Tondemo Skill de Isekai Hourou Meshi

Gossip Three Brave Men - We Will Marry

「おい、準備はいいか?」

「ちょっと待って」

 花音と莉緒が、俺たちで借りていた家を感慨深げに見ている。

「ここで3か月近く3人で生活したんだよね……」

「うん。去るとなると、何となく名残惜しいね……」

 この国に来て、ようやく落ち着いて暮らせるようになったのもここを借りてからだからな。

 その気持ちも分からなくはないけど、これからも3人一緒なんだぜ。

 そのために俺たちはここを去るってのに。

「なら、王都に行くの止めるか?」

 俺がそう言うと、花音と莉緒がバッ振り返る。

「何言ってるのよ! 止めるわけないじゃないの!」

「そうだよっ。私たちの大切な結婚式のためなんだから!」

「ハハッ、冗談だって。俺だって楽しみにしてるんだからな。花音と莉緒が、正式に俺の嫁さんになるのをさ」

 そう言うと、花音も莉緒も頬を染めた。

「櫂斗のバカ……」

「櫂斗君って、時々恥ずかしいこと平気で言っちゃうよね……」

「何だよそれ。本当のことなんだからしょうがないだろ」

 何だかわからないが、2人がさらに頬を染めた。

「もうっ」

「花音ちゃんダメだよ。櫂斗君全然分かってないもん」

「訳わかんねぇな。それよりも、ほら、出発するぞ」

 俺がそう言うと、右腕には花音が、左腕には莉緒が抱き着いてきた。

 両手に花ってのはこのことだな。

 2人とも俺を見てニコニコしている。

 2人の笑顔を見ていると、俺も嬉しくなってくる。

 ちょっと前まではこんな穏やかな笑顔になることなんてなかったからな。

 嫁になる花音と莉緒の笑顔を守るためにも、俺はもっと強くならないとと強く思いながら俺たちは王都に向けて旅立った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 俺たちが結婚に至るまでの馴れ初めだが、別に大したことではない。

 男と女が一つ屋根の下で暮らすとなれば、遅かれ早かれお互い意識するようになってくるもんだろう。

 それが一緒に苦難を乗り越えた仲間ならなおさらだ。

 とは言っても、最初は俺も悩んだんだ。

 一緒に生活していくうちに、自惚れじゃなくて、花音も莉緒も俺のこと好きみたいだって気が付いた。

 俺も花音と莉緒のことが好きになってたから正直嬉しかったけど、どっちか1人なんて選べなくてさ……。

 2人を同時に好きになったことなんて今までなかったから、かなり悩んだ。

 今までは2人を同時に好きになることなんて自分ではないと思ってたんだ。

 そんなことは不実なこと、俺は絶対しないってさ。

 だけど実際直面すると、好きになっちまったらどうしようもないっていうのが本当のところだった。

 花音と莉緒に気持ちはあるものの、どちらか1人を選ぶなんてことは俺にはどうしてもできなかった。

 どっちつかずの優柔不断な俺より先に答えを出したのは、花音と莉緒だった。

 ある日の夜、夕飯を食い終わった後に、2人が話を切り出した。

「櫂斗、あたしと莉緒のどっちか1人を選ばなきゃって悩んでるみたいだけど、別に選ばなくてもいいんだけど」

「そうだよ。どっちか1人なんて決めなくてもいいんだよ」

「……は?」

 花音と莉緒の言っている意味が分からなかった。

 だって、同時に2人だなんて許されるわけないじゃないか。

「やっぱり分かってなかったみたいだね、莉緒」

「うん。全然気づいてないよ、花音ちゃん」

 花音と莉緒が顔を見合わせて、そんなことを言っていた。

「櫂斗、ここは異世界なんだよ。日本の常識は通用しないんだから」

「花音ちゃんの言うとおりだよ。ここは日本じゃないんだから」

 そして、2人がそう言っている訳を話してくれた。

 花音と莉緒から聞いた話は、俺にとって衝撃的だったうえに目から鱗だった。

 何とこの世界は一夫一妻制ではなかった。

 一夫多妻がOKなのだ。

 もちろん、妻たちを養う経済力がなければいけないが、経済力のある男は多妻なのも珍しくはないんだそうだ。

 実際、貴族などは4、5人妻がいるなんてことも珍しくなく、多い人になると10人くらいいる場合もあるそう。

 俺が優柔不断でどっちつかずでいる時期に、花音と莉緒は思うところがあっていろいろ調べたらしい。

「こんなこと調べればすぐに分かるのに」

「ホント。櫂斗君ったら1人で悩むばっかりなんだもんね」

 俺は日本での常識にとらわれて、2人一緒だなんて不実だし相手に対しても裏切り行為だと思い込んでいた。

「そういうことだから、どっちか1人を選ぶ必要なんてないの。もちろん莉緒じゃなかったら、2人一緒なんてイヤだけどね」

「うん、私も。花音ちゃんだから、2人一緒でもいいって思える」

「花音、莉緒……」

 2人には優柔不断で不甲斐ないところを見せちまったな。

「花音も莉緒も、俺の彼女になってくれるか?」

「もちろん」

「うんっ」

 そんな感じで俺たちは付き合い始めたわけだ。

 でもさ、俺としてもいろいろ調べた結果、この世界では俺たちの年齢がちょうど結婚適齢期だってことが分かったんだ。

 早い人だと、14か15で結婚するっていうから驚きだ。

 それにだ、20歳過ぎたら女性だと行き遅れの部類に入るっていうんだぞ。

 それで俺もいろいろ考えたわけだ。

 決め手になったのは、花音と莉緒が冒険者たちの間で人気だったことだ。

 冒険者ギルドでも、俺がちょっと離れただけで、いろいろチョッカイかけてくる男が後を絶たなかった。

 花音も莉緒も美人だから仕方ないにしても、俺としたら腹立たしいわけだ。

 冒険者の男どもも、さすがに人妻には手を出さないし、俺としても花音と莉緒を嫁にするのは願ってもないこと。

 だから、2人にプロポーズした。

 ちゃんと婚約指輪も渡したぞ。

 この世界じゃ指輪を渡す習慣はないけど、やっぱりプロポーズするなら指輪が必要だろって思ってさ。

 冒険者になってからの貯金をはたいて2人のために婚約指輪を買った。

 5月生まれの花音にはエメラルドの指輪を、7月生まれの莉緒にはルビーの指輪を。

 貯金もたいしたことなかったから宝石も小さい貧相な指輪だったけど、2人ともすごく喜んでくれた。

 そして、もちろんプロポーズの返事は花音も莉緒もOKだった。

 この世界の結婚は、戸籍なんてものはないから、教会で司祭様の前で結婚の誓いをすればOKなんだ。

 通常は信仰している神様の教会に赴くんだけど、特に信仰している神様がいなければ、どこの教会を使ってもいいってことらしい。

 その辺は案外融通がきくみたいだ。

 それもこの国だからこそできるってことではあるんだけどな。

 この国のように信仰の自由が担保されている国は、この国のほか東のエルマン王国とレオンハルト王国と南の小国群から新しくできたクワイン共和国くらいなものらしい。

 それを聞いたとき、つくづくこの国に逃げ延びて来てよかったと思ったぜ。

 そんなわけで、この街にもいろんな神様の教会があったから、そのうちのどれかでと思ってたら、花音と莉緒に止められた。

「一生に一度の大切なことだしさ、どうせなら王都の教会で結婚式あげたいよ。この間ちょっと聞いたんだけど、王都の教会ってどこも立派でキレイなんだって」

「私も王都の教会がいいな。特にね、土の女神の教会がおすすめらしいよ。この国は農業が盛んだから信者が多いらしくって、中でも1番キレイな教会だって聞いたの」

 花音と莉緒もいろいろリサーチしていたらしい。

「土の女神の教会のことはあたしも聞いた! 土の女神様は豊穣・豊作の象徴らしいいんだけど、それにあやかって子宝に恵まれて夫婦円満って意味合いもあるらしいよ。だから結婚式をあげる教会としては1番人気って聞いた」

「うんうん。子どもはまだちょっと早いけど、ずっと夫婦円満でいたいもんね」

 花音も莉緒も王都の土の女神の教会で結婚式をあげたいようだ。

 結婚式と言っても、司祭の前で結婚の誓いをするだけの簡素なものなんだけど……。

 ま、それでも、嫁になる2人の希望を叶えるのが男ってもんだろ。

「それじゃ、王都に行くか」

「「うんっ」」

 そんな感じで俺たちの王都行が決まった。

 前からいろんな街に行ってみようと話してたし、俺としても王都は楽しみだぜ。