魔法による催眠を解除したからといって、意識が戻るわけではない。
「レア、すまないが拘束はこのままにしておく」
「はい。わかっています」
覚醒直後の混乱から、暴れる可能性がある。
「ユリーナ。それにしても早かったな」
「思っていたよりも、骨が折れてなかったのだわ」
ユリーナは自称魔王の状態を調べながら言う。
自称魔王は体中の骨という骨が折れているが、レアの兄はそうでもなかったらしい。
「きっと骨が頑丈なのだわ」
それでも三十本は折れていたようだ。
やはりユリーナの治療の早さは異常だ。
俺はレアに尋ねる。
「そういえば、お兄さんの名前はなんていうんだ?」
「レオです」
「そうか。いい名前だ」
レアの兄でレオ。憶えやすくていい。
しばらくたって、ルカ、ヴィヴィ、モーフィが戻ってくる。
「なにか、面白いものはあったか?」
「よくわからない魔動機械があったわ」
「転移魔法陣を組み込んだ、なにやら複雑な奴じゃ」
「ほほう」
あとで調べなければなるまい。
さらにしばらく待って、レオが目を覚ました。
自称魔王より早く目を覚ましたのは、ユリーナの治癒魔法のおかげだろう。
「……にいちゃ」
「レア?……どうしてここに?」
「レア、にいちゃのこと、ずっと探してたんだよ」
レアはレオに抱きついて、泣きじゃくる。
困惑していたレオも、状況を理解しはじめたのだろう。
レアに向かって泣きながら謝っていた。
「りゃあ」
それをじっとシギショアラは見つめていた。
俺もレアたちが落ち着くまで見守ることにする。
暴れる様子もないので、一応魔法の拘束は解いておいた。
しばらく泣いた後、落ち着いてレアとレオは頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました」
「兄を助けてくれてありがとうございます」
「冒険者同士、助け合いだからな、気にするな」
そこにルカが言う。
「ところで、聞きたいことがあるのだけど」
「なんでもお聞きください」
それからルカのレオに対する聞き取りが始まった。
俺は魔人と自称魔王の見張りをしておく。
「レアちゃんは、こっちから聞くまで何も言わないでね」
「はい」
二人の話の整合性を確認するためだろう。
「まず、こいつとはいつ、どこで知り合ったの?」
ルカは自称魔王を指さした。
「私は魔王が討伐された後、エルケーの街で冒険者をやっていました」
「へぇ。意外なのだわ」
「依頼料は代官のかけた税金のせいで、雀の涙でしたが、唯一のBランク冒険者ということで、頼りにされていましたし……」
ギルドマスターが上納金の支払いを断った後、殺されたのが唯一のBランク冒険者だ。
それがどうやら、レオのことで、生きていたらしい。
そういえば、大量の血と肉塊が残っていただけと言っていた。
それが偽装だったのかもしれない。
「それがどういう経緯で、こいつの部下に?」
ルカはあえて、ギルドマスターから聞いたことに触れない。
矛盾点がないか、慎重に確認したいのだろう。
「こいつは魔王城に住み、上納金を要求してきました。俺もギルドマスターも当然断わります。すると次の日、魔人に襲われ捕縛されました」
「魔人なら、Bランク冒険者があらがうのは難しいかもしれないわね」
「はい。そして魔王城に運ばれました」
それから魔法の催眠にかけられ、配下にされたのだという。
「たくさんの人は殺されたのに、どうして、あなたは殺されなかったのかしら?」
「こいつはほかの者も殺さずに、魔王城に攫っているのです。そしてゾンビにするか決めていました」
攫われると魔法の催眠をかけられるのだという。
それから何ができるのか、どんな家族がいるのか全て白状させられる。
そして、有用だと思われたら魔法催眠状態のまま利用される。
催眠のまま維持するのは、ゾンビより細かい命令をだせるからだ。
そして、有用ではないと判断されれば、ゾンビにされてしまうのだ。
その後、レオはクルス領の精霊大量発生を命じられた。
それが失敗に終わった後は、魔動機械の操作、整備に従事していたのだという。
レアを手ごまにしたので、兄の方は整備に回したのだろう。
それだけ魔動機械が重要だったということかもしれない。
「その魔動機械ってどんなものなの?」
「はい。転移魔法陣機能と、魔石や薬物などを生成できる機械です」
そして魔石や違法な薬物を王都に流し、資金を得ていたようだ。
ネグリ一家とのコネクションもそこで築いたのに違いない。
自称魔王の経済的な生命線といえる。
「その機械って、精霊石は生成できないの?」
「はい。魔石は生成できたのですが、精霊石は生成できないのです」
それで、レアを使って、精霊石を生成しようとしたようだ。
それもとん挫して、俺たちから買おうとしたに違いない。
「こうなると、自称魔王の方から話を聞きたいわね」
「そうだな。ユリーナ。自称魔王が意識を取り戻すぐらいの治癒かけられるか?」
「……とてもむずかしいことを言うのだわ」
そう言いながら、ユリーナは治癒魔法を自称魔王にかける。
レオの時より、時間をかけて治していた。
「胴体の骨は大体つなげたけど……手足は一部そのままにしといたのだわ」
「それがいい。逃げられたら困るしな」
そして、俺は自称魔王の顔に魔法で作った氷を当てる。
しばらくして、自称魔王は意識を取り戻した。