Unnamed Most Powerful Mage (WEB Version)

The Price of Miracles (Part II)

「しかし、ひどいものだな」

俺はリネラスとセイレスをそのままにして地下を見て回っていくが、ハッキリ言って正気とは思えない内容ばかりであった。

溜息をつきながらリネラスの所へ戻ると、リネラスが駆け寄ってきた。

「大変なの! ユウマ!」

「ん? どうしたんだ?」

俺は、リネラスの様子から只事ではないと思いセイレスに近づくが、どこにもおかしな様子は見受けられない。

「ユウマ! セイレスが言葉を話せないみたいなの!」

「言葉を?」

「うん! ユウマ、回復魔法を!」

リネラスは俺の回復魔法というか肉体修復が万能だと思っているが実際、そんな事はない。俺は、地球人の肉体を基準に細胞修復を行っているだけに過ぎないのだ。

つまり回復魔法に見えるが、中身は回復魔法ではない。

物理、化学に沿った魔法に過ぎない。

何故なら細胞分裂、テロメアの追加、細胞増殖を行っているだけなのだから。

万能でもなんでもない。

だから毒などには、魔法は効かないし神経毒で体が動かなくなったは、そもそも俺に抗体が無かったに過ぎないだけだ。

「いや、俺の回復魔法では、これが限界だ。それに酷い扱いをされた場合、言葉が一時的に話せなくなると聞いたことがある。そういう物であったら、俺にはますますお手上げだ」

「そ、そんな……」

リネラスが座り込んで落ち込んでいると、セイレスが床に何か文字を書き始めた。

「助けてくれてありがとうか」

俺は床にカタカナで書かれた文字を読んでからセイレスの美しい紫の瞳を見た。

セイレスは何度も頷くと床に指を這わせていく。

「妹も助けてくれてありがとう……か」

セイレスは俺の手を握って何度も振ってくる。

これが彼女なりの感謝の証なのだろう。

――なら、あまり悲嘆に暮れているのはよくないな。

「リネラス、まずはクルド公爵邸を出るぞ! 落ち込むのはそれからでいい!」

俺はセイレスの妹であるセレンを背負った後、両手でセイレスをお姫様だっこで抱き上げた。

そしてリネラスは――。

「別にいいですけどね……ユウマが私を抱きあげなくても……」

「お前な……セレンは9歳だぞ?しかも意識を失っているし。それにセイレスもずっと牢屋で暮らしてから歩くのが辛いはずだからな」

「うーっ、わかりました!」

そして、俺とリネラスは救出したセイレスとセレンを連れて噴水の出口から出る。

「なあ?クルド公爵邸は、公爵家だから馬車があるんじゃないか?」

「でも……」

リネラスの言いたいことは分かる。

きっと馬車は無いと言いたいのだろう。

だが、4人もいる状態でさすがに高速移動は不可能だ。

――1時間後。

俺達は、クルド公爵邸に唯一残った幌馬車に乗り込むと、俺が従者となり走らせ始めた。

走り始めてからある程度距離を取った所で、従者席の隣に座っているリネラスが。

「ユウマ、お願いがあります。このクルド公爵邸ごと全てを燃やし尽くす事は可能ですか?」

「可能だがどうするつもりだ?」

現代科学は、物質の破壊に特化した技術と知識だ。

戦争を下敷きに作られてきたのだからそれは仕方ない。

それに俺の漢字魔法も現代科学の応用にすぎないからこそ破壊に特化している。

「クルド公爵邸を破壊しましょう。出来れば全てを灰にしてください。このような場所を、港町カレイドスコープだけではなく多くの住民に知られたら大変なことになります」

リネラスの言葉に俺は確かになと思う。

地下牢と地下室の話が広がってしまえば、問題になるだろう。

仇を取るために、貴族に剣を向ける者も出てくるだろう。

「……分かった。ついでに聞いておくが、それは私怨か? それともギルドマスターとしての判断か?」

「ギルドマスターとしての判断であり命令です。このような暗部を町の方々が知ればパニックになるでしょう。ですから破壊してください」

「貴族がこう言う事をしていたという証拠も消えるがいいのか?」

俺の言葉にリネラスは頷いてくる。

「……分かった」

俺は馬の手綱を引いて幌馬車を停止させる。

「本当にいいんだな?」

「はい! 完全に破壊してください! それに……冒険者ギルドに喧嘩を売ればどうなるのかを知らしめる必要があります! それにあれだけの事をした貴族への牽制にもなります」

「……分かった」

俺はリネラスに言葉を返すと。

クルド公爵邸の上空に100個を超える30メートル級の火球を作り出す。

そしてそれを全てクルド公爵邸に降らせていく。

すぐにクルド公爵邸は大火に包みこまれる。

俺は終わったかと思うと遠くから蹄の音が聞こえてくる。

蹄の音が聞こえてきた方角へ視線を向けると万を越す軍が、クルド公爵邸目がけて進行している。

「リネラス、厄介な事も巻き込まれる前に戻るぞ?」

「うん」

俺はリネラスの言葉を聞くと、馬の手綱を振りおろして、海の港町カレイドスコープに向けて幌馬車を走らせ始めた。