The Road to One Day Be the Strongest
Lesson 198
あの後パーティ『雀蜂』の三名や、その他にも集まってくれていた冒険者たちの紹介があり、くじ引きで二~三ペアが一人の冒険者の元で冒険者の初心者講習を受けることとなった。
ちなみに僕&桃野ペアと組まされたのは、なんとネイルたち女子三人組であった───何故かハーレム形成してるみたいになってるけど、これよく見たら男二人だよね?
そんなこんなでアンナさんからの腐敗口撃に耐えながらも熟練の冒険者から座学と対人戦を受け、そうして今に至る。
───現在地は王都付近の森の中。そう、冒険の実地訓練である。
先程僕たちの担当の冒険者───ちなみに僕らの担当はフランだ、可哀想に───から「アンタとは嫌よ? なんか前とは雰囲気変わって弱そうになってるけど、私の本能が近寄るな危険って言ってるもの」とかほざきやがったため、対人戦の時に寂しく一人体育座りしていると、たまたまそこを通りが買ったギルマス、ガルムに言われたのだが、
『なんか最近強い魔物が多くなっててな。お前さんレイシアん所でもこういう調査依頼のついでに街救ったんだろ? なら初心者講習のついでに調査してきてくんねぇか? ちなみにこれギルマスからの命令な』
との事だった。
───はぁ、今日も今日とてフラグが立ちまくってますね。
「ぐ、ぐ腐腐腐腐腐腐腐っ! や、やーっとギンくんと二人っきりになるチャーンスっ! これでようやく彼も私達のナ・カ・マ・入・りっ!」
「ちょっとアンナってば、アンナは黙ってれば可愛いんだからあんまりそういうこと話さないの」
「またまたぁ、エリザベスちゃんだって見てみたいでしょー? ギン君と愛しのディーン君が絡み絡まれて......はぁ、はぁ、やっば、鼻血止まらないんですけど」
───アンナさんのキャラが強烈すぎる件について。
いや、流石にやばいでしょあれは。たまに真面目な感じで委員長っぽさも醸し出してるけど、残念なことに昼休みに一回は腐の感情が爆裂してる。そのためか、美人さんの割には全然モテてないようだ。
エリザベスさんとやらがアンナさんの鼻にティッシュをグイグイと詰め、ネイルとフランがそれに対して苦笑いし、桃野は偉いことに周囲の警戒を行っているようだ。ちなみに藍月は僕の肩に乗っかって『ふぁぁぁっ、なのだー』と欠伸をしている
───言っとくけどお前ら『なのだ』とか『のじゃ』の使い方間違ってるからな? 白夜なんてたまに『のじゃぁぁぁぁっ!?』とか言って痙攣してるし。あ、それは日常茶飯事だったか。
閑話休題。
でもまぁ、周囲に魔物は居ても、弱いやつは全員フランの威圧感で逃げて行ってるから大丈夫だ。
「まぁ、逆に言えば強いやつは普通にくるんだけど」
僕はぐ腐腐腐っと腐った笑い声をあげる変態を見て、そして彼女の横の草むらから飛び出してきたマシンガンウルフを見やる。
───いや、マシンガンウルフってたしかAAランクの魔物だよね? なんでこんな所にいるんだよ。
そんなことを思いながらも、咄嗟にその魔物を切り伏せたフランに拍手を送る───さすがはSSランク冒険者だ。
「はぁ......、アンナとか言ったわね。下賎な話は後にして今は魔物への警戒をしなさい。真面目に受けないのであれば今すぐ帰しますよ? あとギン、何さりげなく魔物を通してるのよ。アンタ私よりも早く発見できるはずでしょ?」
フランの言葉にピクリと肩を震わせるアンナさん。
きっと、彼女は怖いからこそいつも通りを演じようとしてたんだろう。けどそれは恐怖を紛らわせることは出来るが、危険を回避することには至らない。
───例えるなら、今すぐ治療を受ければ直せる病を、麻酔薬だけうってそのまま放置していくようなものだ。いつどのタイミングで自らの命が散るかもわからない。
アンナさんは「......はぃ」とだけ小さく返事をすると、腕輪から変形させた小剣型の霊器をぎゅっと構える。緊張は抜けきっていないみたいだけれど、まぁ先程よりはよほどマシだろう。
それを見習ったのか、エリザベスさんは杖型の霊器を、ネイルは従者のため普通の弓を、フランはいつでもレイピアが抜けるように手をレイピアへと添えている。
───まぁ、僕は空間把握を広げながらできる範囲で勝負してみるかな。
僕は左手の甲へと魔力を送ると、その左手の中に一振りの氷の短剣を作り出す。
『氷魔剣(アイシスソード)』
これは炎十字(クロスファイア)の能力の一つ、銀滅氷魔によって作り出したものだ。
簡単に言えばかなり鋭くて冷たい短剣なのだが、振るたびに任意のタイミングで氷の斬撃を飛ばすことができる。まぁ便利な武器ってところだ。
「はぁ......、嫌な予感しかしないんだけど」
「もうっ、冗談でもそういうこと言っちゃダメだよっ、銀!」
桃にそんな注意をされながらも、僕達は緊張感を改めてから再び歩き出す。
───ほんと、こういう嫌な予感に関しては的中率九割超えてるから嫌なんだよなぁ。
☆☆☆
ガサゴソとフランが道をかき分けながら歩いていると、かなりの確率だろうが、同じく森の中を冒険していた他の班とぶつかった。
「あら、サインじゃない。何してんのこんなところで」
「はぁ......、初心者講習に決まってるじゃない」
その班を率いていたのは全身甲冑姿の『雀蜂』のもう一人のメンバー、サインさんであった。
僕達がフランと会った時は、サインさんはアーマー君に会いたくないという理由でパシリアには来ていなかった。つまりは僕は一応初対面のようなものなのだ。
冒険者としては先輩の人だし、僕は軽く頭を下げてお辞儀をした
───のだが、そのサインさんの後ろから出てきたヤツらが面倒くさそうだった。
「あっ、やっぱり君たちだったか!」
「よう、お前ら。さっきぶりだなー」
そんな声を上げてこちらへと歩いてくる金髪と紺髪。そしてかつて僕が生贄に捧げた白髪褐色───コイツらいつも一緒に居るな、アンナさんに誤解されても知らな......あ、もう誤解されてるっぽいな。
まぁ、ソイツらだけならまだマシだったのだが......、
「おーっほっほっほ! これはこれは銀様ではありませ...」
「うるさいですよ真紀子、そんな大声出して魔物でも寄ってきたらどうするんですか?」
「うぐっ......、も、申し訳ありませんわ」
「銀様さっきぶりなのですー」
そう、アイギスとオリビアならまだ分かるが、何故かアイギスに轡を握られている鳳凰院までいたのだ───アイギスには今度そいつの取扱説明書的なものがないか聞いておこう。
はぁ、これでも結構真面目に冒険者するつもりでここに来たはずなんだけどな......。
と、僕はそう思ってため息を吐き、
───次の瞬間、僕の空間把握にボロボロの服を着た女性の姿が映った。
「はぁっっ!?」
僕は結構な緊急事態に思わず素っ頓狂な声をあげると、ビクッとした皆を放っておいて月光眼で現場を見通す。
その女性は少女と言っても差し支えない年齢で、しきりに後ろを振り返りながら走っている。息も絶え絶えで、こんな森の中をあろう事か裸足で走っているようだ───ここからは......おおよそ一キロといったところだろう。
───そして、僕はその少女がしきりに振り返っている背後を見て背筋が凍った。
「銀? 一体どうしたの?」
僕の隣にいた桃野が心配そうにそう僕へと声をかけてくるが、生憎と今は丁寧に答えてやる時間がない。
僕はその状況をもう一度頭の中で整理して、なるべく完結に答えた。
「オークの群れに女の子が襲われてる。しかもその群れの殆どがオークの上位種だ」
───僕の月光眼には、Sランクのオークの上位種が群れを成しているのが映っていた。
☆☆☆
「はぁ、はぁっ......かっ、はぁ、はぁっ」
肩で息をしながら、私は深い森の中を裸足で駆けていた。
どっちが王都側で、どっちがその逆なのかはわからない。けどここで迷ったり足を止めたりすれば私は死んでしまうのだろうというのは分かる。
───いや、きっともっと酷い目にあう。今私を追ってきているこの魔物達は女性を殺そうとはせず、そういう(・・・・)道具として使うのだろう。
私がこの森に入ったのは冒険者としてで、ゴブリンやスライムなんかを狩って今日暮らす分のお金を稼ぐためだった。
私は駆け出しだけれど昔から腕っ節だけは強かったため、スライムはもちろんゴブリンなんかにも遅れは取らなかった。
だからこそ慢心して森の奥へと入り、まんまと奴らの集落に捕まってしまった。なんとか逃げ出せはしたものの追手はかかるし着るものもないし、一言で言うならは最悪だ。
息を弾ませながら背後を振り返ると、オークが百体ほどの群れをなして追って来ているのが視界に映った。
中には普通の緑色のオークの姿もあったけれど、私がパッと見た感じでいえば赤色のオークや、脂肪よりも筋肉が目立つ奇妙なオークの姿が目立った。
それは冒険者として初心者講習を受けた私にはわかってしまった───AAランクのレッドオークと、Sランクのオークジェネラルだ。
間違っても私の力じゃ逃げ切ることすら不可能な化物たちだが、木々が密集しているところを走っているのと、奴らがまだ本気ではないことも相まって、なんとか私は今も生きていられている。
「はぁっ、ほんっと、最悪、だよっ!」
この森にこんな高ランクの魔物が出てくるだなんて聞いちゃいないし、そもそもSランクなんて小国の一軍隊にも相当する化物のはずだ───あぁ、そういえばこの森の調査依頼も出てたっけ?
私は、オークたちが追いかける行為を遊びだと思ってくれていることに感謝すると同時に、とてつもない悔しさに見舞われた。
───悔しい、悔しい。こんな奴らに遊ばれているのにそれを喜んでいる自分が情けない。
なによりも、こんなところで死ぬのかと思うと視界が微かにぼやけてくる。
私はかっさらってきたボロボロの服の裾で涙を拭うと、キッと口を真一文字に結んで泣き出したい気持ちを抑えると、王都方面へと出るように、高ランク冒険者とたまたま八合わせますようにと祈って地を蹴る足に力を入れた
───その時だった。
「うわっ!?」
いきなり私の前に現れた気の根っこが全力で走っている私の足に引っかかり、そのまま私の体は地面へと叩きつけられ、数メートルゴロゴロと転がって木の幹に叩きつけられた。
私は身体中に擦りむいたような痛みを感じながらなんとか体を起こし......、
「ひ、ひぃっ!?」
───完全に囲まれていることに気がついた。
周囲には下卑た視線をこちらへと送ってくるオークたちが立っており、木々が微妙に動いているようにも見えた。
その木々の様子にハッと気がついた私は、その様子からその木々が『トレント』というBランクの魔物なのだと理解した。
木々に擬態して相手が来るの待ち、そして根や枝を使って相手を捕まえて養分とするのだ。
───きっと今更そんなことに気がついても意味が無いのだろうし、私が辿る未来もさして変わらないのだろうけど。
私はこらえ切れず視界を歪めて涙を流すと、それを見たオークたちが意味不明な言葉を発しながら一歩、また一歩と距離を詰め始めた。
「......て」
私の喉からは聞き取れないほどの小さな掠れた声が出て、自分が怯えているのだと再確認させられる。
「...れか......けて」
きっとこんな言葉を叫んだところで現状は変わらないし、この非常で残酷な現実も何も変わりやしない。
けれど、私は叫んだ。
───どうせ未来が変わらなくても、足掻くだけ足掻いてやる、と。
「だ、誰か助けてっっ!!」
その言葉と同時にオークたちが私へと一気に迫ってきて、自分の身体へと訪れるであろう衝撃に身を固くして目をギュッと閉じる。
───けれど、いつまで待ってもその衝撃が訪れることはなく、先程までうるさかったオークたちの鳴き声もいつの間にか消えていた。
私は混乱した頭で「またオークたちの悪戯だろうか?」と思ってゆっくり目を開けると、そこに広がっていたのは予想だにしない空間で......、
「ひいぃぃっ!?」
私は目の前のオークたち共々全て凍り付けになった世界を見て、先程よりも余程大きな悲鳴をあげた。
「な、なな、なに......これ?」
私は顔のすぐ側まで迫っていたオークたちの指を見てそうひとりでに呟くと、どこからか男の人の声が聞こえてきた。
「ふぅ......、良かった。なんとか間に合ったみたいだな」
その声に私が反応する前に、私の視界を覆い尽くしていた氷の世界が、パリィンッ、と音を立てて砕けて消えた。
あまりの変化に目を見開いて固まっていると、その私以外の全てがポッカリと消え失せ広場となってしまったその場に、一人の男性がたっていることに気がついた。
黒い髪に、赤と銀のオッドアイ。
学園の制服に身を包み、どうやら隻腕のようだ。
顔に浮かんでいるのは安堵の表情と、そして少しの困惑。
私はその容姿と佇まいに、噂で聞いた覚えのあるとある伝説を思い出し、意図せずして彼の正体に行き着いた。
「し、執行者......、ギン=クラッシュベル......?」
☆☆☆
僕はなんとか位置変換でその場に乱入し、咄嗟のところで彼女以外の辺り一面を思いっきり凍らせた。にしても、神器のフルパワーを出してやっと(・・・)Sランク討伐か。普通の状態ならSSSランク上位でも致命傷を与えられるはずなんだがな。
───まぁ、そのお陰で彼女もなんとか助かったみたいだし、そのせいで大きな広場できちゃったけど結果良ければ全て良し。途中経過なんて気にするべからず。
そんな九割がた冗談なことを考えながらローブに戻した常闇のローブをその子にかけてやると、それとほぼ時を同じくして走ってきた面々もここへと到着したようだ───やっぱりこの世界の人たちは身体能力馬鹿げてるな。どーりで今の身体能力じゃ勝てないわけだ。
「ギン! 大丈夫......ってなにここっ!? ここだけ広場になってるし温度低いわよね!?」
「そこは気にするなフラン。何故だかここだけ異常気象なんだよ」
「へ、へぇ......、珍しいこともあったものねぇ」
そんなテキトーなことを言ってみた僕ではあったが、純粋なフランとオリビアも騙せていたが、残念ながらほかの面々はちょっと考えている様子がある───ちなみにうち数名にはバレてるっぽい。
───と、そんなことを考えていると、ハッと声を上げた少女が立ち上がって僕へとずいずいっと迫ってきた。
「あ、あのっ! 執行者さんでいいですよね!? わ、私っ、あの、集落にまだ、えっと、その、オークの...」
「まぁ、一旦落ち着け。そんなに焦っても伝わらないから」
僕は少し迷ったが、左手でとんと彼女の肩を押し返して無理矢理に座らせた。おそらくこのこの身体は立っているのが辛いほどに消耗してるだろうし、足の裏の皮も思いっきり裂けている。何があるのかは知らないが、ここで焦った方が時間をとってしまうだろう。
少女は僕に押されるままストンと座ると、そこに来てやっと冷静になったのか、何を伝えるべきか考え始める。
僕は見下げるのもなんだから目線を合わせるためにしゃがみこむと、何故か少し赤くなった少女が面倒くさくなりそうな事実を話し始めた。
「こ、この先に......、SSSランク(・・・・・・)のオークキングがいる、オークたちの集落があって......」
───その中に、まだ女の人たちが捕まっている、と。