ガルディア王国の執務室にて。

 隣のメルディア王国のハインツ王子がオネエに恋愛相談して悶絶していたのとほぼ同時刻、ガルディアの国主であるリチャード陛下が何か頭を抱えてぶんぶんと謎の円運動をしていました。

「ぬおおおおっ!?」

「何だアレ? ダンシングフラワーの霊にでもとりつかれたか?」

「何ですかその愉快そうな花は」

 そんな王様を見て呆れながらも冷静に言う王妃様と、こちらも冷静に聞き返す文官。

 ちなみにダンシングフラワーとは音に合わせて踊るおもちゃで、ダンシングフラワー自体は正式名称ではありません。

 最近では音に反応するだけでなく音楽のリズムに合わせて踊る人形もあったりと、無駄に進化していたりもします。

「どうも今更日本に召喚返しされたシーナ殿下に再会できることに気付いたらしくて」

「本当に今更だな」

 呆れる王妃様ですが、気付いたのが各国が集まっての会議の時でなかったのはよかったかもしれません。

 こんなのを見られたら、ただでさえ国内でダダ下がりしているリチャード陛下の威厳が最安値を更新してしまいます。

「ん? じゃあ何で悶絶してんだ? 狂喜乱舞とも違うみたいだし」

「それがですね。知ったら寂しくなるからと、こちらに来た日本人の方々から聞き出したシーナ殿下の近況の報告見てなかったんですよ陛下」

「賢明な判断だな」

 文官の説明に納得する王妃様。

 さすがの信頼感です。

「それで会えるならもう無理しなくていいだろうと報告書を読んで、シーナ殿下があちらの大臣に恋慕しているという情報を見ちゃいまして」

「どうしてそこ伏せとかないんだよ。どうすんだあっちの総理大臣と会った瞬間斬りかかったら」

「いや、さすがの陛下もそこまではやらないでしょう」

 焦る王妃様ですが、仮に斬りかかられても安達くんなら白羽取りしてそのまま反撃に移りかねません。

 ついでにシーナさんとは縁切りされることでしょう。

「あー、でもなあ。個人的にはシーナ王女はそのまま総理とできちゃったほうが幸せだと思うんだよなあ」

「何を言っているんだアサヒ!?」

 王妃様の言葉にそれまで悶絶していた王様が復活しました。

 こいつどんだけ妹好きなんだよと王妃様が冷たい視線を向けています。

「私は認めんぞ! 父上と同年代の男に『お義兄様』などと呼ばれてたまるものか!」

「いやまあ確かに歳離れすぎだとは私も思うけど」

「そうだろう!」

「でもそうならなかったら、シーナ王女こっちに呼び戻して政略結婚組まざるを得なくなるだろう」

「……」

 王妃様の指摘にフリーズする王様。

 どうやらすっかり忘れていたようです。

「最有力はハインツ王子か? 元々そういう話が出てたみたいだし」

「フィッツガルドの皇帝陛下もまだ独身ですから、こちらから売り込めと言う貴族は出てくるでしょうね」

「……あのとき皆殺しにしておけば」

「なあ、本音言っていいか? 夫がキモイ」

「ですね」

 ギリギリと爪を噛みながら他国の王侯貴族抹殺計画を立てる王様と、冷たい目でそれを眺める王妃様。

 キモイといいつつ見捨てない王妃様が素敵です

「まあ私らみたいに感情は後からついてくる場合もあるけど、恋に恋する女の子に政略結婚させるのはなあ」

「いっそこちらから日本の大臣への政略結婚という形でシーナ殿下を支援すればいいのでは?」

「ああなるほど。そういう手もあるか」

「ぐぬぬぬぬぬ!」

 王妃様と文官の話に「そんなこと認められるか!」と反対したいものの、じゃあどうするんだという対案も出せずに唸る王様。

 今日も異世界は平和です。