The Strongest Wizard Becomes a Countryside Guardsman After Taking an Arrow to the Knee
55 The Seat of the Riding Beast of the Wizard
魔物を倒したあとは、解体して戦利品の回収だ。
これだけは外せない。冒険者の習性だ。
その間、フェムに周囲を警戒してもらう。
「あのさ、フェム。熊が一番強いんじゃなかった?」
「わふぅ?」
フェムは首をかしげている。これは誤魔化している顔だ。
フェム自身、なぜワイバーンなどが出てきたのかわかってなさそうだ。
「まあ、いいけど。なんかやばい予兆があったら教えてね」
『わかったのだ』
解体しながらクルスが言う。
「例のなんでしたっけ? 五人組? とかの仕業ですかね?」
「……五人組じゃなくて魔王軍十二天な」
「そうでした。少し間違えちゃいました」
五人組って何のことか一瞬考えてしまった。
十二天の手口は魔獣のゾンビ化と巨大化だった。
今日の魔獣にはそんな様子はなかった。天然ものだと感じた。
「もぉ」
「モーフィ少し待ってて」
暇なのか、モーフィがおでこを俺の背中に押し付けてくる。
適当にあしらって解体を続けていると、
「まふ」
髪の毛をかじられた。
「おいしくないぞ」
「まふまふ」
モーフィは飽きずに俺の髪をはむはむしている。
なんとかモーフィをなだめて引き離す。
それをフェムがじっと見ている。
「……わふ」
「フェム。まさかとは思うが、髪の毛食べたいとか思ってないだろうな」
『……そんなわけないのだ』
完全にフェムの目が泳いでいる。やめてほしい。
解体の終わりがけ。髪の毛を触られた。
「モーフィ、食べちゃだ……、クルス?」
「もちろん食べないですよ?」
髪の毛を触っているのはクルスだった。
解体を先に終わらせて暇だったのかもしれない。
クルスは結構真剣な顔で、俺の髪の毛をいじっている。
「なにか、付いてた?」
「はい。モーフィのよだれが」
「そうだよね」
「はい」
クルスは、まだいじっている。
「あの、クルスさん?」
「はい?」
「俺の髪の毛どうかした?」
「なんか触りたくなっちゃいまして」
「……そう」
クルスはなにを考えているのか、よくわからない時がある。
ひとしきり触った後、飽きたのか、クルスはフェムを撫でにいった。
そうこうしている間に解体が終わる。戦利品を全て魔法のかばんに詰め込んだ。
「残りは燃やしちゃうぞ」
「はい。お願いします」
『待つのだ』
フェムから待ったがかかった。
魔獣の死骸は余裕があれば燃やすのが冒険者のマナーだ。
腐ると臭いし、疫病の原因にもなるかもしれないからだ。
「フェム、どうした?」
『魔狼たちが食べるのだ』
「なるほど。それなら頼む」
フェムは一度うなずくと、空に向かって遠吠えした。
「わぉおぉぉおおおおぉおおおおおん!」
「もぉおおおおおお」
なぜかモーフィも真似をして鳴く。
死骸は魔狼たちに任せて俺たちは村に帰ることにした。
「もぉもお」
「どうした?」
モーフィが体をなすり付けてくる。
『のって』
「わふぅっ?」
モーフィが俺に乗れと要求してくる。
フェムがビクンとした。
「フェム。いいか?」
『ふん。好きにすればいいのだ』
「じゃあ、モーフィお願い」
「わふっ?」
またフェムがビクンとした。
「フェムどうした?」
『もう知らないのだっ』
フェムは走っていった。拗ねたかもしれない。
あとでたくさん撫でてやろう。
「わはは、まてまてー」
クルスは、楽しそうにフェムを走って追いかけていった。
俺がモーフィに乗ると、モーフィは楽しそうに走り出す。
モーフィは結構速かった。普通の馬よりも速いだろう。
「もおもぉもお」
「モーフィ、楽しそうだな」
「もぅ!」
モーフィは心底嬉しそうだ。喜んでもらえたようでよかった。
村に帰るとヴィヴィに出迎えられる。
ヴィヴィはふたのない浅い木箱に種イモを並べていた。場所は倉庫の近くだ。
箱の底にはしっかりと魔法陣を描いている。
「ヴィヴィお疲れさま」
「うむ。こうやって、日光にさらせば、2、3日のうちに植えられるようになるのじゃ」
本来、種イモの芽だしには2,3週間かかる。
さすがはヴィヴィの魔法陣。驚異の短縮率である。こういう時にはものすごく助かる。
普段ならば、2,3週間前に準備を始めればいいだけだが、今回のようにどうしても時間がないときもあるのだ。
「芽出しの途中で雨降ったりしても大丈夫?」
「……あまりよくないのじゃ」
「それは困った」
最近は晴天が続いている。二、三日ならたぶん大丈夫だ。
だが、雨が降る可能性を考慮しないわけにはいかない。
ヴィヴィと俺が困っていると、ミレットが俺の袖を引っ張った。
「箱のふたならありますよ?」
「お、そうなの?」
ミレットは片手にふたを持っていた。
「はい、雨が降ったときには、ふたをかぶせてもらえれば」
「それで問題ないな。ミレットありがとう」
ヴィヴィはふたを調べながら言う。
「だが、気づかぬうちに雨に降られたら……、困るのじゃ」
「魔狼たちに頼もう。フェム!」
「…………」
フェムは種イモの向こうに座っている。
こちらに背を向けて動かない。返事もしない。
ヴィヴィが耳元でささやいてくる。
「……フェムはどうしたのじゃ?」
「……モーフィに乗ったから怒っているのかも」
「なるほどなのじゃ」
俺はフェムのところに行く。
「フェム? 怒ってる?」
『……怒ってないのだ』
「でも、返事しないし」
『そもそも、フェムが怒る理由がないのだ』
「モーフィに乗ったから……」
『自意識過剰なのだ。アルを乗せないで済んでフェムは楽でよかったのだ』
「えー。俺はフェムに乗せてもらえると助かるんだけど」
『モーフィに乗せてもらえばいいのだ』
「やっぱりフェムに乗せて欲しいな」
フェムは背を向けたままだ。だが尻尾が揺れた。
『…………』
「ダメかな?」
『……仕方ないのだ』
「ありがと」
フェムと仲直りできた。
フェムが魔狼たちに雨が降ったら、箱にふたをかぶせるように指示を出してくれた。
これで心配ない。
そんなことをしていると、モーフィがフェムに近づいていく。
「もぅ」
「……わふ」
『おこる?』
『怒ってないのだ』
「……」
『アルを乗せて嬉しかったのだな?』
『うれしかった』
『たまにならいいのだ』
『ありがと』
なにやらフェムとモーフィの間の話し合いも解決したようだった。
喧嘩しなくても、いくらでも乗ってあげるのに。
「アルは動物にモテモテなのだわ」
「人間にも同じくらいモテたらよかったのにね」
いつの間にかにやって来ていたユリーナとルカにからかわれた。