The Story of a Different World Dynasty - When I was reincarnated, I was treated like a Necromancer, but I started to wonder if it was bad.
Episode Three: The Purified Spiritualist, Exorcist, Part 5
トマス坊やの家に向かう。
ヨハン司祭も同行した。
「残したつとめですから見届けたいですし、お二人と一緒ならば穿鑿にはあたらないでしょうから。」
そう言いながら。
両親が出てきたので、浄霊を行う旨を告げる。
「まあまあ!」
おかみさんが驚いたような、納得したような、そんな声を挙げた。
「ついつい、もうひとり分余計に食事を作ってしまうと思っていたんですよ!それにしても、神官さまもお付きの方も、本当に若いわねえ。それなのにしっかりした賢そうなお顔。ウチのバカ息子どもにも見習わせたいわ!あらやだ、神官さまの前で汚い言葉を。失礼しました!」
おやじさんが口をはさむ。
「お前、うちのバカども、とっとっとすんません!せがれ共と比べるなんて、失礼にもほどがあるだろ!いつまでもしゃべっていたんじゃお仕事の邪魔だ!ご案内しろ!……で、どこにいるんですかねえ?」
お構いなく。分かりますので。
笑顔で答えておいた。
「ほんとうにしっかりされて!」
そう言いながら、おかみさんがついてくる。おやじさんも後ろからのっそりとやってくる。幼い息子のことだ。気にならないわけがない。
奥の部屋にたどりつく。
ドアを開けると、ベッドに病気の子供が寝ていた。いや、子供の霊か。何と言うか、存在感が薄い。ヨハン司祭が気づかなかったのもうなずける。
部屋は生前のまま、手を付けていないようだ。
「ああ、やっぱりここですか!どうしても片付けられなくてねえ。まだいるんなら、片付けなくて正解だったわね。」
急に声を潜めた。つもりなのだろうが、十分に大きな声だ。
「で、トマスはどんな様子ですか?」
フィリアがちらりと俺を見る。
「以前については詳しくは存じませんが……おそらく、生前のままのご様子ですよ。そこのベッドに寝ています。」
「死んでるのに気づかないで、まだ病気で寝ているなんて……かわいそうに……。」
おかみさんの大きな声がかすれ始める。
ああ、そうか。だから家から出て来ないんだ。未練のせいなら、外で跳ね回っているはずだ。
ヨハン司祭がつぶやく。
「悪霊化もしていませんね。」
「あ、ええ。悪霊化もしていません。」
大急ぎでつけ加える。
「本当ですか?」
「バカお前、いやすんません!神官さまが嘘をつくわけないだろう!」
湿っぽい自分の声を誤魔化すべく、おやじさんはことさら大きく怒鳴り上げた。
俺は神官ではないのだが……ここで死霊術師(ネクロマンサー)だ、などと言ったら大変なことになるので、黙っておく。フィリアは渋い顔だ。
「それでは霊を浄化します。」
フィリアが言うと、二人は部屋の外に出た。ドア越しにこちらを見ている。
フィリアは、彼女の身の丈にはそぐわない、大ぶりな杖を持って来ていた。
正中線に合わせてその杖を両手で掲げ、先端を額と同じ高さにする。
目を閉じ、何事か唱え始める。子供とは思えない、荘厳な横顔を見せて。
杖の先端が輝きだす。光が大きくなる。
フィリアの目が見開かれた。
強烈な閃光が杖からほとばしる。
光は部屋中を満たし、トマスをも包み込んでゆく。
眠っていたらしいトマスが、目を覚ました。
……その顔は、恐怖に歪んでいた。
「父さん、母さん!どこ!」
必死に助けを求め、フィリアの背後、部屋の戸口に立っていたヨハン司祭を探し当てる。
「司祭さま!助けて!」
閃光が、トマスを灼き尽くしてゆく。
トマスは溶けて、消え。
そして、もう一度トマスのかたちをとって、浮かんできた。
今度は、安らかな顔をしている。
俺たち全員に笑顔を向け、両親を見つめ……。
両親を見つめながら、消えて行った。
部屋を満たしていた浄化の光は、再び杖の先端へと収束していった。
死の気配があったせいか、どこかくすんでいたような部屋が、おどろくほど爽やかで、清浄な空気に満たされている。
「トマスは、天に帰りました。」