それにしても頭突きの感触でゾンビだと気づいたモーフィはすごい。

「モーフィ、えらいぞ! よく気が付いた」

「りゃ!」

俺はモーフィを撫でまくった。

シギショアラも、俺の懐から顔だけ出してモーフィを褒めたたえている。

「もっも!」

モーフィも誇らしげだ。

「……」

ゾンビが無言で起き上がり、襲い掛かってきたので、とどめを刺した。

ゾンビになったら、もう戻らない。とどめを刺すのが慈悲なのだ。

「チェルノボク連れてくれば良かったな」

「そうね」

チェルノボクなら死王の権能でゾンビを一斉に倒すことが出来る。

とはいえ、今からムルグ村に戻っている時間はない。

「レア。モーフィに乗ってくれ。モーフィの背の上なら安全だ」

「わかりました」

「も!」

レアが、ヴィヴィの後ろに乗ったのを確認してから、ルカたちに言う。

「ゾンビを使っているなら、話し合いは後でいいだろう」

「わかったわ。奥まで突っ切るわね」

「とりあえず、突っ込めばいいのだわ」

ユリーナは魔王城に先頭で突っ込んでいく。

「アル。ユリーナを追うわよ」

ルカは俺を小脇に抱える。そして走り出した。

モーフィもついてくる。

「ちょ、ちょっと、ルカ」

「黙ってなさい。舌噛むわよ。アルはひざが痛いのだから、仕方ないわ」

「そうはいっても……」

「フェムがいないんだから、仕方ないでしょう?」

それなら、俺がモーフィに乗ればいいのだ。

モーフィなら三人ぐらい余裕で乗せられる。

だが、ルカも、モーフィも足を止めない。

「りゃありゃあ!」

シギは楽しいのか、はしゃいでいる。

「まあ、いっか」

シギが楽しいのならそれでいい。

「ルカ、戦いにくくないか?」

「やばい奴が出てきたら降ろすわよ。それに……」

ルカは前方に目をやる。

そこには、ゾンビを蹴散らしながら進んでいるユリーナの姿があった。

「どっせえええい」

ユリーナは足を緩めず、大声をあげると同時に、左から右に水平に杖をふるう。

それだけで、五体のゾンビが吹き飛んだ。

「私は走ってるだけでいいみたい」

「そうだな」

立ちふさがるゾンビはユリーナが、全てなぎ倒している。

「そういえば、ユリーナが杖をふるう姿、久しぶりに見た気がする」

「そうね」

ユリーナは魔法の鞄から杖を取り出してふるっていた。

ユリーナの杖は長くて軽い木製の杖だ。

そう簡単に壊れないように、俺の魔法は一応かけてある。

とはいえ、打撃武器であるメイスではないのだ。

俺のかけた魔法も打撃の威力を高めるようなものではない。

「ただの木の棒でも、ユリーナが振るえばすごい威力になるもんだな」

「……ハンマーとかメイスにすればいいのに」

「そうだな」

後ろでそんなことを話している間も、ユリーナはゾンビを駆逐していく。

魔王城にいるゾンビは、人型だけではない。

魔獣型のゾンビもかなりいた。

立ちふさがる人型ゾンビをユリーナは杖でなぎ倒す。

それと同時に、真上から巨大な蜘蛛がユリーナを襲った。

蜘蛛はゾンビになっても壁や天井を這うので恐ろしい。

「せぃ!」

気合の入った声と同時に、ユリーナはこぶしを突き上げる。

「GIIIIII」

蜘蛛が悲鳴を上げた。

ユリーナのこぶしが蜘蛛の腹を突き破る。

ユリーナは蜘蛛の体液を頭からかぶった。

それでも全く動じない。さすがはSランク冒険者だ。

「叫び声をあげたってことは、ゾンビではないわね」

「自称魔王のペットか?」

「ペットなのかしら」

そんなことを会話していると、

「お、驚かれないのですか?」

レアが若干引いていた。

「いつものことだからな」

「そうね、いつものことよ」

「……そうなのですね」

気持ちはわからなくもない。

ユリーナは杖で敵をなぎ倒しながら、こぶしで敵を貫いている。

聖女のイメージからはかけ離れた戦い方だ。

返り血と返り体液で、白いローブが凄い色になっている。

「……ユリーナ。ストレスが溜まっているのかもしれないわ」

「……そうか。そうかもしれないな」

適度にこぶしで戦った方が、ユリーナの精神衛生上いいのかもしれない。

俺はルカに抱えられて運ばれながら、ユリーナが倒した残骸を見る。

「数は多いが、強さはそうでもないな」

「そうね」

「だが、人のゾンビが多いのが気になる」

レアは人のゾンビが出る度、睨むように見ている。

兄ではないか確認しているのだろう。

俺はレアの兄がゾンビになっていないことを祈った。

ユリーナは快調に進んでいく。

以前来た時と、構造は変わっていない。

おそらく自称魔王は奥にいる。

だから、寄り道せずにまっすぐ奥へと進む。部屋などはすべて無視だ。

「モーフィ。強そうなやつの臭いがしたら教えてくれ」

「もっ」

俺たちは魔王の間の前に到達した。

ユリーナは止まることなく、魔王の間の扉を蹴破った。

扉が開くと同時に、バジリスクのゾンビがユリーナを襲う。

「せぇええい!」

ユリーナが杖をふるい、バジリスクはそのまま奥へと吹き飛ばされる。

奥にいた魔族が、そのバジリスクを片手で弾き、

「随分と好き勝手やってくれたようだな」

不機嫌そうな顔でそう言った。