――これは今から7年も前の話である。

当時9歳の敦は同い年の雨宮湊の弟弟子、雨宮颯太といつものように組手を行っていた。しかし6歳のころまでは先に弟子入りした敦の方が実力は圧倒的に上だったのだが、今となっては颯太に抜かされてさらに大きく差をつけられていた。

「今日の決闘も颯太の勝ちか……全く敦、お前は兄弟子として恥ずかしくはないのか? ここ最近ずっとお前は負けているんだぞ!」

「……すいません」

敦にとって湊のその一言がとても耳が痛かった。心の中ではイライラと焦りが募るばかりである。

(何故だ……何故俺はあいつに勝てない。なぜ俺は追い越されたんだ!?)

敦の中には疑問ばかりが残る。自分は日々の鍛錬を一日も怠ったことがない。そして颯太も自分以上に鍛錬を積んでいるとは思えない。このことからすでに颯太には敦以上に戦いの才能があるということは明白なのであるが、敦はそれをどうしても認めたくはなかったのだ。

(そうだ……俺はあいつよりも百倍厳しい鍛錬を積めばあいつを圧倒して再び大和村内で湊師匠に次ぐ実力を手に入れることが出来るんだ!)

敦はそれからと言うものの、いつも行っていた修業内容を全て百倍行うようになった。

しかしそんな日々が続いても敦と颯太の実力差は一向に縮まることはなかった。

ある日大和村に大雨が降ったことがあった。そのような日は誰も外出することはなく、自宅で別の修業を行ったりするのだ。そんな中、一人外出する者がいた。円城敦だった。

彼は傘を差しながら深い森へと入って行き、その最深部の洞窟までやってきた。太い綱で封鎖され強い結界が張り巡らされている。それだけでもこの洞窟の中はとんでもなく危険なオーラが漂ってくる。

「この洞窟は試練の間とも呼ばれている。100年前、‶伝説の魔龍・ジャグボロス〟の討伐に貢献した神獣が眠っていると湊師匠はそう言っていたな! こいつを倒せば俺は雨宮颯太を超える存在だと誰もが認めてくれる! だから俺は……」

敦は意を決して巨大な洞窟の中へと入ろうとしたそのとき、敦の手を掴み止める者がいた。

「何をする……離せ、美那子!」

「あなたこそ何する気なの? あなた今まで何人もの人がこの中へ入って行って生きて帰ってこられなかったと思っているの?」

「俺はこの試練の間の主、虎皇(ここう)を倒して最強の証明する!」

「何故そこまでして最強になりたいの? 今のままでもあなたば十分に強い! それでいいでしょ?」

美那子がそういうと敦は突然黙り込んだ。そして彼女の腕を振り払うとそのまま洞窟の中へと入って行った。

「お前には俺の気持ちなんか分かるはずがない」

敦は最後にそう言い捨てると洞窟の暗闇の中へ消えていった。

悲しみの雨の中、彼女の泣く声が静かに聞こえる。

グルルルルル………………

敦が洞窟の奥へと進むにつれて猛獣の唸り声が大きくなり、そして魔力の圧が衝撃波のように伝わってくる。敦はそれを必死に耐えながら突き進む。

そしてついに最深部に足を踏み入れると脚が急激に重く感じるようになった。

「な、何だこれ!?」

「久しぶりに現れたな、勇気ある挑戦者よ」

覇気のこもった声がビシビシと伝わる。敦は耳を押さえてその声にやられないようにしていた。

「ここへ来たということはつまり我に挑むということだな?」

「そうだ! 俺はお前を倒して最強の証明をするんだ!」

「その意気だけは認めてやろう! だかこの虎皇の試練、その程度で乗り越えられるほど甘くはないということを教えてやろう!」

GAOOOOOOOOOOOOOO‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

虎皇の雄叫びは洞窟だけではなく大和村全体を激しく揺らした。