The story of the son of the mercenary in the north enrolling in the magic school in the south
To the school building.
校舎へ向かう途中、不意にジードが足を止めて振り返った。
硬い表情でアルマークに切り出す。
「……こんなことは言いたくないんだが……」
「なんでしょうか」
「君のお父さんの仕事ね……傭兵というのは……この国ではちょっと聞こえが悪いと思うんだよ」
「傭兵が……ですか」
「この国ではもう百年も戦争が起きてないんだ。戦いといえば辺境に時たま現れる魔物とのものくらいだしね。だから北の人々を野蛮人かのように蔑んでいるような傾向が……あ、いや」
「野蛮人」という言葉に反応してアルマークの目がふっと鋭くなったのを見て、ジードは慌てて手を振った。
「もちろんそんな人ばかりじゃないんだろうけど、一般的にはそういう傾向にあるんだ……特に『傭兵』に対する印象はね……」
「でも、中原からやってくる傭兵団もいますよ」
「現実にはそうかもしれない。でも普通の人はみんな北の人だけが勝手に戦ってると思ってるんだ」
「……」
確かに南の国を旅してきて人々のそういった考えにはアルマークもいやというほど触れてきていた。
自分達は戦争なんかとは無縁である。戦争なんてするのは文明の次元が違う愚かな野蛮人だけだ……確かにそれは幸せな考え方ではある。
殺し合いをせずに生きていけるならそれに越したことはないのだから。
しかしその考え方に同調するということは自分の父、レイズの生き方を否定するということだった。
アルマークにはそれはできなかった。
「けれど僕は……やっぱり……傭兵の……"影の牙“レイズの息子です」
ジードは困ったように頭をかいた。
学院長も酷な任務を与えてくれるものだ。
確かに父の職業を隠してまで如才なく振る舞えというのは11歳の子どもには少し無理な注文だと思えた。
しかし、かといってばらしてしまえば彼は奇異、侮蔑の視線に晒されることになるだろう。
それにノルク魔法学院も王立の施設である。
学生の出身の貴賤を問わないとはいえ、現在の大陸北部の情勢を見ても、傭兵の息子と公言するのは憚られた。
かつて在籍した北の出身者たちもみな王侯貴族の子弟であった。
それさえもここ数年は受け入れていないのだ。
事実、入校関係の書類には、ヨーログの指示でアルマークの父の職業は鍛冶屋と書かれている。
「うん……それはわかるけど……それを言ってしまうとこの学院にいられなくなってしまうんだよ」
アルマークは唇を噛んだ。
こういう決断に迫られるとき、必ず彼は別れの夜の父の言葉を思い出す。
「……頭を使え、アルマーク。何をどうするか、どうすべきなのか、俺に頼らずに自分で考えてみるんだ。勉強を積んで、賢くなって、偉くなって、何人もの人間を動かすようになれ」
アルマークはもう一度強く唇を噛んだ。
……父さん、僕は父さんの息子であることを誇りに思っている。
傭兵の息子だからってバカにするやつは誰であろうと許しはしない。
だけど……
アルマークは厳しい旅のなかで、学んでいた。
自分の感情に素直に従うだけでは、欲しいものなど何も手に入りはしないということを。
ごめん。ごめんよ、父さん。
「……分かりました。父のことは黙っています」
「そう……すまないね」
ジードはほっとした表情を見せた。
校舎の玄関の前で、薄緑色のローブをまとった若い女性が二人を待っていた。
「あっ、君の担任の先生はフィーア先生か。いいなぁ、ちきしょう」
と言ってジードは体をくねくねさせた。
「はあ……」
アルマークがちょっと体を離したとき、その女性が優しい笑顔を浮かべて声をかけてきた。
「はじめまして。アルマーク君ね」
「はい」
「私はフィーア。あなたの編入するクラス、初等部三年二組の担任よ」
「アルマークです。よろしくお願いします」
「……それじゃフィーア先生、あとはよろしくお願いします」
アルマークの後ろでジードが頭を下げた。
「あっ、はい。どうもご苦労様でした、ジードさん」
「いえいえ。……それじゃアルマーク君、僕はいつでも正門にいるからね。なにか相談事があったらいつでもおいで」
「はい。いろいろとありがとうございました」
アルマークはジードと握手を交わした。
「……さぁ、行きましょう。教室はこっちよ」
フィーアがアルマークを校舎の中へと誘う。