Tondemo Skill de Isekai Hourou Meshi
Episode 453: Blackmail is a crime.
みんなで朝飯を食ったあと、リビングでくつろいでいると、コンコンコンコンッとドアノッカーの音が聞こえてきた。
「ん? 誰だろう?」
特に来訪の予定はなかったはずなんだけどな。
そんなことを思いながら玄関に向かっていると、またしてもコンコンコンコンッとドアノッカーの音が聞こえてくる。
「はーい、今行きますからちょっと待ってください」
冒険者ギルドかな?
昨日のフェル爆走の件で冒険者ギルドに苦情が行ったってのはあり得る話だななんて思いつつドアを開けた。
「お待たせしました」
「待たせ過ぎじゃっ」
横柄にそう言いながら雪崩れのように勝手に家に入り込んできた集団。
キランキランの金糸の刺繍の入った派手な服を身にまとった成金ぽいのが数人とその用心棒と思われるガラの悪い輩の集団だ。
あっけにとられながらも、招き入れたわけでもないのに勝手に家に入ってこられたことにさすがに俺も腹が立った。
「ちょっと、何なんですかあなたたちは?! 勝手に入ってきて図々しいでしょういくら何でも」
「ハァ? 我らがせっかく来てやったというのに外で応対するつもりだというのかっ?!」
キンキラ成金どもの一人がそう息巻いてくる。
こりゃヤバい奴らだと思った俺は、すぐさま助けを呼んだ。
『フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ、ちょっと来てくれ! 変な奴らが来た!』
念話でそう伝えると、すぐにみんながやってきた。
『何だ、こいつらは』
『趣味の悪い恰好した奴らだなぁ』
『わからない。ドアを開けたら勝手に中へ入り込んできたんだよ』
『ほう。勝手にか。随分と図々しい輩じゃな』
フェルとゴン爺とドラちゃんの目つきが鋭くなった。
「な、何だ? 汚らわしい魔獣など連れてきて、脅しか?!」
フェルたちを汚らわしい魔獣と呼んだことにかなりカチンときた。
「俺の従魔で大切な仲間です。そういう言い方はやめてもらえますか。だいたい図々しく勝手にうちに入り込んできたあなたたちにそんなことを言われる筋合いはないんですけどね」
俺がそう言うと、キンキラ成金どもが顔を真っ赤にして怒りギャーギャー喚き散らしだした。
朝からすごい迷惑なんだけど、この人たち一体全体誰なの?
「非礼過ぎるその言葉! 貴様、我らを何と心得る!」
「あなた方がどこのどなたかは存じませんが、非礼なのはあなたたちの方だと思いますけどね」
いきなり人んちに入り込んでくるあんたらの方が絶対に非礼だよ。
「クーッ、我らはルバノフ教の者ぞ! こちらにおわすは司教様だ!」
ゲッ、ルバノフ教の関係者かよ。
何の用があってうちに来るんだよ。
ゴリゴリの人族至上主義のルバノフ教とは関わりたくないってのに。
「ああ、そうですか。で、何の用ですか?」
「おいっ、何だその言い草はっ!」
司教様とやらの取り巻きの一人がそう息巻いた。
「まぁ待ちなさい。君は、この街の教会に献金をしたそうじゃないか」
「ええ、しましたけどそれが何か?」
「我らがルバノフ教を忘れているのではないかと思い、こちらに伺った次第だ」
司教がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう言った。
何だよこいつら、結局集りにきたってことか?
というかさ、忘れたんじゃなくって、したくないからしなかっただけだよ。
察しろよ。
「忘れていたわけじゃありません。するつもりがないからしなかったというだけです」
ムカついたのではっきり言ってやった。
「な、な、な、何~っ」
司教は俺の言葉に目を吊り上げ、取り巻き連中は顔を真っ赤にしている。
「ルバノフ教の教義には共感できるものが微塵もないので寄付するつもりはまったくありませんよ。これからもね」
俺が断言するように言うと、取り巻き連中はさらに怒り狂って喚き散らす。
司教はというと、一応立場を考えてなのか怒鳴り散らすことはなく、顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。
そして、怒気をこめた声で「ほぅ、それは我がルバノフ教を愚弄するということですかな? それならば我らも黙ってはおりませんぞ」と言った。
司教は控えていたガラの悪い用心棒どもに目配せをする。
用心棒は腰に下げた剣の柄に手をかけている。
いつでも切りかかれるぞと威嚇しているようだ。
ふーん、人んちでそういうことしちゃうんだ。
ってかさ、これって完全に脅しだよね?
『フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ、こいつらが切りかかってきたら倒しちゃって。あ、死なない程度にね。冒険者ギルドにも報告しないとだから』
『言われなくとも、お主に手を出せば当然タダでは返さん』
『そうじゃな。しかし、こいつらは馬鹿なのか? 我らの力量もはかれぬとは』
『フェンリルと古竜(エンシェントドラゴン)がそろいぶみだってのによく手出ししようと思うよな。こいつらよっぽどの阿呆だぜ』
『あるじをいじめたらスイが許さないんだからねー!』
みんな言いたい放題でちょっと笑いそうになる。
『明らかに過剰戦力だろうけど、その辺はみんな手加減してよね』
これで用心棒が何かしでかしても大丈夫だ。
「何を黙っているんだ? 他の教会に献金したのと同額、いや倍の額を我がルバノフ教へ献金するというのなら許してやってもいいんだぞ」
俺がフェルたちと念話をしていて黙っていたのをビビッたと勘違いしたのか、司教が勝ち誇った顔をしてそうのたまった。
「まったく何を勘違いしているのですか。ただあなたたちに呆れていただけですよ」
「何っ?!」
「ルバノフ教へは寄付するつもりはないと言ったら、武器を持った人間を前面に出して……。これは脅しですか? 脅して金を出させるって、完全に恐喝ですよね? 犯罪ですよね?」
俺がそう言うと、ついに司教の顔が憤怒の形相へと変化した。
「下手にでておればいい気になりおってーっ! やれいっ!」
司教のその命令によって用心棒が剣を抜いた。
『ほう、我らの前で剣を抜いたということはやるのか?』
『いいんだな?』
フェルとゴン爺が声に出してそう言った。
そして、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが司教を含むキンキラ成金どもとガラの悪い用心棒どもを睨めつけた。
その途端、用心棒どもは剣を落として腰を抜かしてその場に尻もちをつき、キンキラ成金どもも腰を抜かしてヒィヒィ言いながら這いずって逃げようとした。
「言っておきますけど、うちの従魔は俺に危害を加えようとする輩は許しませんよ。死にたくなかったらとっとと出て行ってくれませんかね」
俺が冷たくそう言い放つと、ルバノフ教一団はヨロヨロしながら出ていった。
去り際に「我らにこのような仕打ちをっ。ただでは済まさんからな!」と言い放っていった。
まるっきり悪役の捨て台詞じゃんか。
『彼奴らは結局何をしに来たのだ?』
「金をせびりに来たんだよ。昨日、いろいろと寄付しただろ。自分の教団にも寄付しろってことだよ」
『いやいや、寄付ってのは自分からすすんでするもんだろ?』
「ドラちゃんの言うとおりだよ。だけど今来たところ、ルバノフ教っていうんだけど、自分たちももらえて当然って思ってたんじゃないの。こっちはルバノフ教になんて共感する点は一つもないから寄付なんてするつもりは欠片もないのにね。っていうかさ、ルバノフ教に寄付するくらいならドブに捨てた方がまだマシだよ」
『フハハハハハ、そこまで言うか』
「だって本当のことだしさ。そうだ、一応冒険者ギルドにも報告に行ってくるよ。でも……」
またあいつらが来ると困る。
それこそ腹いせに家に何かされたりしたら困りものだ。
借家なのに。
そのことをみんなに話すと、ゴン爺とドラちゃんが留守番をかってでてくれた。
「それじゃあゴン爺、ドラちゃん、頼むね」
『うむ』
『お土産は串肉でいいぞ~』
「何で冒険者ギルドまで行くのにお土産なんだよ~」
『串肉か。いいな。この間食ったところで美味い店があった』
『お肉~』
いやいや、フェルもスイも話に乗らないの。
「ま、とにかく行ってくるから」
俺はフェルとスイをお供に冒険者ギルドへと向かった。
そして、トリスタンさんを呼び出してもらい、さっきあったことを事細かく話した。
「ふむふむ、ルバノフ教はそのようなことを仕出かしてしまったのですねぇ。これは一大事だ」
悪い顔でそんなことを言うトリスタンさん。
「フフフフフフ、これはただでは済まされませんぞぉ。ちょうどムコーダさんから預かった品を王に献上しに王都まで向かいますから丁度良い」
え、王都?
いやこの国の王様への献上品はトリスタンさんに預けてお願いしたけど、今回の件と何か関係あるの?
「あ、ムコーダさんは心配無用ですぞ。こちらからも抗議しておきますし、もしまたムコーダさんに迷惑をかけるようなら冒険者ギルドを敵に回すことになると言っておきますので」
「ああ、でも、俺たち明日にはカレーリナに向けて出発する予定なので」
「おお、そうでしたか」
「明日帰る前に、また顔は出させていただきますけど、長い間お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ良いお取り引きができましたのでお礼を言わせていただきたいくらいですよ」
「いえ、そんな。とにかく、明日にはこの街ともお別れなので、あの方たちとももう会うことはないんで大丈夫だと思います」
「相手は常識が通用しないルバノフ教ですからなぁ。この後すぐにきつく抗議しときますので、冒険者ギルドを敵に回すようなことは差し控えるとは思いますが。まぁ、もう既に我が国を敵に回しておりますがなぁ。フハハハハハ」
……なんか、不穏なことを聞いた気がするんだけど、これは聞かなかったことにしておこう。
触らぬ神に祟りなしってね。