように、従魔士系はどちらの従魔がより優秀かと敵愾心を燃やす。
先ほどの魔物の死体は、あの蛇が締め付けて殺したのだろうとシオンの勘が働く。
全長でいえばハクよりも長く、先ほどの移動速度からするに相当な推進力もある。絶対に弱くはないだろう。
「男なら逃げないわよね?」
『シャアアア?』
「オスなら逃げないわよね、ってスネ子も言ってるわ」
普通にお断りしたいけれど、首を縦に振らないと今にも食いかかってきそうなプレッシャーがかかる。
「……で、何をすればいいのかな」
「賢明。簡単よ、あんたたち山を下りるんでしょ? そこまで追いかけっこよ」
バトルではない分、比較的穏やかだなとシオンは内心思う。すでに薬草も魔物も入手したので逃げ切って山を下りようと遊びに乗ることに。
断ってバトルを仕掛けられるよりはマシである。
「準備はできたわね。あたいらは、十秒経ってから追う。今の内に全力で逃げるのが賢いわよ」
『ではそうしますー』
大きく一歩目を出して風に乗り出したハクは、わずか数秒でトップスピードに入る。
『このまま一気に麓まで行きましょう』
「それがいい。ハクの脚なら逃げ切れる――――と思ったら……」
厄介なことに斜め前方からジャイアントボアが猛々しくこちらに突進してくる。シオンは背中から跳び、剣を魔物の額に強烈に突き立てて、素早く勝負を終わらせた。
決着後の静寂の間。
ここを狙ったように先端の尖った岩石がシオンを背後から襲う。
ガリッ、とそれをハクが口でとらえ、そのまま顎でかみ砕いた。
「攻撃してくるのかい……」
『みたいですねえ……』
土魔法を使ったのは後方から距離を詰めてくるオーナだ。ハクに乗り、再度走り出すが、激しく魔法を放ってくる上、なかなか狙いが良い。
そこでシオンは『闇玉』で魔法を吸収、そっくり跳ね返して進路を邪魔する。
「あわ!? あんた、やるじゃないの!」
「攻撃してくるなんて聞いてなかったけどなぁ」
「人生が始まった時、ルールを説明されたかしら? いつだってハプニングだらけなのよ、世の中はッ」
「なるほど、一理あるな」
それなら自分も手加減はしない、とシオンは闇玉にストックしてある『土壁』を黒蛇の進行上に出現させる。
地面を隆起させて固い土壁を創り上げる魔法で基本は防御に使うのだが、突進する相手に合わせればダメージも期待できる。
現に、速度の出ていた黒蛇は曲がりきれず衝突。衝撃で乗っていたオーナも放り出され、樹木に後頭部を打ちつけてぶっ倒れた。
『かっこよく決まりましたね〜』
「介抱は、不要だろう」
『ですね。自業自得ってやつです』
さすがに、そこまで善人はやれないとシオンは達はそのまま山を下りた。
しばらく進み、ようやく外国の地に入れると喜んでいたら背後から猛烈に追い上げてくるオーナ達がいて二人は嘆息を漏らす。
「まだ……何か用かい?」
「惚れた!」
「何だって?」
「だから、あたいはあんたに惚れた! 強いし度胸あるしカッコいいし、あたいの男にしてあげる!」
『シャアアア、シャポオオ、シャッポオオ!』
「自分より速いオスは初めて、好きにして! ってスネ子もそっちの魔狐に言ってるわ」
シオン達は少々唖然としてから、声を揃えて返答する。
「『お断りします』」
振られることを想定していなかったらしく、ショックでオーナもスネ子も微動だにしない。
この隙にシオン達は、さっさと場を離れることにする。
今度は追いつかれないよう、全力で大地を駆け抜けましたとさ。