Transition to Another World, Landmines Included

232 Heavy Billing Bonuses (1)

『重課金ボーーーナス!』

「……は?」

そんな脳天気な声が俺の頭の中に響いたのは、毎朝の日課、ランニング途中の神殿参拝のときだった。

そして、それと同時に視界が白く染まる。

『たくさん課金……もとい、お布施をしてくれたあなたに、特別ボーナスを、進、呈!』

「………」

俺の戸惑いも他所に、アドヴァストリス様の言葉は続く。

おっと、流されるだけじゃマズい、言葉を挟まないと!

「あのっ! これって?」

『ん? だから重課金……じゃなかった。たくさんお布施をしてくれた君へのお礼だよ? 君は律儀に、毎回大銀貨を放り込んでくれるし、それ以外にも色々してくれてるからね』

まぁ、確かに、こちらに来て神殿に納めた金額は、日本で行った寄付の総額を軽く超えている。そもそも普通の高校生だったあの頃とは、経済力が違うし。

「今回も、私だけですか?」

『ううん。今回は重課金だから、たくさん払ってくれた人には全員だよ?』

ついに『重課金』を言い直さなくなった。

でも、正確には『重課金』じゃないよな? 別に俺たち、神様から課金されてるわけじゃないし。

『いいのっ! 意味が分かれば問題ないの! 細かいところ、ツッコまない!』

神様に怒られた。

『あ、そうそう。一定以上……ううん、僕が気に入る以上のお布施を払ってくれた人には、全員に特別ボーナスをあげるけど、これは秘密ね?』

一定じゃない……ただ単に大金を払えば良いわけじゃないと。

訪問回数とか? 初回ログインとか言ってたし、ログイン回数的な。

『ノーコメント。でも、このことを教えたら、その人は無しになるから、注意してね』

「それは、パーティーメンバーも?」

『もちろん。でも、全員にチャンスがあるんだから、前回みたいな気遣いは必要ないと思うよ』

初回ログインボーナスで、パーティーメンバーに効果がある恩恵をもらったことか。

しかし、間違って漏らしたりしないようにしないと。

ハルカたちも神殿には来ているし、そのうちボーナスがもらえるはず。それを俺のミスで潰したりしたら……。

『それじゃ、早速――』

「あ、あの! いくつか質問、良いですか?」

『質問? 答えられるかは解らないけど、良いよ』

ダメ元だったのに、あっさりオーケーされた。

今度会えたら聞こうとハルカたちと話していた事……あ、聞いてもハルカたちには話せないじゃないか。重課金ボーナスのことを考えたら。

――まぁ、知りたい事は各自で聞くか。

もしくは、全員がボーナスをもらった後で話し合うか。

「まず、何で私たちをこの世界に連れてきたんですか?」

『それは……』

「それは?」

『禁則事項です!』

「…………はい?」

『あれ、違った? 大抵のことは、こう言っておけば誤魔化せるって聞いたんだけど』

聞いたって、誰にだよっ!

それは可愛くて巨乳の女の子がやらないと、意味ないんだぞ?

てか、微妙に古いな!

『酷いなぁ。僕はきっと可愛いよ?』

「いえ、姿、見えないんですが? 声はちょっと少年っぽいですし」

『神の姿は皆の心の中にあるのです。「僕の考えた最強に可愛い女の子」、それを思い浮かべるのです』

姿を見せてはくれないワケね。

そもそも最初の転生時、少年の姿だったよね?

神殿に祭ってある神像は、普通に若い男神だったし。

『僕、別に男神と言った事なんて無いんだけどねー。偶像をあんまり信じちゃダメダメ』

「つまり、アドヴァストリス様は実は女神?」

『さぁ~、どうだろーね?』

断言するつもりは無いらしい。

トリックスターか。

でも、最初に会った時の姿が本当なら、少年っぽい女の子の可能性はあっても、確実に巨乳の女の子ではない。

『ほらほら、もう質問は良いの? あんまり不遜なことを考えてると、質問タイム、打ち切っちゃうよ?』

「あ、すみません! えっと、レベルとステータスの関係が解りにくいんですが」

『あー、レベルと経験値しか確認できないからねぇ。そのへん、ちょっと不親切だったか』

「それに、自分のレベルが解っても、他の冒険者、この世界の人と比べてどうなのかも解りづらいですし」

『う~ん、そのへんは全国模試みたいな物があるわけじゃないし、統計も取られてないから、君たちだけに、というのもねぇ』

やっぱそのへん、公平なのか。

『多くの人と会って、【看破】を鍛えて、自分で感じてもらうしかないかな? 一応目安を伝えておくと、レベル換算なら千ぐらいまで上げることは、不可能じゃないよ』

「せん!?」

――遠すぎ。

最近はあまり強い敵と戦っていなかったこともあり、俺のレベルは未だ22なのだ。

『もちろん、簡単じゃないけどね~。エルフの寿命が多少長くても、死ぬ気でやらないと無理だよ?』

それで何とかなるレベルか?

いやまぁ、俺たちが、かなりのんびりと冒険者をやっていることは否定しないが。

『ステータスの方は……そうだねぇ、レベルが2倍になると、得意な分野――キミなら魔力が2倍になるようなイメージかな? 同じ魔法が2倍使えるようになる、と思えば良いよ』

「それだと、訓練の内容は関係ないんですか? 魔力を頑張って伸ばそうと努力しても、レベルに応じた量にしか?」

『いや、そんな事はないよ。う~ん、なんて言えば良いのかなぁ。ゲームをやる君に解りやすく説明するなら、レベルはステータスの最低保証値? 例えば、ひたすら魔法の練習だけを続ければ、魔力は増やせる。でも、経験値は得られなくなってレベルアップはしない、って感じ?』

えっと……つまり、極振りでキャラメイクした高レベルって事はあり得ない、と?

どれだけとんでもない魔法が使えても、もしくは筋力だけが異常にあっても、他を鍛えない限りは低レベルのままなのか。

『それと同様に、雑魚の魔物を斃し続けても経験値は殆ど得られなくなるし、逆に雑魚でも倒し方次第では経験値が得られる。その戦闘で何が得られたか、だね』

……なるほど。経験値を溜めたからステータスがアップするわけではなく、ステータスアップの結果が経験値として換算されるというイメージか?

『そうそう。そんな感じ~。強い魔物を倒す事はそれはそれで意味があるけど、いわゆるパワーレベリング的な物はほとんど効果が無いと思って良いよ』

『ほとんど』ね。

斃させれば多少は効果があるのか、それとも強敵との戦いを見ること自体が経験になるのか。

だが、神様はそれに応えること無く話を進める。

『もちろん、人それぞれ傾向があるから、君とトーヤ君が、同じレベルで同じ筋力を持っているってワケじゃない。その人に応じた総合的強さがレベルだと思えば良いよ』

ステータスの最低保証値は人によって異なり、同じレベルであれば、誰でもすべてのステータスにおいて、一定以上が保証されているわけではない、という事らしい。

例えば、俺は魔力が100以上なければレベル10にならないが、トーヤは50あればレベル10になれる、みたいに。

『質問は終わりかな?』

「あの、ステータスを数値化して見られるようになったりは……しませんか? HPとかMPとかも」

『……ナオ君、現実を見ようよ? 世の中、簡単に数値で計れるような物じゃないんだよ?』

ファンタジーな神様に諭されたっ!?

いや、確かに、人間の耐久値がHPに数値化されるとか、ちょっとおかしいかな? とは思うけれども!

『君の世界で神様がファンタジーでも、こっちの世界ではリアルです。諦めてね?』

何を!?

「ま、魔力。魔力の方は? MPで消費量が測れたら便利なんですが」

『う~~ん、不可能じゃ無いけど……却下』

「なんで!?」

『君たちが有利すぎるから』

「………」

ぶれないお人である。

神だけど。

『頑張って感覚を身につけてね。体調によって結構左右されるから、簡単じゃないけど。使う魔力の最小単位を把握できるようになれば、なんとかなるかも?』

アドバイスはありがたいが、それが難しいんだよなぁ。

高度な職人が、触っただけでコンマ1ミリ以下の厚みを把握できるような感じだろうか?

そこまで技量を高めるのは時間が掛かりそうである。

「それでは、ステータス――能力値の方も?」

『それは……気が向いたら実装するかも? でも、期待しないで』

ゲームかよ!

――ま、運営に希望を出したところで、大抵はダメだよな。

頑張ったけど無理だったよ、みんな!

『さて、話を戻して。重課金ボーナスだよ。今なら、ダーツ、スロット、ガラガラ、紐釣りクジから選べます!』

そんな言葉と共に目の前に表れる、各種設備。

スロットとガラガラは言うまでも無いだろう。

ダーツはアレ。くるくると回る的《まと》にダーツを投げる奴。

紐釣りクジは大量の紐がまとめられた中から1本を引っ張り、その先に付いている物が貰えるやつ。

並んでいる中には『全能力2倍!』とか『全魔法解禁!』とか、凄いと言うか、怪しげと言うか、そんな物も並んでいるのだが……うん、解ってる。アレには繋がってないんだよな?

この神様が、素直にチートを用意するはずがない。

『ちぇ。ネタバレはダメだよ。せっかく用意したんだから。ほら、縁日でも大人買いしてクジを買い占めるとか嫌われるでしょ?』

「いえ、アレはアレで、詐欺だと思うんですが」

高いゲーム機をこれ見よがしに掲げ、客寄せするのに、クジを引いても絶対に当たらないという、子供から搾取する酷い仕組みである。

俺も昔は騙されたものである。

『入ってる、って言ったら詐欺だけど、アレはきっと飾ってるだけなんだよ。クジの値段を考えれば、入ってるかどうかは解るでしょ』

……あの頃はそんな事も知らない無垢な子供だったのだ。

「しかし神様、妙に詳しいですね?」

『神様ですから』

納得の答えである。