「なんでだよ……どうしてだよ……訳が分からない」

リネラスが、何を求めているのか――。

どんな言葉を求めているのか……。

その答えが俺には分からない。

「ユウマさん! ユウマさん!」

身体を揺さぶられる。

ゆっくりと瞼を開けていくと、リンスタットとエリンフィートの姿が見てとれた。

「――ここは、深層心理の世界では……」

俺は周囲を見渡しながら一人呟く。

そこは、リネラスの部屋で、部屋の中が少し薄暗い。

どうやら、ここは――。

「ユウマさん、それでリネラスは?」

エリンフィートの言葉に、ようやく俺は、この世界が元の現実世界だということに気がついた。

俺は、話しかけてきたエリンフィートへ視線を向ける。

エリンフィートは、椅子に座ったまま俺に語りかけてくるが。

「リネラスは? お前、自分が何をしたのか! 理解しているのか?」

怒りのあまり、俺はエリンフィートが着ている服の襟を握り締め持ち上げる。

「ユウマさん!?」

リンスタットも驚いた表情を見せてくるが、リネラスを追い込んだのは、この2人に他ならない。

「落ち着いてください」

リンスタットが言葉を紡いでくるが、その言葉が俺の神経を余計に逆撫でする。

「落ち着いてください……だ……と!?」

「お前ら、リネラスが何を思っていたのか、リネラスに何をしてきたのか分かってないのか?」

「分かっています」

俺の怒りを滲ませた問いかけに答えてきたのは、エリンフィートで――。

その言葉は、とても冷静で。

「千年以上も生きていれば、分かります」

「何が分かって――」

エリンフィートは、襟を掴んでいる俺の手を振り解くとリネラスの寝ているベッドの横へ歩いていく。

「ユウマさんが言いたいのは、リネラスが迫害されたことについてですよね?」

「ああ」

問いかけに関する答えにエリンフィートは頷く。

そして、リンスタットといえば顔を真っ青にして、俺とリネラスを交互に見ている。

「そうですか。ですが、リネラスが迫害された事は仕方ないんです」

「仕方が……ない?」

こいつは、何を言っているんだ?

エルフガーデンの族長で、自分の集落の人間を守ることは当たり前の事なのに、それをせずに放置して仕方がないと答えてくる。

そんな言葉が俺には理解ができない。

「迫害された事は仕方がない? 迫害を推奨したのはお前じゃないのか?」

「そうですね。ですが、集落を維持するには必要な事だったんです」

「お前!」

一発殴らないと気が治まらない。

近づいていき殴ろうとしたところで、リンスタットが間に割り込んでくる。

「ユウマさん、落ち着いてください。それより娘は――リネラスは、どうなったんですか?」

眉根を寄せ眉間に皺を作ったリンスタットは、震えた声で俺に問いかけてくるが。

「いまさら……いまさら!」

母親面してるのかよ! という言葉を俺は呑み込む。

リネラスの深層心理の世界で、リネラスの父親と母親が話していた内容。

それを思い出してしまったから。

――でも……。

それでも……。

「分からない」

自分勝手な話ばかり話してくる2人に、どう言葉を返していいのか俺には分からない。

何故なら――。

「そんな!?」

俺の言葉を聞いたリンスタットが、膝から崩れ落ちる。

彼女を見て俺は、言いたいことが山ほどあった。

こいつが、リネラスを拒絶したから、リネラスにかけるべき言葉をかけなかったから、あれだけリネラスは苦しんで悩んで自分には幸せになる権利がないまで言ったのだ。

それが、一体どれだけの――。

「そう……か……」

「ユウマさん?」

呆然と、呟いた言葉にリンスタットは反応した。

エリンフィートも、まっすぐに俺を見てきているが、彼女は何も語ろうとはしない。

「そういうことか……」

リネラスが求めているのは、人の心であり、そこから派生する言葉であり答え。

つまり……論理や理論ではなく求められているのは不確定に依存する人の気持ち。

「ハハハハッ」

俺は額に手を当てる。

無理だ……。

俺には、リネラスを救うことなんて出来ない。

何故なら、俺には人の気持ちを論理的に理論的に解析して理解することは出来るが、本当の意味で今までわかった時なんてないから。