The Strongest Wizard Becomes a Countryside Guardsman After Taking an Arrow to the Knee
216 Winter in Murg Village
俺はいつものように、ムルグ村の入り口に衛兵として座っていた。
今日は天気は良いのに、風が冷たい。
「完全に冬だな」
「わふ?」
隣に座っていたフェムが首をかしげる。
まだ、寒くなるのはこれからだと言いたげだ。
「フェムは寒くないのか?」
『余裕なのだ。魔狼の毛皮は暖かいのだ』
「そうか。それならいいんだがな。もし寒かったら、やせ我慢せずにちゃんと言うんだぞ?」
『わかったのだ』
倉庫の近くではシギショアラが子魔狼たちと遊んでいる。
「子供たちは冬でも元気だな」
「わふ」
「子魔狼たちは寒くないのか?」
『子魔狼も小さくても魔狼なのだ。毛皮が分厚いのだ』
「そうか。寒がってたら言えよ。何とかするからな」
『ありがと』
俺は狼小屋の方を見た。
狼小屋にはヴィヴィが断熱効果のある魔法陣を張っている。
だから、外より断然暖かいはずである。
その点はともかく、食糧事情はどうだろうか。
魔狼たちが狩ってくる獲物も少なくなってきている気がする。
「フェム。食糧は大丈夫か?」
『まだ大丈夫である』
「獲物、ちゃんと獲れているか?」
『冬だから減るのは仕方ないのだ』
「そうか。大変になったら、言うんだぞ」
「わふ」
「子魔狼たちは育ちざかりだろうしな」
『助かるのだ』
そんなことを話していると、ヴィヴィがモーフィに乗ってやってきた。
牛の世話が終わったのだろう。
ヴィヴィは厚着だ。
いつものつなぎの作業着の上に、もこもこのフード付きコートを着ている。
加えて暖かそうなブーツと分厚い手袋をつけている。
「ヴィヴィ、暖かそうだな」
「アルよりは暖かいと思うのじゃ。というか、アルは夏とあまり服が変わっていないのじゃ」
「いや、中に着ているものが、暖かい素材になっているんだぞ」
俺は基本、いつも魔導士のローブである。
魔法で強化している高級品だ。炎熱や雷撃耐性などもついている。
耐性値が高くないと、自分の使う魔法で服が破けてしまうので仕方がない。
「もう少し暖かい格好をしないと風邪をひくのじゃ」
「もっもう!」
モーフィが俺のお腹辺りに鼻をうぐうぐと押し付ける。
俺はモーフィを撫でてやる。
「モーフィは寒くないか?」
「もぅ?」
モーフィはキョトンとして首をかしげる。
全く寒くなさそうだ。毛皮が温かいのかもしれない。
「寒かったら言うんだぞ」
「もっも!」
寒ければ、クルスが持っていた馬着《ばちゃく》みたいなのを買ってきてもいい。
そんなことを話していると、衛兵小屋からチェルノボクが出てきた。
「ぴぎっぴぎっ!」
元気に跳びはねている。
「チェルは元気だな」
「ぴぎぃ!」
俺のひざにぴょんと乗る。
チェルノボクを優しくなでると少し暖かかった。
チェルノボクには、フェムたちと違って毛が生えていない。つるつるだ。
「チェルは寒くないのか?」
『さむくないよ』
スライムは寒さに強いのかもしれない。
『ちぇる、きょうはむらにいくー』
「死神教団の村?」
『そうー』
「手伝うことある?」
『だいじょうぶー。ありがと』
そういって、チェルノボクはふるふると震えた。
モーフィとチェルノボクが来たことに気づいて、シギもやってくる。
子魔狼たちも一緒だ。
「りゃっりゃー」
「きゃふきゃふ!」
「ぴぎぴぎっ」
チェルとシギ、子魔狼たちは仲が良い。
シギも子魔狼たちも、チェルに乗るのが好きらしい。じゃれつき始めた。
死神教団の村づくりは軌道に乗った。
信者たちも徐々に集まり、住居の建設も余裕をもって進めている。
道の整備も順調だ。
それでも、たびたび、チェルノボクは死神教団に出かけている。
やはり村づくりが気になるのだろう。
もしくは、飼育係たる司祭に会いたいのかもしれない。
村づくりが順調でも、これから冬だ。
何か問題が起こるかもしれない。その時は助け合わなければなるまい。
「困ったことがあったら、すぐに言うんだぞ」
『うん、ありがとー』
「司祭によろしくな」
『わかったー』
チェルノボクはまたぴょんぴょん跳んで、転移魔法陣のある倉庫の方に向かった。
「りゃあ」
「きゃふ」
チェルを見送るシギたちは少し寂しそうだ。
「シギは寒くないか?」
「りゃ? りゃぁ」
シギは首をかしげる。
シギもチェルと同じく毛が無い。不安だ。
あとで古代竜には防寒具が必要か、ティミに聞いてみよう。
そんなことを考えていると、ヴィヴィが真面目な顔で言う。
「ふむ。シギにも防寒具を作ってやるべきやも知れぬな」
「りゃあっ」
シギが嬉しそうに鳴く。
寒いかどうかは別にして、防寒具が着たいのだろう。
きっと可愛い。
「ヴィヴィ、お願いできる?」
「任せるのじゃ!」
「りゃっりゃー」
シギが鳴きながらヴィヴィに向けて頭を下げる。
シギはお礼の言えるよい子に育ってくれているようだ。
とても嬉しい。
その時、コレットとミレットがやってきた。
魔法の授業の時間だ。
「アルさん、魔法教えてください」
「おっしゃん。魔法おしえてもらいにきたよー」
ミレットとコレットはゴーレム操作がとてもうまくなった。
つまり、魔力操作がかなり上達したということだ。
そろそろ、上級魔法を教えてもいいかもしれない。
しばらく真面目に魔法を教える。
ヴィヴィやシギ、モーフィにフェムも真面目な顔でその様子をしっかり見ていた。
「よし、今日はここまで!」
「先生、ありがとうございます!」
「おっしゃん、ありがとございます!」
授業の終わりを宣言すると、ミレットとコレットは頭を下げた。
その時、大きめの声が響いた。
「やっと見つけたのです! 師匠!」
フードを深くかぶった少女が少し離れたところに立っていた。