Using My God Skill “Breathing” to Level Up, I Will Challenge the Dungeon of the Gods
Episode 112: Underwater Pirate Ships
海の荒くれもの、海賊。
商船を襲い、大切な積み荷を奪い、さらった人間を奴隷として売り、抵抗する者は殺す、悪党どもの集団だ。
遠く離れたどこかの国では、他国の商船を襲う海賊を、王家・政府が容認している制度もあるという。私掠船というらしいが、襲われた方はたまったものではない。
プリネの実家――ラモード家の商船も、昔は何度か海賊に襲われたことがあるらしい。もっともその度に、護衛として乗っていた元冒険者たちが返り討ちにして、いまはそういうこともなくなったようだ。
神々のダンジョンで栄え、大勢の冒険者を抱えているスクク王国。その船に手を出そうというアホは、かなり少なくなったらしい。他国の王家・政府も、スククには手を出さないよう私掠船に命じているようだ。
とはいえ、その辺りの事情を知らないどっかの国の海賊どもが、うっかり冒険者の乗りこむ船に手を出して、あっさり逆襲されて船ごと沈められるケースもままある。
これがそういう船なのかはわからないが、僕とプリネは、沈んだ海賊船の甲板にいた。
洞窟から海賊船の床底に繋がっていた、ということなのかもしれないが、ここは神々のダンジョン。気まぐれな神々のダンジョンだ。気にするだけ無駄だろうな。
脳内の地図を確認する。
内部は、明らかに船の大きさより広かった。いつものやつだ。空間が捻じ曲がっているのだろう。
タイタニッコ号が待つ『海底門』の鍵は、海賊船のなかにあるようである。
甲板に出た僕たちは、もう一つの船室への入り口を発見した。回転羽《プロペラ》を出して、前に進む。
狭い通路を進んでいくと、右側に扉があった。地図によると、進路はこの先だ。宝箱もある。扉を開けた。
「……おわ!」
「わっ!」
驚く僕とプリネ。中は『酒場』のようだった。広い部屋内にテーブルと椅子が並べられ、奥にはカウンターバーがある。
扉が勝手に閉じた。同時に、海水が消《・》えた(・・)。
瞬時に、陸の酒場と変わらない状況になったのだ。
テーブルで酒を飲んでいるのは、見るからに海賊ですといった風体の男たちだ。『探知』に引っ掛からない。ということは、モンスターではない。見た目は人間だ。
部屋中の視線が僕たちに集まる。プリネが僕の後ろへ隠れ、彼女を守るように僕は前へ出た。
「おう? なんだぁ、ボウズとお嬢ちゃん、冒険者か?」
「ちょーどいいや! こっち来て飲んでけ飲んでけ!」
歓迎のムードだ。気のいい海賊たち……ってことなのかな?
「これは可愛いお客さんだ。さ、まずは注文していきな」
カウンターにいるバーテンダーが、僕たちに声をかけた。
しかし、ここでまごまご(・・・・)していても仕方がない。
「ラーくん……」
「ああ。僕のそばを離れないようにな」
不安そうなプリネと手を繋いで、僕はカウンターへ行き、空いている椅子に腰かけた。
しかしプリネは、僕のすぐそばで不安そうに立ったままだ。隣の椅子には微妙な距離があるし、そのもう一つ隣には、こちらを見てにやにやしている海賊のおっさんがいるから、怖いのだろう。
僕は椅子を降りて、いま座っていたそこにプリネを座らせた。自分は彼女の背後に立って、その腰に手を添えた。大丈夫、怖くないよ。プリネの安心したような吐息が聞こえる。
カウンターの向こう側にいる、髪をオールバックにした口ひげのバーテンダーが、コップを拭きながら、僕たちを見ないで聞いてくる。
「何にする?」
「コーヒーください。あとこいつにはミルク」
「そんなもんはない。ウチにあるのはこれだ」
バーテンがどん、とウィスキーの酒瓶をテーブルに乗せた。
どっかで見たようなやり取りだな、と我ながら思う。芝居のお約束ってやつだ。まさか自分でやるとは思わなかった。
コップを拭くのをやめたバーテンが僕を見て、
「冒険者ってことは、もう成人してるんだろ?」
この国では十五歳で成人するが、そんなもんは建前だ。まだまだ子供扱いされる。
さっき店に入ったときも、ボウズとお嬢さんって言われたし。
バーテンが、ちいさなグラスを二つ置いて、酒瓶を傾け、茶色く濁った液体を注ぐ。煙が立ったように見えたのは気のせいだろうか。毒なのか、それともただ単に酒の品質が悪いのか判別がつかない。どっちも似たような気もする。
「それとも、魔道士さんはイカれた薬草茶しか飲まないかな?」
バーテンの言葉に、どわっはっはっは! と店中が笑い出した。いまの、何が面白かったんだ? え、海賊ジョーク?
笑い声に怯えるプリネの肩を撫でつつ、僕は切り返す。
「ずいぶん古い『魔道士』のイメージなんですね」
薬草茶って。
そりゃ伝統的な魔術師や魔法使いなんかは、草や葉っぱを鍋でぐつぐつ煮込んで、薬草とかお茶を作ったりもしてるみたいだけど。
ダンジョンギルド・冒険者の職業《ジョブ》である『魔道士』は、そういった魔術は行わない。いまこの国で生きている者には常識なはずだが……。
くい、とバーテンが眉を上げた。
「そりゃそうさ。俺たちはもう、三百年近く、こうして海の底にいるんだからな」
「は? 三百年?」
「そう、三百年前、俺たちは船ごと沈められたのさ――魔獣にな」
目を細めて思い出すように呟くバーテン。僕は、あの、と口をはさんだ。
「その話、長いですか?」
「…………こういう時は止めるものじゃないぞ」
「正直、海賊の話って興味なくて」
「お前……」
「ていうか、海賊船なのに、なんでバーテンダーがいるんです?」
「気になるのは、そこか、まったく……。俺はもともとこの船の船長なのさ」
「船長がバーテンダーやってんです?」
「俺のせいで船を沈められてしまったからな。船長というのは責任を負うものさ」
なるほど。僕はさらに尋ねる。
「さっき言いかけてましたけど、魔獣に沈められたんでしたっけ?」
「ああ。恐ろしくデカい奴だった。あんなのは見たことがない。以来、俺らはこのダンジョンに閉じ込められちまって、出れないのさ。ただし――」
と、バーテンダー船長が僕たちを見た。
「冒険者をもてなせば、それだけ刑期が短くなる。ダンジョンの神ってやつに、そう言われてね」
ぱちり、とウィンクする船長の呼吸を、僕は読む。
やや浅く、やや速い呼吸。かすかな興奮と、嘲りと、慎重さと、そして優越感。
ああ、やっぱり。
僕が納得していると、店中から、がちゃんっ! と何かをぶつける音がした。
海賊たちが、ジョッキを片手に掲げている。
全員が満面の笑みで叫んだ。
「冒険者に乾杯!」
「地の底、海の果て、空の向こうまで冒険する命知らずに乾杯!」
「ダンジョンの神々に乾杯!」
「「乾杯!」」
僕たちを称えてくれているようだ。経緯はともかく、ホッパー族や妖精《フェアリー》、猫神官のような、『ダンジョンに住まう者たち』と似たようなものなのかも知れない。
バーテンが、さぁ、と酒を進めてくる。
「これは俺からの奢りだ。もっとも、客から金を取ったことはないがね」
「はぁ」
グラスを手に持って、口に運ぶ。その途中で思い出したように、僕は尋ねた。
「ここに宝箱があるって聞いたんですけど」
「ああ、それか。ぜひ持って行ってくれ」
「良いんですか?」
「構わない。俺たちじゃ、開けられないんでね」
どん、とカウンターテーブルに大きな宝箱が置かれる。
来た。
結局、口も付けなかったグラスを置いて、僕は宝箱に手を触れた。シーフ技能で罠を解除して開けると、中には――
「魔黒のインバネス!」
「とんがり帽子!」
黒いインバネスコートと、三角錐の尖った帽子が入っていた。
よしきた。どちらも魔道士の装備だ。僕とプリネ、どちらも装備できるが、事前《・・》に話し合っていた通り、両方とも僕が貰う。
さっそく装備した。
=====
名 前:ラーナ・プラータ
人 間:Lv???
魔道士:Lv??
H P:292
M P:292
攻撃力:292+55+1(エルトラルソード、樫の杖)
防御力:292+40+20+1(魔黒のインバネス、とんがり帽子、イヤリング)
素早さ:292
技 能:
【シーフ】鍵開けLv20、探知Lv20、追跡Lv20、マッピングLv10、隠密Lv3、宝探しLv3。
【戦士】剣術Lv27、槍術Lv27、斧術Lv27、弓術Lv27、二刀剣術Lv7。
【戦技】鉄壁《ガード》、突撃《チャージ》、強撃《アタック》、銭投《ゼニナゲ》、剣捌《パリィ》、居合《イアイ》。
【道化師】手品Lv20、瞬間回避、舞踏《ダンス》Lv5。
【武道家】体術Lv21
【武技】功気掌《こうきしょう》、気功弾《きこうだん》、竜気纏《りゅうきまとい》、霞返仕《かすみがえし》。
【僧侶】治癒《ヒール》:消費魔力:3、俊敏《クイック》/3、幻惑《ダズル》/4、剥脆《フラージ》/3、催眠《ヒュプノ》/3、祓魔《エクソル》/3、解毒《デトキシ》/3、疾風《ウィンド》/4、封呪《フォービッド》/3、解呪《ディスペル》/4、癒風《ヒールウィンド》/5、目覚《アウェイク》/3、多剥脆《フラージス》/4、旋風《サイクロン》/6、再生《リジェネレイト》/7。
【魔道士】小火灯《ファイアーライト》/2、防御盾《シールド》/3、水氷棘《アイスピックル》/3、閃煌線《パイロ・レイ》/4、全体防御盾《ホールシールド》/4、爆発光《エクスプロド》/5、遅鈍重《スロウリィ》/4、階層内帰還《ピットバック》/8、粒閃煌線《フォトン・レイ》/6、【新】魔力奪取《ノヴァスティール》/0。
【独技】竜神剣《りゅうじんけん》、双強撃《ダブル・アタック》。
スキル:【呼吸】息を吸って吐くことができる。
=====
インバネスコートが+40、とんがり帽子が+20だった。
以前、エマ様に頂いた『古き宮廷の法衣』と同程度の防御力だが、決して低いとは思わない。あれは特殊なイベントをクリアしないとゲットできない防具だから、通常ルートでやっとそれと同じくらいの防具が手に入るようになった、と考えるべきだろう。
着替える際に、プリネのコートを長く伸ばして貰って、中に入った。酒場で裸になるのもどうかと思ったし、作戦会議の意味も込めて。
ひそひそと、僕たちは話し合う。
「ここまでは予定通りだな」
「そ、そうだね……!」
「平気かプリネ? 大丈夫だぞ、僕がいるから」
「う、うん……! ありがとう、ラーくん!」
緊張気味に、にこりと微笑むプリネ。可愛い。
そしてコートの中にいるということは、プリネも当然下着姿である。
そしてもちろん、着替えるわけだから、僕も下着姿である。
「………………(じー)」
「………………(じー)」
お互いにお互いの半裸を凝視する魔道士ペア。
プリネの視線が僕の胸やらお腹やらに集中している。なんだかこそばゆい。僕も負けじとプリネの爆乳を凝視する。コートに隠れていて忘れそうになるが、プリネの下着は、胸がまるで隠れていないチューブトップと、お尻がほぼ丸出しの極細ショーツである。
胸もお尻も、昨日さんざん揉んだなぁ。
「あの、ラーくん……それ……(ぽっ)」
「わっ、しまった……」
内股になってしまう。慌てて背を向ける僕。
深呼吸。深呼吸。深呼吸。
さてさて。
インバネスコートは、ちょっと特殊なつくりになっている。
まず、普通のコートから袖を取る。するとノースリーブなコートが出来上がる。その上に、腕まで隠れるポンチョを被せると、インバネスコートになる。手が動きやすくて良い。武器も使いやすくて助かる。
とんがり帽子を頭に被り、プリネを振り返った。
こくり。と二人で頷く。
そうして、プリネのコートから出た。
カウンターの向こうから、バーテンダー船長が微笑んでいた。
「ああ、似合っているじゃないか」
「ありがとうございます」
僕も微笑み返し、テーブルにあるグラスを取った。やっぱりなんか濁っている。ウチの宿屋で出していたウィスキーはもう少し質の良いやつだったよな、と思い出して、
背後、
斧を振り上げてきた海賊の首を、僕の振るったエルトラルソードが刎《は》ね飛ばしていた。
「魔獣に沈められた海賊船。人魚さんと同じく、魔獣の被害にあい、そのうえダンジョンに封じ込まれた気の毒な海賊たち――じゃ、ないんですよね?」
僕がカウンターを振り返って尋ねると、バーテンダー船長が苦々しく舌打ちした。
「ちっ! どこで気付きやがった!」
「いや、ほんと申し訳ないんですけど、最初から」
「まさかてめぇも!?」
「すいません。楽しませて貰いました」
彼らは、魔獣に沈められたわけではない。
スクク王国の船を襲って沈められ、神の怒りに触れたか、悪神に見いだされたかして、ダンジョンに召還、幽閉された者たちである。五百年経てば解放されるという。
自分たちでは宝箱に触れないため、ラーナたち冒険者に開けさせようとしたのだ。その後で、横取りしようと考えていた。そのアイテムを悪魔道士に渡せば、五百年の刑期が短くなるという。
なぜそんなことを知ってるかって?
もちろん、ギルド新聞の攻略情報である。
こっちはすでに、この先の情報を持っているんだよね。反則みたいで悪いけど、彼らの狙いはぜんぶお見通しだったりする。
「ちっ! これだから近頃の冒険者は!」
「どいつも攻略情報に頼りやがって!」
「おかげで俺たちの刑期がちぢまりゃしねぇ!」
僕が一言、
「生前、さんざん悪いことしたんだから、そんくらい当然でしょうが」
船長が青筋を立てて、
「うるせぇ、ガキンチョに何が分かる! ……こうなったら仕方ねぇ! 野郎ども、やっちまいな!!」
「「おうよ!!」」
海賊たちが吠えた。店中にびりびりと響き渡る怒声。
同時に、『探知』に夥しい数の『モンスター』反応が生まれ、海賊たちの姿が変化していく。ただの人間に見えた者たちは、腐った死体――ゾンビだった。
船長が叫んだ。
「ガキはコートを引っぺがして殺せ! アイテムを悪魔に持っていきゃあ俺らの刑期が縮まる!」
「小娘は!?」
「決まってんだろ! すぐに食べるな! じっくり楽しんでからだ!」
「「ぐぇっへっへ、見ろよあの胸と尻、うまそ――へべろぉい!?」」
下卑た笑い声を上げる海賊の頭に、僕の投げたトランプが突き刺さった。
「どいつもこいつも……ひとの恋人をいやらしい目つきで見やがって!」
お前も見てただろ、というツッコミは受け付けない。僕は良いのである。
「覚悟しやがれ、海のクズどもめ!」
「「てめぇも同じにしてやるよぉ!!」」
夥しい数の海賊たちが、一斉にとびかかってきた。
一分後、全員が地面に倒れていた。
「――弱っ!」
聞いていた通りに弱かった。僕は【戦技】を一回使っただけで終わってしまった。プリネは魔法も使わなかった。
「ぐっ……ちっくしょお……」
「船長ぉ……やっぱり無理だよぉ……」
「俺ら、人間のときと同じなんだからよぉ……」
「ここまで潜ってきた冒険者《バケモン》どもに勝てるはずがねぇよぉ……」
ああ、一般人と同じ能力しかないのか。そりゃ弱いわ。
プリネが杖で殴っただけで動かなくなったもんな。
「はわわわわわ……」
杖を握って、大変なことをしてしまったという顔で震えるプリネ。
雷電の杖は、攻撃力が+40もあるのだ。ミスリルソードより高いのだ。殴ったらそりゃ痛い。
それにプリネ自身も、冒険者としてプレーンレベルが上がっている。たぶん今なら、成人男性と素手で殴り合っても勝てるんじゃないだろうか。
「お嬢ちゃん、ナイスバッティングだったぜ……」
地に伏せたまま、がくり、と気絶する海賊ゾンビ。なに満ち足りた顔してんだこいつ。
こいつらは、しばらくするとまた復活するらしい。で、また不味い酒を飲みつつ、次の冒険者が獲物にかかるのを待っているという。
でも攻略情報が広まってるおかげで、連戦連敗なんだろうな。刑期が五百年で、三百年経ったって言ってたから、あと二百年はここで負け続けるのか。大変だな。まぁ、酒好きなら意外と楽しめるのかもしれないな。飲んでも飲んでも減らないみたいだし。
で、船長が逃げた。
「追いかけるぞ、プリネ」
「は、はーい! あの、ご、ごめんなさい……」
カウンターの向こうへ姿を消したバーテンダー船長を追いかけようとすると、プリネが殴ったゾンビへ、律儀にも礼をしてから、着いてきた。こういうところ可愛い。とても好き。
僕は立ち止まって振り返った。小さな彼女の顎を持つ。
「プリネ」
「はい、ラーくん」
「ちゅ」
「ちゅー」
「プリネは可愛いな」
「ラーくんの新しいお洋服も、とってもかっこいいよ!」
倒れている海賊たちが怨嗟の声を吐き出した。
「……リア充死ね」
「……くたばれ」
僕は一言、
「リア充じゃないのにくたばってるゾンビどもは黙ってろ」
「……ヒドイ」
「……そこまで言わなくてもいいじゃない」
「……メンタルちょー下がる」
怨嗟の声?を無視しつつカウンターへ入る。
酒棚をスライドさせると、裏への扉があった。迷わず開ける。直後、
どっぱあああああああああああああああん!
鉄砲水が扉の奥から押し寄せてきた。
「おわああああああ!?」
「ぴゃああああああ!?」
わかっていたとはいえ、びっくりした。
「なかなかの勢いだな」
「わ、ラーくんありがとう!」
扉のふちを掴んで堪えた僕は、腕に抱えたプリネに確認する。
「飴玉、ちゃんとあるな?」
「うん! お口に入ってます!」
よし、と頷いて、もう一回キスをして、お互いのやる気を高めると、僕たちは扉の奥へと泳いでいった。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
酒場の向こうは、また船の中だった。
まるで豪華客船のダンスホールだ。
天井にはシャンデリアがあり、煌々と灯りをともしている。ロウソクじゃないよな、小火灯《ファイアーライト》かな。
床は美しい絨毯だ。とはいっても水中だし、僕たちも浮いているわけだが。
目的の船長は、ダンスホールの中央に浮いていた。
「はっはっはー! まんまと罠にかかったなぁ冒険者ども!!」
「いや、攻略情報通りだよ」
高らかに笑うバーテンダー船長に、僕は冷静に返した。
「うるさい黙れ! そして恐れ戦くがいい! 俺の真の姿を見せてやる!」
「デカいゴーストになるんだよね?」
「ネタバレをするなぁああ!」
船長の身体が膨れ上がり、真っ白い光に包まれた。光は収束し、巨大なゴーストに変化した。
白いシーツを被ったようなアイツである。
そして、ダンスホールの脇から、わらわらと小さいゴーストが無数に出てくる。
「やるぞ、プリネ!」
「はい!」
僕は懐から、人魚さんに貰った貝殻を取り出した。淡く光っているそれを開くと、貝殻は光に包まれて形を変える。
ぱらり、と巻物になった。それは僕の横に移動し、僕の名前とプリネの名前を記した。
パーティリストだ。そう、これは簡易パーティによるレイドバトルなのだ。
巨大ゴーストが叫ぶ。エコーがかかってるみたいで聞こえにくい。
「うかうかと1パーティだけで来る冒険者は久しぶりだ! その魂、飲み込んでやる!」
ま、大抵は一回戻るんだろうね。あの酒場は、1パーティごとしか入れないみたいだし。
でも、20層ってまだセーブポイントが無いから、19層まで戻らないといけないんだよね。いくら『急がば回れ』が信条の僕でも、それは面倒だし、何より、
「時間の無駄だ」
「なーにぃー?」
「僕とプリネの二人だけで突破できる。そう思ったから来たに決まってるだろ」
「きぃいいいいええええええええええええええええええええええええええええ!」
巨大ゴーストがけたたましい咆哮を上げて、レイドバトルは幕を開けた。