The Tanaka Family Reincarnates
The prince's distress.
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
狩人の授業に向かっていると令嬢達のあられもない叫び声が上がった。
振り向くとエマと別れた、刺繍の授業への道から物凄い形相で何人もの令嬢が走ってくる。
「な、何事!?」
いつもはゆっくりと、お淑やかに歩いている令嬢が全速力で、膝から血を流す者すらいるではないか。
「あちらは、エマ様が行った道!エマ様が危ない!!」
どんな形相で、令嬢が逃げて来ようともヨシュアに迷いはない。
直ぐにエマのもとへ走り出す。
「こっこれ、エマ姉様が原因とかじゃ……ないですよね!?」
「それを願うしかないだろ!」
ウィリアムとゲオルグもヨシュアを追い、令嬢の逃げる方向と逆に向かって走る。
「殿下」
エマの大事と、狩人の授業に来ていた王子も向かおうとするところで、アーサーに止められる。
「殿下は、行ってはなりません。もし、本当に危険があるとするなら、誰よりも先に避難しなくては」
学園内において、アーサーは王子の護衛でもある。
危険に近づけさせることはできない。
「しかし、アーサー、エマが!」
「殿下、お立場を考えて下さい」
ぐっと腕をアーサーに握られ、阻まれる。
好きな女の子が危険な目に遭っているかもしれないとゆうに、助けにもいかせてもらえない。
王族として守られるだけの自分が悔しく、頭で考えるよりも勝手に体がエマを助けに向かえるヨシュアが羨ましい。
王子が商人の子を羨ましく思うなんて……。
「殿下、殿下には殿下の出来ることがございます」
アーサーの戒める声すらも憎い。
わかっている。わかっている。わかっている。
でも、この手で、このエドワード・トルス・ロイヤルの手でエマを守りたい。
礼を言われたいわけでも、それを切っ掛けにエマが自分を好きになって欲しいとか、そんなんじゃなくて、ただ、守りたい。
あの、スライムによって受けた傷の痛みに苦しむ姿が脳裏に浮かぶ。
エマが、エマが辛いのが堪えられないのだ。
ずっと笑っていて欲しい。
願わくば、あの笑顔を守ることが出来る自分になりたい。
身が引き千切られる思いで、その全てを飲み込み、この国の王子としてアーサーに命じる。
「…………王城から、騎士の派遣を。責任は、私が取る。原因究明と令嬢の保護、怪我をしている者には、治療を」
もしも、この騒ぎが取るに足らないものだったとしても、王子の命で動いたとなれば、騎士の派遣について文句を言う者はいなくなる。
何事も初動が肝心。
バレリーの局地的結界ハザードで学んだ教訓だった。
「殿下、ありがとうございます」
握っていた王子の手を解き、アーサーが王城へ伝令を走らせる。
「殿下は、安全な内に避難をしましょう。ご案内します」
王子の硬く硬く握られた拳が傷つくのを見ない振りをして、アーサーもアーサーの仕事である護衛に専念することしか許されない悔しさを隠した。
ただ、エマや、刺繍の授業へ向かった令嬢の無事を祈った。