The Strongest Wizard Becomes a Countryside Guardsman After Taking an Arrow to the Knee
339 Let's push through Demon King's Castle
それにしても頭突きの感触でゾンビだと気づいたモーフィはすごい。
「モーフィ、えらいぞ! よく気が付いた」
「りゃ!」
俺はモーフィを撫でまくった。
シギショアラも、俺の懐から顔だけ出してモーフィを褒めたたえている。
「もっも!」
モーフィも誇らしげだ。
「……」
ゾンビが無言で起き上がり、襲い掛かってきたので、とどめを刺した。
ゾンビになったら、もう戻らない。とどめを刺すのが慈悲なのだ。
「チェルノボク連れてくれば良かったな」
「そうね」
チェルノボクなら死王の権能でゾンビを一斉に倒すことが出来る。
とはいえ、今からムルグ村に戻っている時間はない。
「レア。モーフィに乗ってくれ。モーフィの背の上なら安全だ」
「わかりました」
「も!」
レアが、ヴィヴィの後ろに乗ったのを確認してから、ルカたちに言う。
「ゾンビを使っているなら、話し合いは後でいいだろう」
「わかったわ。奥まで突っ切るわね」
「とりあえず、突っ込めばいいのだわ」
ユリーナは魔王城に先頭で突っ込んでいく。
「アル。ユリーナを追うわよ」
ルカは俺を小脇に抱える。そして走り出した。
モーフィもついてくる。
「ちょ、ちょっと、ルカ」
「黙ってなさい。舌噛むわよ。アルはひざが痛いのだから、仕方ないわ」
「そうはいっても……」
「フェムがいないんだから、仕方ないでしょう?」
それなら、俺がモーフィに乗ればいいのだ。
モーフィなら三人ぐらい余裕で乗せられる。
だが、ルカも、モーフィも足を止めない。
「りゃありゃあ!」
シギは楽しいのか、はしゃいでいる。
「まあ、いっか」
シギが楽しいのならそれでいい。
「ルカ、戦いにくくないか?」
「やばい奴が出てきたら降ろすわよ。それに……」
ルカは前方に目をやる。
そこには、ゾンビを蹴散らしながら進んでいるユリーナの姿があった。
「どっせえええい」
ユリーナは足を緩めず、大声をあげると同時に、左から右に水平に杖をふるう。
それだけで、五体のゾンビが吹き飛んだ。
「私は走ってるだけでいいみたい」
「そうだな」
立ちふさがるゾンビはユリーナが、全てなぎ倒している。
「そういえば、ユリーナが杖をふるう姿、久しぶりに見た気がする」
「そうね」
ユリーナは魔法の鞄から杖を取り出してふるっていた。
ユリーナの杖は長くて軽い木製の杖だ。
そう簡単に壊れないように、俺の魔法は一応かけてある。
とはいえ、打撃武器であるメイスではないのだ。
俺のかけた魔法も打撃の威力を高めるようなものではない。
「ただの木の棒でも、ユリーナが振るえばすごい威力になるもんだな」
「……ハンマーとかメイスにすればいいのに」
「そうだな」
後ろでそんなことを話している間も、ユリーナはゾンビを駆逐していく。
魔王城にいるゾンビは、人型だけではない。
魔獣型のゾンビもかなりいた。
立ちふさがる人型ゾンビをユリーナは杖でなぎ倒す。
それと同時に、真上から巨大な蜘蛛がユリーナを襲った。
蜘蛛はゾンビになっても壁や天井を這うので恐ろしい。
「せぃ!」
気合の入った声と同時に、ユリーナはこぶしを突き上げる。
「GIIIIII」
蜘蛛が悲鳴を上げた。
ユリーナのこぶしが蜘蛛の腹を突き破る。
ユリーナは蜘蛛の体液を頭からかぶった。
それでも全く動じない。さすがはSランク冒険者だ。
「叫び声をあげたってことは、ゾンビではないわね」
「自称魔王のペットか?」
「ペットなのかしら」
そんなことを会話していると、
「お、驚かれないのですか?」
レアが若干引いていた。
「いつものことだからな」
「そうね、いつものことよ」
「……そうなのですね」
気持ちはわからなくもない。
ユリーナは杖で敵をなぎ倒しながら、こぶしで敵を貫いている。
聖女のイメージからはかけ離れた戦い方だ。
返り血と返り体液で、白いローブが凄い色になっている。
「……ユリーナ。ストレスが溜まっているのかもしれないわ」
「……そうか。そうかもしれないな」
適度にこぶしで戦った方が、ユリーナの精神衛生上いいのかもしれない。
俺はルカに抱えられて運ばれながら、ユリーナが倒した残骸を見る。
「数は多いが、強さはそうでもないな」
「そうね」
「だが、人のゾンビが多いのが気になる」
レアは人のゾンビが出る度、睨むように見ている。
兄ではないか確認しているのだろう。
俺はレアの兄がゾンビになっていないことを祈った。
ユリーナは快調に進んでいく。
以前来た時と、構造は変わっていない。
おそらく自称魔王は奥にいる。
だから、寄り道せずにまっすぐ奥へと進む。部屋などはすべて無視だ。
「モーフィ。強そうなやつの臭いがしたら教えてくれ」
「もっ」
俺たちは魔王の間の前に到達した。
ユリーナは止まることなく、魔王の間の扉を蹴破った。
扉が開くと同時に、バジリスクのゾンビがユリーナを襲う。
「せぇええい!」
ユリーナが杖をふるい、バジリスクはそのまま奥へと吹き飛ばされる。
奥にいた魔族が、そのバジリスクを片手で弾き、
「随分と好き勝手やってくれたようだな」
不機嫌そうな顔でそう言った。