視線の先で――。

どう感情を表現したらいいのか。

どう言葉を紡いだらいいのか。

どう気持ちを現したいいのか。

戸惑い、理解できず、口から思いのたけを発すことも出来ないリネラスを見ながら俺は強くこぶしを握り締める。

「これが、これが……リネラスが俺に見せたい世界だと、見せたい世界だと……言うことなのか?」

「それは違う」

呟いた言葉に答えたのは、たった一人の男の声。

振り返ったところには、リネラスの祖父が立っていた。

男は、父親に縋り付いてリンスタットの……母親の名前を呼んでいるリネラスの方をまっすぐに見ている。

「何が違うんだ?」

俺の問いかけに男は、大きくため息をつくと。

「人は自分の心に扉を作って成長していくんだ。だから、深層心理の世界であっても、本当に人の心に土足で踏み入ることはできない。ユウマ君、君が見ている世界はリネラスが見せてもいいと思っている表層の部分に過ぎない」

「つまり……俺が見ている世界は――」

「そう、孫が見せてもいいと思っている世界に過ぎない」

「はぁー……」

リネラスが、他人の俺に見せてもいいと思っている記憶。

それが――。

村人に嫌われて、母親に拒絶され、祖父が殺され、そのことを自分の母親に、その罪を突きつけられて誰にも守ってもらえなかったというのに、それでも母親を求めている……そんな姿を、見せられて――。

「俺には理解できない――」

俺なら、あそこまでされて村人に仕返しをしなかったか?

間違いなくしていたと思う。

それに……。

実の親に拒絶されるなんて――。

そんなこと、そんな風にされて――。

たぶん俺なら……。

「ああ、そういうことか……」

これは……。

きっと、これは……。

「ユウマ?」

「――ッ!?」

何かに気づきかけたところで声をかけられた。

目の前に立っているのはリネラスで――。

フィンデイカ村で出会ったときの……冒険者ギルドの青い服装のリネラスが立っていた。

彼女は、ニコリと微笑んでくるが、俺は無償に、胸が痛くなった。

「どうしたの? ユウマ?」

俺を心配そうな表情で見てくるリネラスに、俺は何と答えていいのか迷ってしまう。

何故なら、リネラスの笑顔は、俺がこの世界に来た時に見たときとは待ったく違っていたから。

今なら分かる。

リネラスの笑顔は作られた笑顔だということが――。

だから……。

「リネラス、俺は――」

俺は途中で言葉を止める。

自分の気持ちが分からない。

でも、それでも、俺はリネラスに向けて言わないといけない。

「――俺は、お前と一緒に居たい」

「…………」

彼女は、俺の言葉に俯いてしまい無言で立ち尽している。

その様子は、その姿は、どうしたらいいのか分からないという雰囲気をかもし出しているように思えた。

「ユウマ、少しいい? 私はユウマに話さないといけないことがあるの」

「俺に話さないといけないこと?」

「うん――」

リネラスの言葉に、問いかけを返すと彼女は小さく頷くと俺の左手をつかむとゆっくりを歩き出す。

景色は巡っていく。

そして気がつけば、こじんまりとした部屋の中に、俺とリネラスは居た。

「――ここは?」

部屋の中を見渡すが何もおかしなところはないように見える。。

「ここは、冒険者ギルド、フィンデイカ支部の2階の一室」

リネラスは、俺の方を見ずに部屋の中を見ながら俺へ語ってくる。

その言葉に、俺は部屋の中を見渡すが……。

「何もないぞ? ここが……リネラスの部屋だっていうのか?」

羊皮紙とテーブルと布団しか無い。

年頃の女の子の部屋には見えない。

「――うん。ここが私の部屋で間違いないから。だって私には、幸せになる権利なんてないから――」