街の中心に、この街では珍しい二階建ての建物があった。

剣と杖の交差する看板のあるその建物に出入りするのは、皆が皆鎧やローブ、武器を装備している者達ばかりで、その誰もが一般人とは、また少し風格が異なっていた。

そこは冒険者ギルド。

薬草採取から魔物討伐、護衛依頼までありとあらゆる依頼を受けられる仲介所だ。

そんな冒険者ギルドに、今日もまた新しい風が吹く。

完全な黒髪に深紅の瞳。

漆黒のコートを羽織り、その身の丈よりさらに大きな大鎌を持つ少年。

その様はまるで「死神」。

そんな、超絶イケメンな......

『いや、何語ってるの?』

いや、ちょっと、何でいいところで割り込んでくるのさ。

「途中までは良かったのじゃ、途中までは」

『そう、途中までは。というか、なんでわざわざナイトメア・ロードの大鎌取り出してるの、流石に街中でそれはやばいよ』

いや、カッコいいでしょ?

というか途中...? 何のことだろう?

あぁ、『新しい風が吹く』とか、『死神』とかが中二病っぽかったのか。いや、でもさ? 一応このコート死神のお下がりっぽいんだよね。鑑定してもそう書いてあったし...

そう聞いてみるが

『いやいや、そこは良かったよ? なんだかいい雰囲気だった』

「うむ、初期に比べたらなかなか上手くなったのじゃ」

初期ってなんだよ、プロローグとかか?

確かにあれは今見返しても酷いけど......

「って、お前たちは何の話をしているんだ? 途中って一体どこからの事だよ?」

全然分からないから話がズレて来ちゃったじゃないか。

全くもって僕には分からないな?

しかし、彼女たちは言った。

無慈悲に、声を揃えて、こう言った。

「『超絶イケメン、ってところから』」

......はい?

「いやいやいや、確かに『超絶』は言い過ぎた。だけどそんなに否定する事はないんじゃないか?」

実際、僕は自分をイケメンだなんて思っちゃいないし、自分でも冗談半分だった。

だけどさ、ちょっと酷すぎないか?

あまりにも慈悲がなさ過ぎるッ.....!

『冗談半分って......半分本気だったってこと?』

ギクッ......いやぁ、それは言葉の綾って言うか...。

『はぁ...まぁ、早く入ろうよ」

そんなくだらないことを話しながらも、僕たちはギルドの中に入っていったのだった。

ちなみにさっきのはギルド前での出来事であった。

☆☆☆

両開きのドアを開けてその中に入る。

「うっ、お酒くさっ......」

ギルドの中は入口から入って右側に受付らしきカウンターが並んでおり、そのそれぞれに受付の人が立っていた。男女比であれば...3体7くらいだろうか? もちろん男が3だ。

逆に反対の左側には酒場と......なんだろう? 左側の右半分は酒場で占められており、カウンターには年配のマスターがコップを磨いている。ちなみにウェイトレスさんはミニスカのお姉さんたちだった。

問題は左側だ。

入ってすぐの所にあるそのカウンターには低身長のおじさん──恐らくはドワーフだろう──が居た。うーん、鍛冶屋......なわけないしなぁ......

(あそこは買取所だよ、それより登録しないの? 結構注目されてるけれど......)

......へ?

改めて周囲を見てみると酒場に居た人たちも受付の人たちも、ほぼ全員がこっちを見ていた。

うーん? 横に居る白夜が目立ってるのだろうか?

確かに銀髪に赤い瞳をした美幼女が入ってくれば、確かに注目はするだろうが......

(流石に全員はなぁ.....コイツら全員ロリコンなのか?)

(何言ってるんだか......)

まぁ、ここにいても邪魔だろう。

そんなことを思った僕は、1番近くの受付に向かった。

まあ、なんだか見られてるのは緊張したし、端っこの方に行けば視線も無くなるのではないか? と思ったからなのだが......

うん、やっぱりその人もこっちをガン見していた。

......やりづらいなぁ。

「すいません、冒険者になりたいのですが......」

「.........」

......え? 無視?

受付の人──ちなみに女の人だった──は、ぼけーっとした感じでこっちを見つめている。......惚れちゃったか?

(そんなわけないじゃん......)

分かってるよ、そんなこと。

まったく酷いこと言いやがる...

「......はっ!?」

あ、やっと気づいた。

「すっ、すいませんっ! 冒険者登録でよろしいでしょうかっ!?」

「......はい。まぁ、よろしいです。あ、これ渡せって言われてきたのですが」

僕はそう言ってブルーノからの手紙を手渡した。

「? わ、分かりました、少々お待ちください......」

彼女は少し戸惑った様子だったが、その手紙を持ったまま奥へと引っ込んで行った。

(なぁ、恭香? さっきのお姉さんはどうしたんだ? なんだか僕の方を見つめていたような気がしたんだが...)

真面目な話をすると僕の顔は決して悪くは無いが、良くもない。この世界では感性が異なっているのかも、とも思ったが、白夜の雰囲気から察するにそんな事もないのだろう。

ならば先程のお姉さんは、僕の一体何処に驚いていたのか、そして固まってしまったのか?

それは恭香の一言で明らかになった。

(それはやっぱり髪の色、ですね)

恭香曰く、このギルドにも、ひと月に1度──ちなみにこちらでの1年は360日で、12ヶ月制の週6日だ──くらいは、髪を黒く染めた新人が現れるらしい。迷い人の偽物だ。一時は注目を集めるのだが、それでもすぐに偽物だとバレるらしい。黒い髪の隙間から赤やら青やらの髪が覗いているのだ、それもそうだろう。

今回も皆が皆、『また偽物か』と。今度はどんな馬鹿だ?と。そんなことを考えながらも僕の髪を確認したのだろう。

その結果が......

((((え? アイツ本物じゃね?))))

という感じらしい。

...あ、髪のこと忘れてた。

はぁ、今回もお約束は無しかぁ......。

と、残念な気分で肩を落としていたのだが......

「ゲハハハハハハッ! おいおい見ろよ! 今回の偽物は餓鬼じゃねぇかっ! これは傑作だぜっ! 坊やはとっとと家に帰ってママのおっぱいでも飲んでたらどうでちゅかぁ!? ゲハハハハハハッ!!」

どうやら運はまだ僕を見放していなかったようだ。