~ソクラたちが見この屋敷に来る1時間前~

ソクラは、美湖を遠回しに追い出したことを、ずっと悔やんでいた。

「ソクラ、あなたが自分を責めることはないわ。あの人たちが、ダークエルフを連れてくるのが悪いのだから。」

ソクラの母、サクラがソクラの肩に手を置き、慰める。しかし、ソクラの表情は暗いままだった。

「ソクラ、いつまでもそんな顔してたら、美湖さんたちだって悲しくなると思うわ。あの人たちだって、あなたに迷惑がかかるから、自分から身を引いてくれたのよ。もし、気に病むなら、今度遊びに行きなさい。さっき、あやめ支部長が新しい家の場所を教えてくれたから。」

サクラが、細かく字の書かれた紙をソクラに渡す。ソクラはそれを受け取るが、明るくなることはなかった。

「ごめんなさい。今日はもう寝るね。こんな顔じゃ、お客様に失礼だし。」

ソクラは、受け取った紙をポケットにしまい、自室に引きこもってしまう。

「あの子には、少し酷な状況かしらね。美湖さんたちをまるで、本当の姉のように慕っていたから。」

サクラは、ソクラを見送ると、残りの仕事を片付けるために、奥の部屋に戻っていった。

~同時刻、町の教会~

「いいか、これより、異端の種族、ダークエルフの捜索を行う。目撃証言などを聞き、迅速に行動せよ。もし、匿ったものがいれば、神の名のもとに浄化せよ!」

教会の中で、何やら、司祭の格好をした若い男が、約30人くらいの兵士の前で指示を出している。

「匿ったとは、どのようなことでしょか?」

一人の兵士が、司祭に問いかける。

「有無、例えば、ダークエルフと知り、宿に止めただの、武器を売っただのだな。神敵であるダークエルフに組するものは、同罪となる。しかし、わが神は慈悲深い。城下のもとに神の身元に送れば、再び幸せな制を与えていただけるだろう。これほどの幸福などありはしないだろう。」

司祭の男は、恍惚の表情を浮かべて説いている。

「さぁ、神に選ばれし神兵たちよ。神の名の下、異端の種族、ダークエルフを見つけ出しとらえるのだ。』

司祭の号令のもと、兵士たちは、我先にとラティアの町に乗り込んでいった。

~ラティアクラン支部~

「支部長、お耳に入れたいことが!」

支部長室のドアを開けて、一人のクラン員が入ってきた。アヤメは片方の眉をつり上げて、

「ったく、アリアといい、お前といいどいつもこいつも、ノックしてから入ってこい。それで、用件は?」

「すみません。先ほど、探索者の一人が報告してきまして、何でも、教会の兵士達が町でダークエルフを探しているらしいのです。」

それを聞いて、アヤメの顔つきが変わった。そして、すぐに指示を出す。

「今すぐ、武器屋、防具屋、服屋、市場、不動産屋、それから、宿屋『安らぎの風亭』に人員を派遣しろ。何か異常があればすぐに知らせろ。それから、だれか、この住所に行ってアリアを連れて来い。」

指示を受けたクラン員はすぐに部屋から出ていく。それと、入れ替わりになるように、別のクラン員がやってきて、

「支部長、大変です。教会の兵士が、安らぎの風亭を全焼させました!!」

その一方は、あやめが一番化のせいが高いだろう、しかし、そうであってほしくないと願っていた答えの最悪のパターンだった。

「...くそ、教会の犬どもが!!あそこの親子は無事か!!?」

「幸い、店主の男は、買い出しに出ていたらしく、今クランのほうで保護、拘束しています。」

「どうして拘束しているんだ?」

物騒な言葉に、聞き返すと、

「妻と娘を探しに行くと、しかし、探索者たちにその依頼を出し、救援に向かわせています。支部長、どうか下に降りてきて指示をください。」

クラン員の言葉に、アヤメは大きくため息をつき部屋を出て一階の広間に降りた。そこには、騒ぎを聞きつけて、集まってきたクラン員たちがいる。探索者だけでなく、商人、騎士、生産者、すべての職のものたちが集まっている。

「クラン所属のみんな、集まってくれて礼を言う。今回の騒動は、探索者の一人がダークエルフを保護したことがきっかけだ。しかし、私はその行動を決して罰しようとは思っていない。あいつは、いつも、自分が正しいと思ったことを全力で行ってきた。この中にも、助けられた者もいるだろう。それに、今回の安らぎの風亭全焼は、明らかに、教会の暴走としか思えない。私は、今から、その探索者の屋敷に行ってくる。皆も、どのように行動するかは任せる。しかし、このまま、この町で、教会の権力を認めれば、この町は終わりだと私は思っている。」

アヤメが言い終わるくらいに、クラン支部の扉を開けて、息を切らし、肩を激しく上下させているアリアが入ってきた。

「はぁ、はぁ、アヤメ支部長、旧スクワード邸に、安らぎの風亭の夫人、サクラ・クエイテール酸と、その娘のソクラさんが、今や式に助けを求めてきました。それに、ここに来る途中で安らぎの風亭の前を通りましたが、全焼していました。いったい何があったのですか?」

「アリア、落ち着いて聞け。教会の馬鹿どもが安らぎの風亭を燃やした。目的はダークエルフだ。おそらく、一晩止めたのをかくまったと判断したのだろう。浄化だとか言って燃やしたに違いない。今、美湖が絡んだところすべてにクラン員を送った。各店にいるよりも、ここにいたほうが何倍も安全だからな。」

「わかりました。しかし、教会がこんな強硬手段に出てくるとは予想外です。私は、屋敷に戻り、美湖さんたちと今後の対策を練ります。」

「待て、私も行こう。一応探索者クランの頭だしな。お前たちが今後どう出るのかは聞いておきたい。」

アリアとアヤメは、支部を出て、美湖たちのいる屋敷に向かった。

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町の教会で、司祭に報告をしている兵士がいた。

「司祭様、どうやら九段のダークエルフは街の北の元貴族の屋敷にいるようです。そこで、一人の探索者の庇護下にあるようです。」

「なるほど、しかし、どうして場所がわかっているのに、ダークエルフを連れてこなかったのですか?」

「っ、それは、司祭様はご存知ですか?各地に点在する塔の階層主の障壁を。その屋敷の周囲をその障壁が覆っていたのです。塔の障壁は現在存在するTSクラスの探索者や、騎士でも破壊できないものです。よって手が出せず、現在、屋敷の周囲を包囲し、逃がさないようにしております。」

兵士の報告に、司祭は少し思案顔になる。

(ふむ、塔の障壁ですか。そのようなことができるものがいるとは。しかし、あれほどの堅牢さを維持するためには相当な魔力が必要のはず。どれほど実力があるかは知りませんが、それほど長くはもたないはず。)

「現在、包囲している兵士たちに伝えてください。その障壁を攻撃するようにと。攻撃を受ければ、魔力を消費するでしょう。敵の魔力を消耗させ、弱ったところをたたくのです。」

指示を受けた兵士は、敬礼をして、

「はっ、すぐに皆に伝えます。それと司祭様もどうか現場にて監督をお願いしたいのですが?」

「そうですね。異端の徒を神の御許に送るのも、私の使命ですしね。では、案内をお願いします。」

司祭は、兵士に案内されて、美湖たちのいる屋敷に向かうのだった。