The Story of a Different World Dynasty - When I was reincarnated, I was treated like a Necromancer, but I started to wonder if it was bad.
Episode 246: Hiro no Yasuki, Part 4
昼食は、カレーライス……ふうの、何か。
適当に香辛料を混ぜて、そこはかとなくそれらしく作られたもの。
大人数なら、それが一番間違いが無い。
「母ちゃん、虫つかまえた!カブトのメス!」
「どっかに放して手洗って来なさい、ヴィート!」
「やだ!だってカブトだよ!カタリナさんにあげるの!」
万事に控え目なカタリナだが、ひとつだけ「わがまま放題」なところがある。
修道女でいた頃には、服装のおかげもあってあまり目立たなかったけれど。
7つの双子、6つのヴィート、3歳のファギュスと、みな彼女の「母性」()に魅かれてゆく。
ヤンママ(?)であるサイサリス改めヴェロニカは、いわゆるロリ系であって。
芸能人のマリア・クロウは、いわゆるモデル体型。
そのへんの機微に気づくことなく「なんでカタリナさんはチビ共に人気なのかな?」と呟くマグナム氏は、相変わらずの失言居士であり。
カタリナを見て気づいてしまったヒロ・ド・カレワラ氏は、相変わらず少しいやらしいのである。
ともかく小さな紳士の諸君、カタリナに敵わなかったらしい。
母親のいない双子とファギュスについては……まあ分からなくもないけれど。
「私の立場はどうなるの?……でも、いい傾向か。ヴィートはきっちりさせとかなくちゃ。侍女孕ませて殺そうとするヤツなんかにならないように。だいたい、若い頃から抑圧されて、ムッツリ助平だからそうなる!あたしは知ってるんですからね……ヴィート!女の子にほれるのも、口説くのもいい。ただし責任はしっかり取ること!それから女は虫より花が好き!よく覚えときなさい!」
お昼時に核ミサイル級の話題をぶっこむのはやめてもらえませんか、サイサリスさん。
そんな話題よりも、花よりも。男の子は虫が好き。
ヴィートの周りに集まり、覗き込んでみたところ。
「カナブンだろ」
マグナムは断言したけれど、カナブンにしてはかなりデカイ。
確かに「カブトのメス」のサイズ……だが、色はカナブンだ。あれ?コガネムシだっけ?
カナブン?を放り捨てたヴィート、真っ赤になって俯いていた。
男子にとって、虫の知識に疎いことはこの上ない恥辱である。まして昆虫の王・カブトムシを誤認するなど、言語道断の失態。
ヴィートは天真会の極東総本部、つまりは新都の都心で暮らしていたので、仕方無いところはあるけれど……。このままでは「もやしっ子」のイメージが定着してしまう。
「じゃあ明日の朝、カブト取りに行くか?」
子供相手に、露骨な点数稼ぎ。
どうだチビ共。お館様の懿徳を思い知るが良い。
「きょうの夜じゃダメなのか?」
「朝早く取るもんじゃないのか?」
「夜行性だろ?朝うろちょろしているのは、人間で言えば朝寝坊の宵っ張り、夜中の深酒って連中だぜ。せっかくなら、イキの良いのをつかまえたほうが……」
子供達の目に不信感が宿る。
虫の生態を知らぬ輩など、男の風上にも置けぬのである。
ぽんこつ領主に支配される磐森の将来は暗い。
「余計なことを教えるなマグナム!……今日だけだぞ?子供は朝に行くこと!夜の森は危険だし、松明を扱うにはまだ早い!」
逆ギレ気味にごまかしつつ、ふと思う。
なんで俺は……と、その続きを李老師に先回りされてしまった。
「子供の顔色を伺うとは、ダメ親父よの~」
このままでは、聖神教の思うつぼだが。
ともかく、昼食はカレーなのである。
サイドメニューは焼き魚。釣ってきたのを適当に分けて食べているのだが。
ここでも「お館様」の威厳は損なわれた。
みなさん釣果に恵まれたらしく、結構なサイズ。
参ったな……と思ったのはしかし、魚の大きさのことではなくて。
うれしそうにカタリナに自慢している双子のこと。
カストルとポルックスは、特別に大きいのを捕まえていた。
「声が聞こえたんだよ」
「すごいでしょ!」
これまでの育てられ方について、詳細を知っているわけではないけれど。
「異能を使って、何かを言い当てる」たびに褒められてきたことはまず間違いない。
しかしカタリナの反応は薄かった。
もともと彼女は、感情をあまり面に出さない。相手の言動を冷静に受け止めながら、会話や人間関係を構築していくタイプだ。
いや、単純に忙しいだけか。
この日も昼食の配膳はおおわらわ。今年に入ってカレワラ家が急膨張したからだ。
急膨張した理由……新規採用の郎党であるが。彼らは新入りでありつつ「譜代の臣」で。
もと修道女であったカタリナとしては、軽く扱って良い相手では無い。そもそも根っからの侍女ではないだけに、「粗」を見せぬよう必死だというところもある。
相変わらず、その全てを表情には出さないけれど。
だがその反応の薄さに、カストルとポルックスが泣きそうになっていた。
思えばふたりは、周りのおとなを全て失っていたのだった。
おかしな邪教ではあったが、それでも家族は家族。
殺されるところを助けられたということは理解しているようだし、アカイウスあたりが恩着せがましく事情を叩き込んでもいるところだけれど。
今の「家族」に認められようと必死になるのは、当然だよな。
「カストル、ポルックス!手を洗いに行くぞ!」
首根っこをつかんで持ち上げる。
ユルほどの余裕は無い……とか、弱音を吐けぬのがお館様。俺も鍛えないと。
物陰に連れて行き、しゃがんで視線を合わせれば。
またぞろふたりは、野良猫の目つきを見せていて。
「この家にある限り、異能は使わなくて良い。予知ができなくても、誰も責めない。責めさせやしない。私の名をもって約束する」
ポルックスが、こどもらしく大汗が流れ落ちている頬を膨らませた。
「使ってるんじゃない。聞こえてくるんだ。聞こえたとおりにして何が悪いんだよ」
慌てたようにカストルがフォローを入れる。
額から流れているのは、冷や汗ではないと思いたい。
「どんな子だって、家のお手伝い、しなくてはいけないでしょう?僕たちには他にできることなんてないんです」
「カストル、預言や異能のほかにも、君たちにはできることがある。カタリナやヴェロニカに言われたことをやれば良い。お皿を洗ったり、薪を持ってきたり、そういうので良いんだ。……それと、ポルックス。聞こえたからって、そのとおりにする必要は無いよ。大きな魚ぐらい、神様から教えてもらわなくても探せるだろ?かっこ悪いぞ?カブトじゃなくてカナブンだったけど、自分で捕まえたヴィートのほうが偉いだろ?」
たぶんポルックスには、こういう言い方のほうが効くんじゃないかと思ったのだが。
子供を舐めてはいけなかった。
「小魚しか釣れなかったくせに!」
コイツ!
「釣る気がなかっただけですー!よし、じゃあ昼食の後で競争だ!お互いに異能なしだぞ!」
「おう!行くぞカストル!」
あっという間に駆け去って行く。名前にも馴染んだようで、何より。
予想通り、ポルックスは「扱いやすい男子」であった。
が、それだけに。もう片方が知恵を回す。
ふたりはそうして生きてきた。
「聞こえてくる預言には、大人に言わなくちゃいけないものもあると思うんですけど」
「使っちゃダメ」って言われたら、「絶対ダメなの?」って聞き返してくる。
おとなびていても、カストルもまだまだ子供だったか。
「そういう預言は、遠慮しなくて良いよ。私か、誰でも周りの大人に教えてくれ」
少し安心した……つもりになったのが、甘かった。
「大人に言っても、どうにもならないものもあります。洪水とか、教団の破滅とか」
「洪水は……」
言いさしたところを遮られる。
カストルは、おとなの「ごまかし」を許してはくれなかった。
「ええ、仕方ありません。でも教団の破滅は救えたはずなんです。……なのに、教えたら、『次に言ったらキツイお仕置きだ』って。お仕置きされても、僕たちは言わなくちゃいけなかった」
「ポルックスに比べると、少し弱気か」と見えていたカストルだが。
下を向きながらも決して涙を見せぬ様子に、認識を改めた。
「約束する。教えてもらった時には、できるだけのことをする。どうしてもできない時には、ふたりを安全なところに預ける。それで良いか?」
「あいつらのところだけは、絶対に嫌です」
その思いを受け入れるべきか、「矯正」すべきなのか。
迷う俺を一瞥して後、カストルも背を向けて駆け去って行った。