The Road to One Day Be the Strongest
Lesson 105
僕は馬車にバハムートを繋げ、オリビアにペガサスを預けると、皆に馬車の中を案内する事にした。
───ただでさえ大きな馬車が空間拡張によってさらに大きくなっているのだ。それこそ、巨大な一軒家の如く。
「それじゃ、案内していくぞー」
「「「「「おおぉっっ!!」」」」」
うん、きっとあれだな。
僕の掛け声には聞く人をノリノリにする呪いでもかかっているのだろう。
そんなことを思いながらも、僕は馬車の扉を開ける。
「えー、まずここ、玄関とそれに付随するホールね?」
───扉の先に広がっていたのは、僕が昔住んでいた、実家の玄関だった。
広く設計された、玄関に、ホール。
それでいて何処も丁寧に造られているのだから、実際にこれを作った人は本当にすごい人だったのだろう。
───ちなみにこれは、恭香に調べてもらいながら万物創造で作ったものだ。
その様に思わず目を丸くして驚く一同。
「す、すげぇなこりゃあ!?」
「こ、国王様......これは王宮以上の質では......?」
「あ、あぁ、王都に着いたら俺の部屋の改築も依頼しねぇとな」
「ふむ、ならば騎士達の休憩場もどうでしょうか?」
「おお! いいじゃねぇかっ! 俺は前々から木造スタイルに憧れてたんだよなっ! もう全部"和の国"スタイルにしちまうか!?」
「国王様、和の国に憧れないものなど居りませんよ?」
「ハハッ! そうかそうかっ!」
さも当然のように一緒に来ているエルグリッドたち。
───それにしても、和の国、か。もしかしてこの大陸には日本の文化を受け継いだ国......或いは街があるのかもな。
「そんじゃ、案内するからここで履いてるものは脱いでくれ」
ここは一応和風住宅をモデルとしてるからな。土足で上がられるのは、少し───いや、かなり抵抗がある。
───そう思って言ったのだが、
「えっ!? よ、よろしいのですかッ!?」
僕はコイツ(露出狂)の存在を完全に忘れていたようだ。
「わ、私っ! こ、このスカート脱いだら下半身全裸になってしまうのですがッ! 本当によろしいのですねッ!?」
「「「「「ブフッ!?」」」」」
思わず吹き出す男性陣。
「お前なんでパンツ履いてねぇんだよっ!? そもそもそんなことをいつ僕が許可をしたっ!?」
「ふっ、甘いですね。私が着用していない下着が、下だけだとでも? ......下着だけに」
「うまくねぇよっ!? というか上も付けろよッ!? 馬鹿? 馬鹿なんですかお前は?」
「馬鹿ではありませんよ?」
「.........なら何なんだよ?」
「ただ、見られるかもしれないも言う事に興奮している変態です」
「.........あぁ、そう」
「ギン......お前も苦労してるんだな」
「こんな苦労人に王宮の改築なんて頼めないですね......」
「あぁ.........、ギン、頑張れよ」
少しでも放置すれば恍惚の表情を浮かべている白夜(現在進行形)
少しでも放置すれば右腕の疼きがどうのこうの言ってる輝夜(現在進行形)
少しでも放置すれば変な名前をつけるレオン(現在進行形)
少しでも放置すれば下着を脱ぎだす暁穂(現在進行形)
もう、泣きそうです。
閑話休題。
「ぐすっ、こ、こっちが......居間......だぞ?」
「いや、閑話休題ならきちんと切り替えなよ?」
分かってる、分かってるんだが.........、何故だろう? 目から汗が止まらねぇんだよ。
───ここに癒し(オリビア)が居ないのが悔やまれるばかりだ。
「んじゃ、改めて、ここが居間で、見ての通り、御者の座ってる所.........なんて言うかわかんないけど、あそこに直接繋がってるから」
「......いきなり立ち直ったね?」
そりゃあ、いつまでもメソメソしてても仕方無いからな。
白夜のは僕には害がないと割り切って、輝夜とレオンはもう完全放置。暁穂に至っては逆にパンチラ(ポロリしかないよ?)を狙っていくくらいの気概でないといけないだろう。
「......うん、模範解答だね」
流石の恭香でも『性格を矯正する』というのは考え付かなかったらしい。何故ならコイツらは手遅れだからだ。
それで、その居間の内装としては、かなりの人数が座れるような円卓に人数分の椅子が中央に置かれ、それに加えて壁のうち一面を数冊だけ入った本棚が占領、逆側には自作のソファーと、ゼウスから貰ってきたスマ○ラ一式に薄型テレビ(破壊不能)が設置されている。
そしてその馬車の全面には大きめの扉が開いており、そこから直接。御者さんの座ってる席へと行ける、というわけだ。
───え? スマ○ラ貰ってきてよかったのか、って?
ゼウスってば、あのスマ○ラセットを二つも用意してたんだぜ? 照れて「こ、これ......お土産...?」って言って数冊の本と一緒に渡してきたんだよ。正直、めっちゃ可愛かったです。
「そんじゃ、どんどん案内していくからついてこいよー」
「「「「「おおおっっっ!!」」」」」
結局その後は、食堂に、各人の部屋、簡易訓練室、筋トレ室、トイレ、風呂、客室、僕の書斎へと案内し、時刻は丁度午前六時を回ったのだった。
───魔法って便利ですね。
☆☆☆
「よし! 出発だ! 行け! 伽月(かづき)!」
「こっちも行くのですっ! 藍月(あいか)ちゃん!」
グガァァァァッッ!
ヒヒィィィィンッ!
この馬車───月光丸一号を引くのはバハムート、伽月。
それに並走する様に出発したのはオリビアを乗せたペガサス、藍月だ。
───ちなみに、今回は二人の名前は僕が。馬車の名前はレオンが考えた。
たまにはマシな名前も考えつくものですね、お互いに。
それで今、僕は何をしているか、と言うと、恭香に教えてもらいながら御者に挑戦していた。
伽月に色々と指示しながらも何とかやっているが......難しいな、これ。
───ちなみにほかの奴らはスマ○ラに熱中しています。
声から察するに、どうやら輝夜が一人勝ちしているみたいだ。
まぁ、あれだけ賢さと器用さに特化してたらそれも仕方のないことかもしれない。
まぁ、唯一太刀打ちできるのが暁穂くらいか?
「ぬぁぁぁぁっ!? 妾のカー○ィがっ!?」
「俺のファル○ンがぁぁぁっ!?」
「に、逃げてくださいピー○姫っ!!」
「ふふふっ! よくもやってくれましたねッ!? 行くのですア○クっ!」
「クハハハハハハッ!! みんな纏めてマ○オのサビにしてくれるわッ!」
そんな声が後ろから聞こえてくる。
───はぁ、楽しそうで羨ましいよ。
あぁ、ちなみにレオンは伽月の頭の上にちょこんと乗っかっている。後ろ姿がカッコイイぜ。
すると、
「それにしてもギンの新しい服、結構カッコイイね」
恭香がいきなりそんなことを言い出した。
ピタッと止まる、後ろの声。
「ん? あぁ、これか? さっき換装の指輪で衣装を一新したんだよ。神の布と換装したらデザインした通りの服一式になってさ」
僕は今の服装を見下ろしてそう言った。
黒い長袖のワイシャツに、赤いネクタイ。
その上から黒地に銀色の線の入ったショートコート、背中には銀色の紋様が描かれている。
下は黒のズボンに、足裏に赤い線の入った黒いロキの靴(ブーツ)。
そして首元に赤いマフラーをしている、といった格好だ。
───見た目だけなら派手なマフラーをしたライダーさんにも見えなくもない。暗がりでパッと見、の話だが。
「僕は執行者モードで軍服姿にはなれるからね。今回は戦闘服と私服を両方こなせるような服を作ってみたんだよ」
それになんだか、最近は冷え込んできたからね。
と、そんなことを言った。
───のはいいのだが、
「おっと、動くなよお前ら」
僕のすぐ後ろまで迫っていた奴らに向かってそう言い放つ。
実は御者の席は直接居間からは見えないよう、一枚壁を挟んでいるのだ。外の様子は見えるが、御者の様子だけは見えない。そんな壁だ。
その上、僕がこの衣装に着替えたのはここに座ってからだ。
───つまり、今真後ろまで迫ってきている奴らは、僕の姿を見ようと興味本位で寄ってきている、というわけだ。
「だがな? 遊び呆けている馬鹿どもに僕のわざわざ新衣装を見せるわけがないだろう? それ以上近づくと換装の指輪で元に戻すからな」
そう、これは護衛依頼。少なくともス○ブラで遊んでいていい様な状況ではないのだ。
まぁ、今は僕が常に半径三十キロ圏内の3Dマップを展開しているから、万が一の事態は起きないのだが。
───それこそ、エルザ並の実力者でなければ。
「あぁ、疲れるなぁ。僕と恭香、レオン、オリビア、それに加えて子供二人だけで辺りを警戒し続けなきゃならないんだもんなぁ。僕の空間把握も常時十五メートルくらいから拡げると精神的に余裕が無くなっちゃうんだよなぁ」
「「「「うぐぅっ......」」」」
馬鹿どものの呻き声が聞こえる。
───もちろん嘘である。
確かに僕は常日頃から発動している半径十五メートルの空間把握───つまりは3Dマップから拡げると精神を少しずつ削られてゆく。
それが今は三十キロだ。もし魂耐性と並列思考が無かったら完全に精神が削り取られていただろう。
だがしかし、僕は吸血鬼だ。
確かに辛いし、頭も少し痛いが、それでも耐えられるレベルのものでしかない。耐えられなくとも、すぐに回復する。
もしも本当に余裕をなくす状態というものがあるなら、それは常時半径百五十キロ程まで伸ばした時だろう。瞬間ならもう少し行けそうだが。
───ちなみに暁穂は"誠実の片眼鏡"をかけているが、僕の事を直接見ていないので嘘かどうかは見抜けない。ざまぁみろ。
「確かにギンも性格悪いけど.........まさか従魔や王国の騎士ともあろう者が、護衛中に主や上司に警戒を任せっきりにして遊んでるなんて.........少しガッカリだね。私がギンの服の事言ってなかったらいつまで遊んでたのかな?」
「「「「「ぐぅっ!?」」」」」
珍しくマジギレしている恭香。
恭香の口撃はまだまだ止まない。
「もしもエルザさん並みの隠蔽の達人がここを襲ってきたらどうするのかな? ギンと私、レオン君だけじゃ勝てない相手だったらどうするのかな?」
息を呑む声が後ろから聞こえてくる。
あらあら怖い怖い。
そんな呑気なことを思った。
だって恭香が言ってるのって、全部真実だし?
───それに、口を挟んで巻き添えに遭いたくないし。
「私は基本的に(・・・・)死なないからいいけど、不死とは名ばかりのギンや、防御力だけが取り柄のレオン君、それにまだ弱いオリビアに伽月ちゃん、藍月ちゃん、それに依頼人であるエルグリッドさんはどうなるかな?」
とばっちりが来てしまいました。
胸を抑えて倒れ込むレオン。それを何とか頭で受け止める伽月。ションボリするオリビアペア。そしてまぁ、当然だな、と頷いて見せるが内心ボロボロの僕。
───お願いだからこっちには口撃しないでね?
ふと後ろをスキルで確認すると、何故だかみんな涙目だった。
.........もう少し我慢しなさい。
「皆は遊んでるってことはそうなってもいいんだよね? 好きな人が、仲間が、上司が、さっきまで生きていた人が、自分たちが遊んでいる間に動かなくなっても───死んでも、さ?」
ぶんぶんと、首を横に振る五人。
......可哀想な奴らだ。
(そろそろやめとけよ?)
流石に可哀想になって僕がそう念話すると、恭香はニッコリと笑って、
(ふふっ、少しキツめに言っとかないとね。特に内二人は二回目だし? まぁ、もう終わるからちょっと待っててね)
と返してきた。
───鬱になって僕の出番、とかにならないなら、まぁいいんだけどさ。
そんなことを考えていると、恭香は仕上げに入ったようだ。
「あれっ? 返事が聞こえないね? 死んでもい...」
「「「「「イヤでずっ!!」」」」」
鼻声だった。
「へぇー、ならギンの衣装を見る前にやることあるんじゃないの?」
「「「「「ずみばぜんでしだぁぁぁっっ!!」」」」」
後ろを振り返れば土下座している五人。
「は、はははっ、ま、まぁ? 基本的には僕が周囲の警戒してるから、いつでも対応できるようにしておいてくれればいいよ」
「「「「「あ、ありがとうございまずっ!!」」」」」
思わず苦笑いをしてしまう。
「はい、それじゃあゲームはしててもいいけど程々にね、常に周囲に警戒し続けること。分かった?」
「「「「「了解しましたっ!」」」」」
「.........お前ら何してんの?」
「さぁ? なんだろうな?」
僕は馬車に乗ったまま近づいてきたエルグリッドに、そう答えることしか出来なかった。
「それよりエルグリッド」
「あん? なんだ? オリビアはやらんぞ?」
何故すぐにその話題になるんだ.........?
「いや、そうじゃないんだけど......ぶっちゃけそっちの方が重要だからそれについて話そうか?」
「おういいぜ? でもその前にお前の要件先に済ませとけよ」
あぁ、そう。なら遠慮なく。
「この先に、盗賊が百人くらい待ち伏せしてるぞ?」
「「「「「.........えっ?」」」」」