The Road to One Day Be the Strongest
gossip manoeuvre fortress absolut
「へぇー、なかなかいい所じゃないか」
あの後「その一帯の土地はくれてやる。だがクランを結成するならその名前とクランホーム建ててから出直して来い」との事だったので、僕は一人、エルグリットに指定された土地へ訪れていた。
王都からはさほど遠くはなく、王都、魔法学園都市、そしてここから最寄りの街『オルト』がちょうど正三角形のような位置関係になっており、この場所はその街から馬車で十数分というところに位置していた。
───が、それよりももっと素晴らしいと思えたのが、ここの環境である。
街の近くにある草原。
森がすぐ近くにあり、川が流れ、山も見える。
そんな絶妙な位置に存在するゆるやかな丘、そこがエルグリットが自信を持って選んだベストプレイスであった。
王都が比較的近く、更には賑わいのある街もすぐ側にあって、さらに食料を自給自足できる。
いい場所がなければパシリアにて戻って領主さんに相談しようかと思っていたが......、どうやらここに決めても良さそうだ。
僕はそうと決めると、「さて、あとはクラン名と家をどうするかだけだな」と、仲間達へと連絡を取ろうとスマホに手を伸ばした。
───その時だった。
ブブブブッ、ブブブブッ
「......え?」
───スマホが鳴らすバイブレーションに、少し嫌な予感を覚えた。
☆☆☆
《期間限定!》オススメ! 一回限定無料ガチャ!
EX~Aランクのいずれかが当たる超ビックチャンス!
何が出るかは全くの不明! 運が良ければシークレットレア! 運が悪ければデブ貴族の糞尿!※中間もあります。
残り時間 ──
「......で? なんでガチャから(・・・・・)家が出てくるんだ?」
そんな表示が出てからおよそ一時間。
この場所へと白夜に乗って飛んできた仲間達と僕の目の前にあるのは、例の丘に建っている大きめな一軒家であった。屋敷と言うには少し小さく、一軒家と言うには大きすぎる。そんな三階建ての一軒家。大きさで言えば、少し大きめなギルドとか、きっとそんな感じだろう。
何故こんなものが出てきたのかは全くの不明ではあるが、ガチャを引いた時に現れたウィンドウに書かれていた、この家の正体としてはこうである。
【シークレットレア!】
《名前》
機動要塞アブソリュート
《品質》
error
《種類》
アイテム
《状態》
色々ついてる(解消可能)
《説明》
全てを守る最強の起動要塞。
用途によって姿を変え、場合によっては自身で安全な場所へと移動したり、強力な障壁まで張ることが出来る。
完全破壊不能属性付与、空間拡張付与、自動迎撃、超障壁、衝撃吸収、形態変化、防音、防熱、空気洗浄、快適空間、眷属召喚
......どこからツッコメばいいのかすらも分からない。
僕の記憶としては......、僕はガチャのボタンを押し、それと同時に画面にガチャガチャの映像が現れた。
僕は少しためらいながらも、残り時間が少なかった為、勇気を振り絞ってそのボタンを押し......、
───気付いたら目の前に家が建っていた。
そんな感じである。ちなみにウィンドウが現れたのはその直後のことなので、「妖魔眼を持ってる僕が......幻覚に!?」とか思って驚いて警戒してたた時期があったことは否めない。
だが、流石にパーティ内運勢序列三位である僕といえども、ガチャから家が出てくるのは予想外だった。
僕はため息を一つ吐いて背後を振り返ると、そこには僕の話した内容にフリーズしている仲間達───今回ばかりは藍月と伽月、更には世界神であるエロースまで、全員が全員唖然としている。
───なるほど、きっとこれ作ったの父さんだな。
僕は彼女らの驚きよう───主に恭香とエロースの驚愕と、品質errorの文字。それらからそう判断すると、僕は再び深いため息をついたのだった。
☆☆☆
その家の中はとんでもない事になっていた。
まず、入ってすぐに大きなロビーが広がっており、長机や椅子も付いた小さな喫茶店と受付のカウンター、そして各部屋へと続いているのであろう通路があり、掲示板やら案内板まで完備されている。
ロビーの中心付近には、何やら投影機のようなものと、休憩用なのかソファーが幾つも設置されており、その投影機は壁ではなく真っ直ぐ天井へと向けられていた───が、残念ながら今は作動していないらしい。
まるでギルドをさらに快適に、ハイテクにしたようなそのロビーだけでも十分なのだが、まだまだこれで終わりではないのがアブソリュート。
ロビーから直接繋がる広大な訓練場と相談室。関係者以外立入禁止の制約が付与されている通路の向こうには幾つもの部屋が完全完備されていた。
その中には鮮度を完全に保てる食料庫や、月光丸に付いていた研究室や作業室、更には天然温泉やその他諸々までついていた。
しかも、その全てが月光丸よりも遥かにグレードアップされているのだからかなりのものだろう。
ちなみに一つの部屋面積だけでも一軒家の敷地ほどあって、防音防熱に衝撃も吸収されている。その上自らの好みに合わせて部屋を改造できるようなサポートもついていた。完璧すぎるだろ、おい。
更には快適空間のスキルによって、常に家そのものが綺麗に保たれているため掃除の必要はなく、付近に生息する魔物達や野生動物を狩れば食料の心配もない───あ、もちろん、水は通っているため食料だけ気にしていれば問題ない。
───まさに完璧、パーフェクトだ。
まさか品質errorとはいえここまで素晴らしいものだとは思っていなかった......いや、父さん(ウラノス)がここまで過保護だとは思っていなかった、と言った方が正しいかもしれない。
「ま、父さんの事だから『ハッハッハー、確率滅茶苦茶低いから当たるわけないよねーっ! もし当たったら奇跡......ってあれ? なんで当たってるの?』とか言ってるに違いない」
僕はそんなことを呟きながら、自らの部屋を改造していた。
形は長方形にし、部屋を二つに割って、一階と二階に分けてみた。
壁際にはビッシリと並べられた本棚の数々。
扉から入ってすぐの一階には、ソファーやら机やらを設置し、その最奥には執務机。本棚を一部削ってトイレもキッチンも完備した。
二階へ行く為には部屋の左右に設置されている階段で上がるしか方法はなく、無理矢理その二階へと飛び上がる方法もあるが、二回の床はそれなりに高く作ったため、一般人には不可能であろう。
二階は一階とは違い、完全なプライベートルームだ。
L字のソファーに、少し低めの大きな机。
大きめのベットに、使い道はないがテレビまで設置した。
一番奥の長方形の短辺にあたる場所には大きな窓を作り、まさに僕の理想のプライベートルームと化している。
部屋全体で見れば長方形だが、一階と二階で半分に分けているため、それぞれの階は正方形と言ってもいいだろう。
───本当は一階を長方形、二階を正方形にして、二階に関しては床だけ、って状態にしようかとも思ったが、やはりしっかりと土台があった方が安心できるだろうという考えから、今のようなデザインに変更したのだった。
この部屋を改造し始めてから、はや数時間。
ふと窓から外を見れば、もう既に空は赤く染まっており、もうそろそろ夕食の準備をし始めてもいい頃である。
僕はぐぐくっと身体を伸ばしてからふぅと息をつくと、もう一度その部屋を見渡してから、新たな自分の部屋にウキウキしながら部屋を出たのだった。
───さて、今晩は一体何を作ろうかな? と、そんなことを考えながら。
☆☆☆
これでも改装工事は結構早く済んだつもりでいたのだが、どうやら僕よりも早く終えていた奴がいたらしく、ロビーとは別にある僕達専用の居間には先客が居た。
「あれ? 早かったですね、ギン(・・)」
「おまえの方が早かったみたいだけどな」
赤い髪を後ろでまとめてポニーテールにした紫目のお姉さん───アイギスの姿がそこにはあった。
ちなみに僕に対する呼び方が変わっているが、残念ながら僕らは付き合っている訳では無い。僕が「これだけ一緒にいるのだから今更さん付けはよしてくれ」 と言った結果こうなったのだ。当時は可愛らしく恥ずかしがっていたのだが、今では定着しつつあるようだ。
───ちなみにオリビアとネイルに関しては断られました。オリビアに関しては『ギン様』だもんな。もう慣れたけど。
「なぁアイギス、晩飯の仕込み今から始めるけど、今日はカレーでもいいか?」
この時間帯から作り始められて、かつ寝かせれば寝かせるほど美味しくなるものなんて、カレー以外に思いつかない。
というわけで、僕がつい先日開発したカレーのルーを使った特製カレーでもいいか、と聞いたのだが、やはりアイギスにその質問は無意味だったようだ。
「カレーですか!? 大好物ですよっ!」
アイギスは立ち上がって胸の前で両拳を握ると、ふんすー、と鼻息を荒くしてそう叫んだ。叫ばなくても良かったのではないかとは思うが、やはりアイギスは子供っぽい所があるな。
───それがステータスの『忌み子』というところから来ているのかは分からないし、僕達も無理に聞き出そうとも思わないが......、まぁ可愛いしよしとしよう。
「それじゃ、早速作り始めますかねー」
僕はそう言って台所へと向かう
───その時、視界の隅に何かが映った。
「ん? 誰か来たのか?」
僕は視線を向けると同時に空間把握を広げる。
───だが、その視線の先には壁があるだけで誰も居らず、三十メートルまで広げた空間把握にも生命の反応は僕とアイギスしか映らない。
「ギン、どうかしました?」
カレー作りを手伝うつもりか、後ろから僕のあとをついてきたアイギスが、不思議そうに僕の顔を見上げる。
可能性としてはエロースしか居ないが......、あのポンコツがこんな面倒なことするとは思えない。やるとすれば隙を見て僕に抱きついてくるくらいだろう。
ということは、アイギスは今のを見なかった、という事か。見ていてくれたなら見間違えかどうか確認でき......
あははははっ!
「「───ッッ!?」」
おいおいちょっと待てよ、今なにか子供の笑い声がしなかったか?
僕は聞き間違いかな? とか思い込んでアイギスの方を見ると、明らかになにかに怯えた様子のアイギスが、蒼白い顔で僕の服を握りしめていた。
「あ、あの、ギン? い、今笑いましたか?」
───笑うわけがない。そもそも、こんな状況下で笑えるほど僕のツボは浅くない。
それに加えて言うならば、今現在。僕の頭の中には猛烈に嫌な予感がしている。
ついでに言えば、僕の本能が、それは正しい、と嫌になるほどに叫んでいる。
ふと、僕の頭の中にある文字列が浮かんできた。
《状態》
色々ついてる(解消可能)
そして僕は考えるわけだ。
『ついてる』ってもしかしなくとも家具とかそういう事じゃなくね? と。
『ついてる』って多分『憑(・)いてる』だよね? と。
ガタンッ!
「「ひぃっ!?」」
いきなり物音がして、恐る恐るそちらを振り返ると、そこには先程まで机の上に置いてあったアイギスのマグカップが床へとこぼれていた。
「な、なんだよ......、一瞬日本人形でもいるんじゃないかって思っちゃったじゃ.........ってあれ? アイギスさん?」
僕は少し安心して一息ついたが、アイギスの様子は僕と全くの正反対。先ほどまでの震えがなお酷くなり、服だけでは我慢出来なかったのか僕の腕を抱きしめてきた。もちろん今のアイギスは私服なのでいい思いしてます。
そんなことを思ったが、アイギスの怯えようは少し尋常じゃない。もしかして彼女には僕の見えない何かが見えているのだろうか、とそう思い室内を見渡すが、何か見える様子もない。
「ぎ、ギン......、あ、ああ、あれ......見てくださいっ!」
僕がキョロキョロしているとアイギスは震えた声で、床へと落下したマグカップを指さした。
僕はそれに従ってそのマグカップを見るが、何か幽霊のようなものが見えるわけもなく、単純にマグカップの中に入っていたのであろうトマトジュースが床を濡らしているだけ......
───トマトジュース?
瞬間、僕の身体中を鳥肌が走り抜け、まるで膝がガクブルと震えてきた。
この家の食料庫には、今現在色々な食材が入っている。
それらは僕の持つアイテムボックスの中に入っていた食材などが主となっており、量は大量だったため全ては把握しきれてはいないが、それでも買ったものと買ってないものの分別くらいは僕にも付くのだ。
だがしかし、僕は───賢さのステータスが五千万を超えたこの僕が、断言しよう。
「トマトジュースなんて......買った覚えないぞ?」
声に出した途端アイギスがバッとこちらへと振り向き、なお一層青白くなった顔で僕へとこう告げた。
「そ、そりゃそうですよ! 私が飲んでたのは水(・)なんですから!」
瞬間、ガタン、ガタンッ、パリィィン! と居間やキッチンの方からポルターガイストの雨嵐が僕らを襲う。
「「ひやぁぁぁぁぁっっ!?!?」」
普通ならば、ここで取るべき行動は『どうなっているのか確かめる』なのだが、残念ながらここにいる二名はお化けに耐性を持たない。
───というわけで、僕らは示し合わせることなく、二人同時に駆け出した。
否、逃げ出したのだった。
☆☆☆
「はぁ、はぁっ、クソッ、どこに逃げればいいってんだよ!?」
僕らはどこを目指すでもなくただひたすらに逃げ回っていた。
生憎とこの家は完全破壊不能の超優れもの。今やSSランクと同位であるアイギスが全力で走っても全く問題がない。
ということで僕は今、アイギスに速度を合わせて逃げ回っているのだが......、
「ギン!? う、うし、後ろからっ、な、何かが......」
「はっ!? こ、今度は何だよ!? ポルターガイストだけじゃなかったのか!?」
僕は半ば逆ギレしながらアイギスの言う通り後ろを振り返るが、振り返った瞬間そんな逆ギレなんて霧散した。
テ、テテケッ、テケッ、テケテケテケテケッ
そんな壊れたラジオテープのように意味の無い言葉の羅列を発しながら、僕らをものすごい速度で追ってくる人間の上半身。
下半身は潰れたかのように消え失せ、その断面からはなにか細長いものが飛び出しており、奴はそのピンク色の何かを引きずりながら、両腕のみを使って駆けてくる。
上半身に残っている服は真っ白のワンピース......いや、切れ端の方が真っ赤な血の色に染まっている。
その黒髪は長く、その顔を判断することは出来ないが、
───髪の隙間から、その血走った瞳がこちらを覗いていた。
「「ぎゃぁぁぁぁぁッッッ!?!?」」
瞬間、僕の速度が数段階上昇し、アイギスは身体に雷を纏う。
何故そんなモードになれるのかは分からないが、とにかく僕らは一気に走る速度をあげ、前へと視線を戻して必死にその化物から逃げ出すのだが......、
『みぃつけたぁ』
瞬間、そんな女性の声が耳元から聞こえて、僕は咄嗟に銀滅炎舞で僕らの周辺を燃やし尽くす。
『ぎゃぁぁぁぁっ!?』
先ほどと全く同じ聞き覚えのない女性の叫び声が上がり、ちらりと振り向くと先ほどのテケテケが銀炎を浴びて転げ回っていた。
───僕の銀滅炎舞が効いているということは......、クソッ! やっぱり誰かの変身とかじゃないわけかッ!
僕はそのテケテケが視線を外した一瞬で僕らの耳元まで接近していたことと、味方を傷つけない銀炎によって苦しんでいる現状を鑑みる。
かなり高温にして放ったためしばらくは動けないだろうが......、僕の超直感が今尚危険だと告げている。間違いなく再び動き出すだろう。
何か、何かいい手は。何か、逃げるのに適した場所はないか。
僕は必死になって思考を巡らせて考えるが、ここまで焦っている状態では何一つとしていい案が浮かんでこない。
───だがしかし、銀滅炎舞を発動したということは、アイツも今は起きているということ。
「お、おいクロエっ! な、何か言い案はないかッ!?」
僕は起きていてくれと願いを込めてそう叫ぶと、案の定怠そうな声が返ってきた。
『またとんでもねぇ化物とやり合ってんなぁ......。悪魔に狂暴者ときて、次は正体不明のアンデットかぁ? しかもさっきの一撃でほとんどダメージも負ってねぇ......。一体何がどうなってやがる......。私たち聖獣でもあいつを倒すには骨が折れるぜ?』
───せ、聖獣と互角とかどんなバケモノなんだよあのお化けはっ......、今の僕らじゃ間違いなく勝てないぞ!?
僕はそう考え至り、半ば心が折れそうになったが......、
『まぁ、あの時拾ったあの槍(・・・)なら倒せるだろうがな?』
僕の頭脳は、何とかその正解までたどり着くことが出来た。