There Was No Secret Organization to Fight with the World’s Darkness so I Made One (In Exasperation)

Episode 07: If you take him down because he's all bad, happy ending.

数十秒か数分か。棒立ちで災害対応に集中している間、俺は親分にタコ殴りにされていた。理論上超新星爆発すら完全防御できるバリアを張っていたから撫でられた程度の感触すらなく、よそ見していたら殴られている事に気付かなかったかも知れない。

だが、水抜きされた太平洋を復旧し終え氷山の上に立つ俺は鼻血を流していた。目は内側が火傷したようにじくじく痛み、口の中で鉄の味がして眩暈も吐き気もする。

人の身に余るほど過剰に鍛え上げた念力という能力を限界を超え酷使した結果、肉体の方が悲鳴を上げたのだ。仮にこれが浩然(ハオラン)くんの狙いなら全く大したものだ。なるほど、俺にダメージを与える方法としては効果的に違いない。

手の甲で鼻を擦ると、さっき栞に拭ってもらったのにまだ結構な量の血糊がべっとりとついた。ひぇっ、道理で痛いと思った。

「痛い……? そうだ、思い出したぞ。これが『痛い』という感覚だ」

せっかくなので状況に乗っかって最強感溢れるそれっぽい台詞を吐いておく。

しかし誰も聞いていない。誰か聞いてくれよ俺がただのイタい奴になっちゃうだろ。

まあ爆音やら破壊音やら怒声やらがばんばか轟く戦場で呟いた独り言なんて拾われる方がおかしいのだが。

親分は謎の超パワーの限界が来たのか墓石にもたれかかってぐったりしているし、栞は親分を俺に任せて暴れる巨大猫の方に向かっている。

翔太くんと燈華ちゃんは50mサイズの巨大猫(大きくなりすぎると氷山が割れるから控え目にしたのだと思われる)とレイドバトルをしていて、イグと黛訳(タイイー)は主戦場から離れた端の方で尻尾を逆立て牙を剥きだし威嚇し合っている。残りは氷山のあちこちで焦げ目やたんこぶを作って倒れていた。

なんだろう。俺と栞が災害対処に追われている間に天照VS月夜見バトルのハイライトを思いっきり見逃した気がしてならない。

……まあいい。

全然良くないがいいとしよう。終わった事だ。時間は巻き戻せな――――巻き戻せる超能力者もいるが、まだ生まれていないから巻き戻せない。

ダラダラ長引かせてもグダるだけ。俺も含めて既に全員消耗している。疲れ切って動けなくなる前にラストダンスといこう。なんかイベントやるたびに時間調整ミスしている気がするがきっと気のせいだ。

「ボォス! 石コロ使ったか!? 早くしてくれこいつ強ぇ!」

「済ませた」

タイミングよく翔太くんが話を振ってくれたので、俺はアーティファクトという名前がついただけの河原で拾ったいい感じの色の石コロを掲げて見せた。

ヒビが入ったアーティファクト(石コロ)は陽光を浴び、自壊しキラキラした砂になって風に吹かれ消滅する。

「ぅぐっ!?」

そして呻き、俺は自分の体を掻き抱いて頑張って震える。まるで内側で何かが暴れているかのように。

俺は決して演技が上手いわけではない。栞は事前練習でギリギリ及第点という評価をくれたのだが、図らずも念力酷使の反動で血涙や鼻血を垂れ流し蒼褪めているのが役立った。ガチで吐きそうだし体調悪いから、ほとんど素を出せばいいだけだ。

「杵光さん!?」

時間停止を駆使し翔太くんと燈華ちゃんを補助していた栞が俺の異常に気付いて叫ぶ。その迫真の叫びを聞いて二人も俺に目を向けた。

そもそも世界の闇は念力使いである佐護杵光(おれ)とリンクしている。

リンクを通し念力パワーが世界の闇に流れ込み世界の闇は強大化。

そして世界の闇の偏在性や不死性が俺に流れ込み不死身になっている。

世界の闇を根絶するためには、このリンクを断ち切ってから滅ぼす必要がある。さもなければ佐護杵光も道連れに死んでしまう。

という設定だ。

「クッ……闇が……抑えきれない……っ……!!!」

俺の体から闇が滲み出る。意思を持ったかのように苦しげに粘つきもがきながら。

その漆黒の闇は俺の体から抜け出し、人型を取った。

中肉中背。男性型。立体になった影絵のようにゆらりと立ち上がる。

そ(、)れ(、)の誕生と入れ替わるように、俺は『絶対ウケる! 宴会芸10連発!』を読んで練習して身に着けた白目剥きを披露しながらバッタリ倒れた。なんせこれから繊細な操作をしないといけないんでね。しばらく狸寝入しながら集中させてもらうぜ。

影は輪郭を揺らがせながら黒一色に塗りつぶされた顔で超能力者達を睥睨する。

ただそこに在るだけで発せられる威圧感、重圧にまだ立っている能力者達は震えあがった。

実際には威圧感とかいうよく分からないものではなく、念力で気圧を変えたり風を吹かせたり警戒心やストレスを引き出す匂い成分を散布したりしているだけなのだが、トータルで威圧感っぽくはなっているからOKだ。

誰もが息を呑み、警戒して動かない。アニマル組も異変を察知して毛を逆立てている。

「杵光さんから……あれは……分離、した?」

誰も喋らないので、栞が困惑に偽装した解説台詞を入れた。

そう、この闇人間の正体は単純明快。

もう一人の僕。裏人格。表裏一体。光と闇の存在。

バトル漫画によくあるヤツだ。

分かりやすいだろう?

世界の闇という群体全体の核にして、長年共生してきた念力使いの力を吸いあげ分離した存在。

コイツがラスボス。佐護杵光の力を持つ世界の闇――――闇佐護だ。