「ストーブで餅焼いて食いたい」

「いきなりなんだ」

 大陸南部のガルディア王国にて。

 テーブルにつっぷし呻いている王妃様と、呆れながらパイを食べる王様。

 実は王様の食べているパイがガルディアの新年を祝う料理だったりするのですが、日本人な王妃様はそんなものでは新年が来た気がしません。

「ほら。アサヒも一つどうだ。この中には一つだけ小さな王冠が入っていてな。それを引き当てたら今日は一日お姫様というわけだ」

「引かなくてもこちとら王妃様だっての。というかおまえが引いた場合はどうなるんだ」

「今日は私の絶対王政だな!」

「よし。それ以上食うな」

 引き当てなくても結局そこに辿り着きそうですが、残念ながらつっこむ人はいません。

「しかし餅とやらならアサヒが懇意にしている村から送られたものがあるだろう。それを食べればいいのでは?」

「だから普通に焼くんじゃなくてストーブで……」

「どうした?」

 王様の言葉に反論しようとしたものの、途中で何かに気付き一時停止する王妃様。

「……そういやうちも実家も暖房はエアコンになってて、ストーブで餅焼いたのとか子供の頃だけだった」

「お、おお。よく分からんが残念だったな」

 毎年の風物詩だと思っていたものが幻想でしかなかったことに気付き落ち込む王妃様。

 最近はオール電化が増えてるからね。仕方ないね。

 今日も異世界は平和です。

 一方高天原。

「人は何故死ぬと分かっていて餅を食べるのだろう」

「哲学ですか?」

 のっけから何か言ってるアマテラス様と呆れているツクヨミ様。

 多分餅をのどに詰まらせた大半の人は、自分は大丈夫だと思っていて死は覚悟してないと思います。

「いや本当に餅の被害者って危険性が周知されている割に多すぎない?」

「被害者の殆どは高齢者ですからね。気を付けていても起きるから事故なわけですし。それに餅の被害が甚大なのは確かですが、高齢者の窒息の原因のトップは年度にもよるでしょうが大体お粥ですから。詰まる時は何でも詰まりますよ」

「なん……だと?」

 まさかの伏兵に戦慄するアマテラス様。

 日本人は普通の食事すら命がけだった……?

「といいますか、食べ物が喉に詰まると表現されますが、一言に詰まると言っても単純に食道がつまる場合と、誤嚥(ごえん)して呼吸器官に入る場合の二通りあるんですよ。高齢者は飲み込む力が弱く誤嚥の割合が多いので、餅以外でも確率は低いですが同じことは起こりえるわけです」

「何それ恐い。じゃあ餅がとりたてて危険なわけじゃないの?」

「いえ。一月だけ窒息患者の数が平均の倍になります」

「やっぱり餅危ないんじゃん!?」

 ちなみに食べ物による窒息で運ばれる患者の九割近くは高齢者ですが、逆に言えば一割は子供や高齢者じゃなくても詰まる時は詰まっちゃった人なのでやはり油断は大敵です。

「まあ私たちはそういう老いや身体機能の低下はないのでそこまで心配しなくても大丈夫でしょう」

「……オモイカネとか見た目思いっきり爺ちゃんだけど大丈夫?」

「アレは見た目だけでしょう。多分」

 アマテラス様の疑問に自信はないのか断言できないツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。