The Road to One Day Be the Strongest
Shadow - 008 Do-it-Yourself Is My True Peak
《港国料理大会・概要》
さぁ今年もこの季節がやってきました!
港国料理大会のお時間です!
この概要については皆さんお馴染み、というか最近では大陸で一番の有名人になりつつある私──通称司会さんがお送りします!
[日時]
例年通りでーす。
大陸でも南端に近いので、この時期でも暑いです。お気をつけくださいませー。熱中症とかなっても責任取らないんで。
[ルール]
〇予選
事前に取り決めがあったとおりに全出場者に出店してもらい、予選の二日間、その総合売上金額で勝負してもらいます。
以前に不正や妨害の発覚した料理店があったんですけど、その店は全大陸中にその悪名が轟き、結果として指名手配並みの(以下略)。
これについては出店費用から食材費まで全てが自己負担となります。その代わり売上は全て自分のものとなるので頑張ってくださーい。
ちなみにですが、『え、僕……出せる店なんて持ってないんだけど……』とお困りのアナタ。料理ギルドに再び行くことをオススメしますよ!
以上、ルールを守って楽しく決闘! じゃなかった料理!
〇本戦
予選の売上、その上位三店舗による本戦です。
この場にはイエスギン教の大司教様や、グルメリポーターという職の体現者グリメリーさんもいらっしゃいます。
これは港国の中心部にある多目的会館にて行われます……が、間違っても他人から観覧席のチケット強奪しないように。
[賞金]
これについては気になっていますよねぇ〜?
ですよねぇ〜?
賞金は優勝者にのみ授与され、その金額はっ、なな、なんと──
正解はCMの後で!
────────
そのギルマスから渡された紙に目を通して、
「……あの人、僕のことストーキングしてるんじゃなかろうか」
あまりにも遭遇率の高い彼女のイラッとくる笑顔を思い浮かべて、そう言葉を漏らした。
ちなみに、賞金は未だに明らかになっていない。
☆☆☆
自業自得のくそ教団のためにタダ働き。
賞金はすべて明け渡す。
酷いにも程がある概要説明。
明らかになっていない賞金。
その他諸々と『やってられっか!』と常人ならば叫びだしそうな現状ではあるが、僕はあえてこう言おう。
「ふっ、人生ってのはな。寄り道して無駄足を踏んで、道程でたくさん苦労した末に、最後の最後で幸せを掴めればそれでいいんだよ」
「ギン、貧乏ゆすりうるさい」
「あら、もう苦労してるじゃない、童貞で」
瞬間、宿屋の僕の部屋に沈黙が舞い降りた。
僕は無意識のうちに表に出していた苛立ち(貧乏ゆすり)を手で押さえると、ふぅとため息を吐いた。
「は、はっはっは、分かっていたさミリー。お前なら『道程』をあえて『童貞』と聞き間違えてそう言ってくるだろうな、ってことはな!」
「……チッ」
舌打ちしないでもらえませんか?
僕は内心でそんなことを呟き、ため息を吐く。
まぁ、確かにイライラしているのはある。
三年前なら『こんなことしてる時間あるなら修行でもしてるわ!』とか叫んで、この街から逃げ出していたかもしれない。
だが──
「生憎と、もう短時間でどうこうなるレベルを超えちゃったんだよなぁ」
僕はそう呟いて虚空を見上げる。
まぁ、アレだろう。
たぶん皆『ちょいちょい強くなったぜ的な雰囲気織り交ぜてきてるけど、それ実際error級とか大悪魔とか出てこないと分からないよね』とか『強くなったんならもう混沌とか倒しにいけよ。もう倒せるんじゃないのか?』とか思っちゃってくれてるんだろう。
いや、分かっているさ。
確にヒュドラ瞬殺したし、竜の群れを一掃もした。
けれども、後者は三年前とて同じことが出来ただろうし、前者に関しても時間はかかりはしても圧勝できていただろう。
けれども、僕はそんな感想を抱いたヤツらにこう言おう。
「ご都合主義の物語でもあるまいし……そんな運良く僕の力を引き出せる位の、それでいていい感じにやられてくれそうな存在。出てくるわけないだろうが……」
「……いきなり何フラグ建ててるの」
恭香の言葉は無視した。
もういい加減わかっているだろう。
ここまで徹底的にフラグを建てれば、今までの経験則上、何かしら『厄介だなぁ』という事件が起こることは間違いない。
「よし! いい感じに出てこいよ! error級とか大悪魔とか!」
そうして僕は、意気揚々と料理ギルドへと向かったのであった。
☆☆☆
「……とまぁ、こんなわけなんだけど」
「なるほど! 君はそれほどまでの腕を持っておきながら今の今まで世間に埋没していた、そういうわけだね!」
「何でちょっと責めてる感じなの……」
僕は料理ギルドまで戻っていてきた。
先ほど料理をしていた人たちはうち数人は未だに料理を続けており、その他は姿を消しているか、近くのベンチで肩を落としているか。
まぁ、一目見て僕、暁穂、そして白夜とエロースの腕前を見きったこの人の目利きだ。ここで躓いているということはその時点で勝ち残れないということであろう。
(……まぁ、それも分かってない、ちょっとお馬鹿な人たちがあんな感じになってるのかな)
そう内心で呟く。
チラッ。
僕はそちらへと視線を向けた。
するとそこには、料理ギルドの休憩所のような場所の一角を占めている集団が居り、彼ら彼女らは皆、身にまとっている店の制服こそ異なってはいるが、その視線は真っ直ぐギルマスへと向かっていた。
きっとその視線を言葉にするならこうだろう。
──そんな奴と話するくらいなら、自分の料理を評価して、予選参加の権利をくれ。
おお怖い怖い。
正直恐れるに足らないし、妬み恨まれても毛ほども気にしないが、それでも変な噂でも流されたらそれはそれで気分が悪い。
こういう時に限って隠蔽などで顔を記憶に残らないようにでもしたいのだが──まぁ、気にすることでもないか。
僕はギルマスであるウミンチーへと視線を向ける。
「まぁ、アレですよ。眠れる獅子が目を覚ました……的な? そんな感じだから安心してくださいよ」
「なるほど! それは安心だ!」
何がだ。
自分で言っておいてなんだが、本当にそう問いただしてやりたかった。
こういう元気で馬鹿な人は扱い辛いし、正直仲間には絶対に欲しくないタイプだが──でもまぁ、嫌いじゃない。
僕はニヤッと笑みを浮かべると、
「それじゃ、色々と教えてくれますか? 予選では正真正銘『神』の域って奴を見せてやりますから」
──主に暁穂が。
その言葉に(後半は言ってない)気を良くしたのか、彼は満面の笑みを浮かべると、僕の背を叩きながら色々と説明をし始める。
その時、僕は普通に気がついていた。
──僕に対して、いくつもの憎しみの視線が突き刺さっているということに。
☆☆☆
「さて! 行きは何も無かったから、帰りこそは何かかんか厄介事……というか強いヤツ来ないかなー!」
そう言ったのは十数分前。
「痛っ! うぐぁっ!? ほ、骨がぁっ!」
「おいおい兄ちゃん? 俺のダチの肩の骨をよくも……」
「ぶつかっただけで折れてるわけないと思いますけど……。じゃ、本当に折れてるか確かめますねー。物理的に」
「「……へ?」」
そう言って悲鳴が轟いたのは数分前。
そうして今現在。
「あぁ、厄介事って言ったのが悪かったかな」
そう言って僕は振り返る。
場所は宿屋までの道のりをショートカットできる裏路地。
本来ならば徒歩十分はかかるであろうその道程もその道を通ればたったの数分で着く。
僕はそれを事前に月光眼で把握していたからこそ、その道を通り──僕の後をつけていた、そいつらが姿を現した。
「はぁ……想像はつきますが、一体どんな御用で?」
視線の先には、料理ギルドを出てすぐの裏路地に隠れていた厳つい男性が数人立っており、彼らの顔には下卑た笑みが浮かんでいた。
それを見て一瞬『あれ、コイツらそっち系?』と身の危険を感じでしまった僕ではあったが、
「よぉ兄ちゃん、簡潔に言えば今すぐ料理大会の出場権利、それに加えて有り金はもちろん、その他──服から下着まですべて置いてってもらおうか」
そう言って彼はニタニタと笑い出す。
瞬間、僕の背筋に怖気が走る。
ブルルっと身を震わせると、両手を後ろに回して後退る。
そして、
「ま、まさかお前ら……強姦か!?」
そう叫んでやった。
メインストリートにまで聞こえそうな絶妙な声で。
するとたまたま偶然、メインストリートからこちらを窺っていた一般市民が目を見開いて驚いたように声を上げる。
「やだ、ちょっとあれ見てみなさいよ、あんなにゴツイ男の人たちがあんな優しそうな青年に強姦ですって……」
「やだぁ、それじゃあの男の人たち三人ともあっち系ってことぉ〜?」
「うわぁ、見られてるっていうのにもうビンビンよ! もう鼻息ハアハアしてるし……きっもちわるっ!」
その微妙に声の大きい女性のグループから始まったその話は次第にメインストリート中へと広まってゆき、背後のその現状を振り返った三人は目に見えて顔を青くした。
僕はその隙に壁に出来た影の中に隠れると、それとほぼ時を同じくして見回りの騎士たちが駆け付けてきた。
「強姦だと!? 被害者の女性は大丈夫か!?」
「あっ、あの男の人たち三人が小さな男の子を集団で○○○しようとしてました!」
「なにっ!? 小さな男の子だと!?」
その女性数人組は影の中の僕の方へとチラッと視線を向けてそう告げると、何も知らない守衛さんたちはその顔に憤怒を貼り付けた。
「この街で! あろう事か大の大人が三人がかりでか弱い少年を暴行するなど! 万死に値する!」
「「「ひ、ひぃぉぃっ!?」」」
守衛さん一行は顔を真っ赤にして抜刀する。
それには三人組も顔を真っ青にして踵を返すと、弁解も忘れて逃げ出してゆく。
数秒後にはその通路から三人組と守衛たちさんの姿はなくなっており、それと同時に、先ほどの女性のグループが僕のすぐ近くまで歩いてくる。
「まぁ、アレよねぇ。どこかの料理人から雇われた荒くれ者、って感じ?」
「おい、その口調やめろよな」
僕は女口調で喋り出したソイツを窘めながらも影から出ると、それと同時に彼女らは靄となって霧散してゆく。
──影分身。そして変身スキル。
まぁ、つけられている事くらい最初から分かっていたんだ。
なればこそ、彼らの運命は僕を尾行した時点で終わっていたということ。
僕はその暗闇の先へと視線を向けて、ニヤッと笑みを浮かべる。
「自作自演こそ我が真骨頂だ。お前ら程度、物理的に手を出すまでもない」
そう呟いて、僕は踵を返した。