The Road to One Day Be the Strongest
First Anniversary Ghost Exorcism
「ふはっ!?」
目が覚めたら、俺の目の前には刃物を持った老人が立っていた。
それには再度、同じように声を上げてしまう俺。
「んなっ!?な、何なんだアンタ!?」
その言葉に老人は「ほっほっ」と笑いながらその刃物を腰の鞘へと収め、奥の方からお盆に湯のみを三つ載せたお婆さんが歩いてきた。
視界の隅に何か桃色のものが映ったな、そう思ってチラリとそちらへと視線を向けてみれば、そこにあったのは真っ二つに両断された巨大な桃。
俺はあまり頭の回転は早くない方ではあるが、それでもこの現状がどういうものか、についてはなんとなく想像がついた。
いや、ついただけで意味わかんないんだけど。
そんな困惑する俺へと向けて――
「初めましてじゃな。今日からお主の名は、桃太郎じゃ」
俺は久瀬竜馬、二つ名――『黒炎』。
目が覚めたら、桃太郎に命名されていました。
☆☆☆
桃太郎。
日本に昔から伝わる昔話であり、それを知らないものは多くないだろう。というか、いないと思う。
簡単に物語を説明すると、ある日川の上流から巨大な桃が流れてくる。それをどうやったのか、ヨボヨボのお婆さんが川岸へとあげ、そのまま家へと持ち帰ってくる。きっと隠れて筋トレにでも励んでいたのだろう。強靭なインナーマッスルの持ち主だったに違いない。
そんなお婆さんの持ち帰ってきた桃。
それを見たお爺さんは、その桃をとりあえずカチ割ってみることにしましたとさ。
そして、その割った桃の中から現れた意味不明な宇宙人こそ、彼の有名な桃太郎である。
ちなみにお爺さんに「よく中身を傷つけませんでしたね」と聞いてみたら、なんか「剣士は斬りたい対象のみを斬れるようになって初めて、やっと一人前なのじゃ」という答えが帰ってきた。
閑話休題。
そんなこんなで、何故か素の状態で桃太郎へと転生した俺は、転生してから数日後、やはりというかなんというか、鬼退治へと向かわされることとなった。
「気をつけるんじゃぞ。あの鬼を舐めたらいかん。全盛期のワシでさえ片目を奪うことで精一杯じゃった。その時の傷がたたって、今やただの老人じゃがの」
いや、何もツッコまないぞ?
どこに事前に鬼と対決して片目を潰してくるお爺さんがいるんだ、とか。もう絶対にツッコまない。
俺は真剣そうにコクリと頷くと、それを見ていたお婆さんが懐から何かを取り出した。
「ほれ、桃太郎。アンタに私からの些細なプレゼントだよ。美味しすぎて途中で食べ尽くすんじゃないよ」
そう言ってお婆さんが僕へと渡してきたのは、何か丸いものが入った白い布袋だった。
俺は内心その中身を確信しながらもその袋を受け取り――
「さっきNamazonで届いた、あの柳○のお饅頭だよ」
「きびだんごじゃないんかい!?」
気がついた時にはもう既に遅し。
俺は思いっきりツッコんでいた。
そのツッコミに気を良くしたのか、二人は『ほっほ』と笑みを浮かべた。
「なぁに、今どききびだんごなんぞ流行らんわ。今の流行は○月の饅頭じゃて」
「そうねぇ。あのお饅頭美味しいものねぇ……」
いきなり柳○の饅頭について話し始めた二人。
それを見てガシガシと頭をかいた俺は、疲れたように口を開いて踵を返した。
「わかった!分かったから、もう行ってくるよ」
そう言って俺は小屋の扉を開けて、その先へと足を踏み入れた。
のだったが――
☆☆☆
「ほらよ、柳○のきびだんごだ」
そう言って俺は、目の前の犬へとその饅頭――もとい、きびだんごを渡した。
するとその何の変哲もない、それこそそこら辺にいそうな可愛らしい犬は、ガツガツとそのきびだんごを平らげてゆく。
確かだが、桃太郎が仲間にするのは、犬、猿、キジの三匹だったはずで、仲間にする順番もそのとおりだったと記憶している。
その証拠に、きびだんごを平らげた犬が俺の足元に顔をこすりつけているし、頭の中に『犬が仲間になった!』とインフォメーションが鳴り響いていた。
「んだけど、そもそも鬼ヶ島ってどこなんだろうな」
「クゥーン……」
俺の言葉に、犬は困ったようにそう声を発した。
こんなふざけた世界観だ。俺はどこかに鬼ヶ島への看板でもありやしないかと視線を巡らせて――ぴたっと、見覚えのありすぎる背中を見つけて身体を硬直させた。
「な、な……、なんだと……?」
そこに居たのは、一人の男だった。
離れていても分かるその長身に、短く切りそろえられたその黒い髪。
身体は黒いローブによって覆われており、足元は赤色の混じった黒色の脚鎧に覆われていた。
――ギン=クラッシュベル。
間違いない。俺がアイツの姿を見間違えるはずがない。
俺は、この巫山戯た世界に送られてきたのが自分だけでないことに安堵し、アイツへと声をかけようとして――
「桃太郎に命名されてはや数時間……、やっと出てきたか、キジっころ」
そう呟く、銀の声が聞こえてきた。
――お前もかい!?
俺はそう叫ぶのを何とか堪えると、彼の向いている先へと視線を向けて――目を見開いた。
なにせ、そこに居たのは――
「ふっふっふ、なんだい、もしかしてアタイを従えようってのかい?いい度胸してるじゃないか」
――翼の生えた、女の人だった。
気がつけば俺は頭を抱えてしゃがみこんでしまっており、そんな俺へと二人の会話が届いてきた。
「きびだんごを貢がれてきてはや千年、もうアタイをそんじょそこらのきびだんごで釣ろうったってそうはいかないよ!そんなに言うこと聞いて欲しけりゃ、最低でも柳○の饅頭でも持ってくるこったね!」
「…………」
その言葉を聞いた俺の視線は腰の布袋へと向かっていっており、今更になってこの饅頭の凄さに気付かされた。
だがしかし、銀が俺と同じようにお爺さん、お婆さんに育てられたとしよう。数時間とか言ってたけど。
だが、普通に考えれば銀が持たされているのは普通のきびだんご。俺のところみたいに頭のおかしい奴らでも無ければ、桃太郎に渡すのは普通のきびだんごに違いないのだ。
ならば、俺がやるべきことも決まってくるだろう。
(この饅頭……少し惜しいが、銀の助けになるんなら)
俺はそんなことを考えて――
ドサッ、と。
そんな音が聞こえてきた。
そちらへと視線を向けて見れば、そこには――
「百万円ここにある。忠義なぞ要らんから僕に従え」
「御意っ!」
俺は、何も見なかったことにして踵を返し、俺の足元を、悲しげな表情を浮かべた犬がテクテクと歩いていた。
☆☆☆
その十数分後。
俺は、とんでもない光景を眺めていた。
「ドっっ根性ォォォォォォォオ!!」
瞬間、その拳が大地を砕き、その振動が俺の立っている場所にまで伝わってくる。
白みがかった紫色の髪の少年。
三日月の刺繍が施された紫色のマントに、その拳には魔力ともまた違った、見たことのないオーラがまとわりついているように見えた。
そして――
『GUGAAAAAAAAAAAA!!』
相対するは、どこかのアニメで見覚えのある巨大な猿。
全長五十メートルはくだらないだろうと思えるその猿――いや、ゴリラに近いような気もしたが、その巨大ザルはその男へと渾身の拳を振り下ろした。
あの猿、もしもカテゴリー分けするとしたら間違いなくerror級。いや、もしかしたらDeus級に片足を突っ込んでいるかもしれない。
そんな一撃を。
「ハッハッハ! 温(ぬる)い! 何だその蚊も殺せないようなひ弱な一撃はァッ!?」
ドゴオオオオオオオオンッ!
瞬間、周囲へと爆音が轟き、俺は信じられない光景を目撃した。
見れば、先程まで振りかぶっていた片腕を失って転げ回っているその大猿と、息一つ乱さずそこに立っているその青年の姿が、そこにはあった。
「ば、化け物……」
そんな感想しか出てこない。
今戦ったところで、間違いなく敗北する。
もしかしたら腕の一本や二本、道連れにはできるかもしれないが――きっと、奇跡でも起きない限りは勝てっこない。
そんな、絶対的な力の差を感じた。
「クソ……、全能神とあの大悪魔の強さ見て、けっこう落ち込んでたのに……」
自分と目標(ギン)の間に何人か壁が立ちふさがっていることに気が付き、まだまだ自分も弱いのだと、そう心の底から思い知らされた。
そして――また、この展開だ。
最初、この世界に来た時は思ってもいなかったが――けれど、いるところにはいるみたいだ。
その、最強へと到れる化物たちが。
そう、ため息を吐いて、俺は――
「猿は……戦闘不能と見て良さそうだな?」
「はいっ、そうですやんすね!」
背後から聞こえてきたその声に、ガバッと背後を振り返った。
そこにはニタニタと笑みを浮かべるギンと、その側に寄り添っている鳥人少女の姿があった。
対して。
「ん? おお、執行者! いきなりこんなところ連れてこられて困ってたが――って、あ? 誰だソイツら? ……っと」
背後から聞こえてきたのはそんな、青年の声だった。
そちらへも視線を向けてみると、そこには傷を抑えながらも闘争心を隠そうとしない大猿の姿と、闘争心の塊のような光を瞳に灯しているその青年の姿があった。
そして二人は、まるで示し合わせたように――
「「犬、発見」」
俺は、ぷるぷると震えている犬を抱えて逃げ出した。
お願いです神様。
どうかこの悪夢を、早く終わらせて下さい。
そんなことを、願いながら。