The Road to One Day Be the Strongest
Lesson 113
肌寒い風が肌を撫でる。
───ほんと、なんでこんな時期に武闘会なんて開いたんだか。
僕は今現在、出場者用の席に座って試合が始まるのを待っていた。
もちろん残り五千人全員がそのまま収まる席の数ではないが、出場者のうちほとんどが地下の控え室や訓練室などに篭っているのか、案外ガラリと空いたものだった。
「よし、明日からは毛布を持参するとしましょうか」
「毛布持って武闘会を観戦する人なんて居ないと思うけどね?」
今現在、観戦席に座っているのはレオンとマックスを除いたパーティメンバー全員に、例の三人を除いた勇者達だ。
───ちなみに暁穂たちは関係者、ということで特例だ。どうやら獣王の許可も難なく降りたらしいし。
「それでブラッドさん、貴方はこの試合、誰が勝ち抜くと思っているのかしら?」
「銀くんのパーティの二人......大丈夫かなぁ......?」
「ええっ、あの方々が皆さんのお知り合いのお仲間さんなのですかっ!? 子供じゃないですかっ!!」
.........前から思っていたが、このシスターさんは何者なんだろうか?
まぁ、後で恭香にでも聞いておこう。
「クフフ、暫しお待ちを」
僕はそう言うと、空間把握の範囲を広げ、この会場すべてに行き渡るようにさせた。
目線もステージの中へと移し、そこに居るおよそ千名の姿を視認でも確認してゆく。
さてさて、第一陣で強そうなのは............?
───あれっ?
「.........なぜあの人(・・・)が出場しているのでしょう?」
僕の空間把握に、間違いなくあの人(・・・)の魔力が感知された。
なんで出てるんだ、あの人.......あっち(・・・)は大丈夫なのだろうか?
「獣王さんがいるからね、お姉ちゃんでも突破は難しいよ」
.......なるほど。なら理屈は通るのか......?
「鮫島殿......正直に言っても宜しいですかな?」
鮫島さんは、眉間に皺を寄せて怪訝な顔をして頷く。
───さっき、僕は『この五人で決まっちゃうかもな』と言った。それを撤回せねばならなくなったかもしれない。
あの人が出るならば、
「もしかしたら、黒髪の時代の全員が勝ち残れるとは限らなそうですな」
───最悪、レオンとあの人の二人勝ちにもなりうるからだ。
☆☆☆
場所は変わり、ステージ内。
「それで? 銀は見つかったのか?」
久瀬は落ち込んで肩を落としている二人に向かって、答えのわかりきった質問をした。
「ぜんっぜん影も形も見当たらないよぉ.........」
「私のパーティにも手伝ってもらったのですが......」
それもそうだろう、僕はここにいるのだから。
.........へっ? どうやって客席から音を拾ってナレーションを担当しているかだって?
それは簡単、空間支配の
『地獄耳』『鷹の目』を同時使用しているからだ。
ちなみに能力は文字通り『ありとあらゆる音を聞き取り、邪魔な音を除外する』『空間を歪ませ、遠くのものを見通す』って能力だ。わかりやすいだろう?
それにこの世界においてレベルの高い人物はそれだけ全ての能力が桁違いに上がっているのだ。でないと千人の名簿から自分の名前を探すことなんて不可能だ。
閑話休題。
「おっ、お前ら、こんなところに居たのか?」
「流石に千人は多いのである」
どうやらそこへ、マックスとレオンが合流したらしい。
「ん? マックスさんとレオン君.........であってるよね?」
「おう、呼び捨てで構わねぇぜ! お前らもギンの友達なんだろ?」
「主殿の友ならば自分らの友でもあるのだ」
「......前から思ってたが、その"主"ってのは何なんだ?」
「うむ? 主殿のパーティメンバーは大半が人外であるからな。テイムされた魔物が主を主と呼ぶのは普通である」
「ええっ!? 貴方って魔物ですのっ!?」
「ぼ、僕も人間だと思ってたよ.........ちなみにランクは?」
「あー......今はEXだったか?」
「うむ、レベルはここ一ヶ月でもほとんど変わっておらぬだろうからな」
「「「EXッ!?」」」
大会直前だってのに呑気なヤツらだな。
だが刻一刻と迫る開始時間を鑑みたのか、マックスが本題に切り出した。
「それで、俺たちがお前らを探してた理由だがな、ギンからの新しい伝言を預かってんだわ」
「「「なぁっ!?」」」
レオンの圧倒的なランクに驚愕し、本題でさらに驚愕する三人。そのうち目ん玉でも飛び出すのではなかろうか? ってくらいに目を見開いている。
特に女子二人。お前らに関しては、ちょっと描写を躊躇っちゃうような顔になってるぞ?
「ぎ、ギンって.........まさか今も俺たちのこと見てるのか?」
「......多分ガン見してるんじゃねぇか?」
「主殿の視線をビンビン感じるのである」
コイツらもなかなかどうして僕のことを分かってきたじゃあないか。もちろんガン見してるに決まってる。仮面の下でね。
流石に無駄話はここら辺でいいだろうと思ったのか、マックスは僕からの伝言をぶちまけた。
「それで伝言なんだがな『本番は本戦からだぜ? そいつらと協力していいからせめて予選くらいは勝ち抜けよ? ......まぁ、無理かもしれないがな、クハハッ!』だそうだ」
一瞬、周囲を静寂が占める。
───なぜ会場中の誰も喋らないのだろうか? 時でも止まったか?
だが、どうやらそれはたまたま偶然のことだったらしい。
ステージの一箇所を除いて。
あまりの馬鹿にした発言にこめかみに青筋を浮かべ、笑顔のまま凍りついたかのように動かない三名。
「それから『断ってもいいが.........まぁ、それで予選落ちしたなんて言ったら僕、腹よじれちゃうかもしれないからやめてよね?』って伝言も受けているんだが.........どうする?」
またも会場中が静寂に包まれる。
───もしかしてこの会場の人全員がアイツらの会話を聞いているのだろうか?
だが、今回の静寂は三つの『ブチッ』という音で幕を閉じた。
───そして、
「上等だコラぁぁぁっ!! どんな手を使ってでも勝ち残ってやんよッ!!」
「僕たちを馬鹿にするのも大概にしなよっ!? ホントに怒ったんだからっ!」
「おーっほっほっほっ! 今回ばかりは手を組まざるを得ないようですね!」
まんまと釣れた三匹。
───こうでもしないとあの人(・・・)には勝てそうにないからな。僕からの有意義な贈り物だ。
「それと最後に『もしも万が一、五人揃って本戦に進めたら、僕の居場所に関するヒントをひとつ、授けよう』だってよ。それじゃ、よろしく頼むぜ?」
「うむ、一時的な共同戦線、であるな」
こうして、レオン、マックス、久瀬、穂花、鳳凰院の臨時パーティが組まれた。
『時間となりましたので! これより第一次予選を開始いたしますっ!』
さてさて、レオンには「なるべく手を出すな」と伝えてあるし.........どこまであの人に通用するかね?
『用意はいいですかっ!?』
先程とは一変して、緊張感に溢れる静寂が会場中を占める。
───そして、
『第一回戦! 開始ですっ!!』
───爆発のような歓声が鳴り響いた。
☆☆☆
それは、試合開始直後のことであった。
その大歓声の中を、一人の男の声が聞こえてきた。
「『我は聖剣の担い手なり』」
その声に叫ぶような質はなく、まるで隣人に話しかけるかのような、そんな声だった。
「『我担いしは、絶対の勝利の剣』」
いつの間にか、会場中からは音が消えていた。
───誰もがその声に、聞き入っていた。
「『かの剣に敗北は無く、その担い手に敗北は無い』」
瞬間、ステージの中央部から黄金色の魔力の本流が溢れ出す。
───なるほど、これが本物(・・)か。
「『我が名はアルフレッド(・・・・・・)。我が魔力を鞘とし、顕現せよ!』」
そうして、あの人────アルフレッドは、剣を召喚した。
「『聖剣! エクスカリバー』ッッ!!」
瞬間、ステージが黄金色の波動に包まれた。
───ゼウス.........、何が"大したことない"だよ。
間違いなく、潜在能力で言えばアダマスの大鎌と同格だぞ? あの聖剣。
───ちょっとだけ.........見栄張った。
そんな幻聴が聞こてくるようだった。