俺はいつものように、ムルグ村の入り口に衛兵として座っていた。

今日は天気は良いのに、風が冷たい。

「完全に冬だな」

「わふ?」

隣に座っていたフェムが首をかしげる。

まだ、寒くなるのはこれからだと言いたげだ。

「フェムは寒くないのか?」

『余裕なのだ。魔狼の毛皮は暖かいのだ』

「そうか。それならいいんだがな。もし寒かったら、やせ我慢せずにちゃんと言うんだぞ?」

『わかったのだ』

倉庫の近くではシギショアラが子魔狼たちと遊んでいる。

「子供たちは冬でも元気だな」

「わふ」

「子魔狼たちは寒くないのか?」

『子魔狼も小さくても魔狼なのだ。毛皮が分厚いのだ』

「そうか。寒がってたら言えよ。何とかするからな」

『ありがと』

俺は狼小屋の方を見た。

狼小屋にはヴィヴィが断熱効果のある魔法陣を張っている。

だから、外より断然暖かいはずである。

その点はともかく、食糧事情はどうだろうか。

魔狼たちが狩ってくる獲物も少なくなってきている気がする。

「フェム。食糧は大丈夫か?」

『まだ大丈夫である』

「獲物、ちゃんと獲れているか?」

『冬だから減るのは仕方ないのだ』

「そうか。大変になったら、言うんだぞ」

「わふ」

「子魔狼たちは育ちざかりだろうしな」

『助かるのだ』

そんなことを話していると、ヴィヴィがモーフィに乗ってやってきた。

牛の世話が終わったのだろう。

ヴィヴィは厚着だ。

いつものつなぎの作業着の上に、もこもこのフード付きコートを着ている。

加えて暖かそうなブーツと分厚い手袋をつけている。

「ヴィヴィ、暖かそうだな」

「アルよりは暖かいと思うのじゃ。というか、アルは夏とあまり服が変わっていないのじゃ」

「いや、中に着ているものが、暖かい素材になっているんだぞ」

俺は基本、いつも魔導士のローブである。

魔法で強化している高級品だ。炎熱や雷撃耐性などもついている。

耐性値が高くないと、自分の使う魔法で服が破けてしまうので仕方がない。

「もう少し暖かい格好をしないと風邪をひくのじゃ」

「もっもう!」

モーフィが俺のお腹辺りに鼻をうぐうぐと押し付ける。

俺はモーフィを撫でてやる。

「モーフィは寒くないか?」

「もぅ?」

モーフィはキョトンとして首をかしげる。

全く寒くなさそうだ。毛皮が温かいのかもしれない。

「寒かったら言うんだぞ」

「もっも!」

寒ければ、クルスが持っていた馬着《ばちゃく》みたいなのを買ってきてもいい。

そんなことを話していると、衛兵小屋からチェルノボクが出てきた。

「ぴぎっぴぎっ!」

元気に跳びはねている。

「チェルは元気だな」

「ぴぎぃ!」

俺のひざにぴょんと乗る。

チェルノボクを優しくなでると少し暖かかった。

チェルノボクには、フェムたちと違って毛が生えていない。つるつるだ。

「チェルは寒くないのか?」

『さむくないよ』

スライムは寒さに強いのかもしれない。

『ちぇる、きょうはむらにいくー』

「死神教団の村?」

『そうー』

「手伝うことある?」

『だいじょうぶー。ありがと』

そういって、チェルノボクはふるふると震えた。

モーフィとチェルノボクが来たことに気づいて、シギもやってくる。

子魔狼たちも一緒だ。

「りゃっりゃー」

「きゃふきゃふ!」

「ぴぎぴぎっ」

チェルとシギ、子魔狼たちは仲が良い。

シギも子魔狼たちも、チェルに乗るのが好きらしい。じゃれつき始めた。

死神教団の村づくりは軌道に乗った。

信者たちも徐々に集まり、住居の建設も余裕をもって進めている。

道の整備も順調だ。

それでも、たびたび、チェルノボクは死神教団に出かけている。

やはり村づくりが気になるのだろう。

もしくは、飼育係たる司祭に会いたいのかもしれない。

村づくりが順調でも、これから冬だ。

何か問題が起こるかもしれない。その時は助け合わなければなるまい。

「困ったことがあったら、すぐに言うんだぞ」

『うん、ありがとー』

「司祭によろしくな」

『わかったー』

チェルノボクはまたぴょんぴょん跳んで、転移魔法陣のある倉庫の方に向かった。

「りゃあ」

「きゃふ」

チェルを見送るシギたちは少し寂しそうだ。

「シギは寒くないか?」

「りゃ? りゃぁ」

シギは首をかしげる。

シギもチェルと同じく毛が無い。不安だ。

あとで古代竜には防寒具が必要か、ティミに聞いてみよう。

そんなことを考えていると、ヴィヴィが真面目な顔で言う。

「ふむ。シギにも防寒具を作ってやるべきやも知れぬな」

「りゃあっ」

シギが嬉しそうに鳴く。

寒いかどうかは別にして、防寒具が着たいのだろう。

きっと可愛い。

「ヴィヴィ、お願いできる?」

「任せるのじゃ!」

「りゃっりゃー」

シギが鳴きながらヴィヴィに向けて頭を下げる。

シギはお礼の言えるよい子に育ってくれているようだ。

とても嬉しい。

その時、コレットとミレットがやってきた。

魔法の授業の時間だ。

「アルさん、魔法教えてください」

「おっしゃん。魔法おしえてもらいにきたよー」

ミレットとコレットはゴーレム操作がとてもうまくなった。

つまり、魔力操作がかなり上達したということだ。

そろそろ、上級魔法を教えてもいいかもしれない。

しばらく真面目に魔法を教える。

ヴィヴィやシギ、モーフィにフェムも真面目な顔でその様子をしっかり見ていた。

「よし、今日はここまで!」

「先生、ありがとうございます!」

「おっしゃん、ありがとございます!」

授業の終わりを宣言すると、ミレットとコレットは頭を下げた。

その時、大きめの声が響いた。

「やっと見つけたのです! 師匠!」

フードを深くかぶった少女が少し離れたところに立っていた。