VRMMO Summoner Hajimemashita

116th South Gate Defense

 

 西門で戦闘中に、リアさんから”手が開いているようなら南門へ援軍へ行って欲しい”とメッセージが届いた。

 まぁ、西門での戦闘も一区切りついたし、行くのはいいんだけど、これだけプレイヤーが居るんだし、敵にも強いのはあのワイバーンぐらいしか居なかったから、別に急いで行く必要も無いよな?

 具体的には、ボーパル達のMPが全回復するまで街をぶらつくぐらいの時間はあるよな。MP回復薬で、自動回復速度が上がってるから後30分もすれば回復するだろうし。

 んじゃま、とりあえず街へ向けて、しゅっぱ~つ!

「きゅい!」

「メエエ」

「~~!」

「……んにゃ」

「コーン!」

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 はい。街へ到着。ちなみに今はイナリの背に乗せてもらって、全員に隠密の効果をかけてもらっている。

 この服が珍しくて可愛いのは認めるけど、あんまり声をかけられると面倒くさいからな。

「コン?」

「ん?ああ、なんでもないよ。イナリに乗せてもらえてラクチンだなぁと思ってさ」

「コン!!」

 俺の視線を感じたのか振り返ってな~に?って感じで背に乗る俺を見つめてくるイナリのキツネミミの間の所をもふもふしてやると、もふもふのしっぽがぶんぶんを通り越してぐるんぐるん回転しだした。

 あー、涼しい。でもほこりがまうからやめようなー。

 っと、とりあえず街までは戻ってきたけど、どうしようか。

 このままお散歩を続けてもいいけど、目立つのは嫌だし……アトリエにでも行く?

 んー、でも今ある分の月光草はもう、全部回復薬にしてしまったしなぁ。

 ま、用事が無かったら遊びに行っちゃダメって訳でも無いし、行くだけ行くか。好感度は足で稼ぐものだしね。まぁ、歩くのはイナリだけどさ。

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 カランコロン

「ただいまー」

「きゅーいー!」

「メェエ!」

「~~!!」

「……にゃん」

「コーン!!」

「……何度そのあいさつで入ってきても、お帰りなさいとは言いませんからね」

 えー、フィアちゃんはノリが悪いなぁ。そこは、「おかえりなさい♪」からの「ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」って繋げるべきでしょ。まぁ、フィアちゃんがいきなりそんなにデレデレになったら、とりあえず病気を疑うけどな。ゲーム内だから、状態異常か?魅了とか。

「フィアちゃん。魅了されてみる気ない?お酒とかでもいいよ?」

「……脈絡無く何を言い出すんですか……あ、いえ。今のは何故そういう思考に至ったのかを説明しろという意味ではありませんからね」

「えー?」

 会話の種を先に潰されてしまった……さみしい。

「……今日はいつもの格好とは違うんですね」

「ん?」

 ああ、キツネさんセットでアトリエに来たのは初めてだっけ?

 フィアちゃんの視線が微妙に上を向いていると思ったらキツネミミを見ていたのか。フィアちゃんはイナリのもふもふの虜だからな。俺もだけど。もふもふしたくてしょうがないんだろうな~

 ぴこぴこ

「……!うごいた……」

 うん。このキツネミミは簪にくっ付いてる飾りじゃなくて、簪を装備したら生えてくるオプションだからね。ちょこっと動かすぐらいならできるんだよね~

 ぴこぴこ

「~~~~!」

 なんかフィアちゃんからティーニャみたいな声が漏れてる。俺もボーパルが後ろを見ようとしてコロンと後ろでんぐり返しをした時にあまりのかわいさに悶えて、同じような声出してたな~。

 ぴこぴこ

「~~!~~!!」

 キラキラした目をしつつも、俺の頭を撫でまわそうとするのをプルプルして堪えて、でも右手が少しずつ伸びてくるフィアちゃんカワユス!ではトドメにターン!

 ふりふり!

「もふもふ!」

 はっはっはー!キツネさん装備にあるのはキツネミミだけじゃなく、もふもふのキツネしっぽもなのだー!

 キツネしっぽの魅力には誰も勝てないのだ。初見でキツネちゃんのしっぽをもふる為に命を張った俺が言うんだから間違いない。

 ちなみにイナリと始めて会ったフィアちゃんも俺と大体同じ反応だった。もふもふだからね。仕方ないね。

 俺がフィアちゃんにしっぽをもふられ、勢い余って頭まで撫で回されている間にボーパル達は既に指定位置となっている場所へと移動し、就寝に入ろうとしている。って、ちょっと待ってフィアちゃん!そこはお尻だから!しっぽの付け根をさわさわしないで!!

「……ふぅ。堪能しました」

「……さいですか……」

 堪能されました。

 うぅ、しっぽと髪の毛がわちゃわちゃに……まぁ、俺から誘ったんだしいいんだけどね。もうちょっと手加減して欲しかった感はある。

 ……ところでイナリよ。お前は何故机の下で寝てるんだ。暗くて落ち着くのかな?

 でもその位置だとイスに座ったら確実に踏むんだが……まぁ、イナリは踏まれても喜んでるからわざとだろうけどさ。

 あ、別にイナリがドMってわけじゃ無いからな?たんに、足蹴にされても触ってもらえるだけで嬉しいらしい。可愛いやつめ。

「……今日はミズキちゃんがお留守番なんですね。ん。イナリちゃんのしっぽも、もふもふです」

「むしろイナリの方が本家だしねー。しっぽももふもふで気持ちいいけど、首周りのふかふかしてる所もふわふわできもちいいよ?」

「コン?」

「……!ふわふわ」

 机の下に入りきらず、机からはみ出してゆらゆらと揺れていたしっぽをハシッと捕まえてもふもふすりすりしていたフィアちゃんがイナリの体を下から辿るようにして、机の下に消えていき、俺の位置からは定期的にぽふぽふと床を叩くイナリのしっぽと、ユラユラとゆれるフィアちゃんのお尻が見えているわけだが、幸せそうだし黙っておこうかな。

 注意したら理不尽に怒られそうな気がするし。フィアちゃんなら大丈夫な気もするけど、アニメとかだと教えてあげた主人公が殴られたりするからな。あれ理不尽が過ぎるよね?

「……ふぅ。よいもふもふでしt」ゴッ!

 あ、頭ぶつけた。重そうな4人がけの机がちょっこっとズレたぞ。イナリをもふるのに集中しすぎて周りの状況が完全に頭から抜けていたんだな。

「~~~~~ッ」ジタバタ

 おぉぅ。フィアちゃんがイナリの背中で、頭を抱えて悶えてる……

 鈍い音したもんな~。しかも舌まで噛んだっぽい。うぅ。想像しただけで痛くなってきた。

「おーい。フィアちゃん大丈夫か~?」

「……あぅ~……ら、らいひょうふでふ」

 ……ダメそうだ。

 とりあえず机の片面の椅子を全てずらしてイナリごとフィアちゃんを救出。ボーパルに痛いの痛いのとんでけ(魔法)をしてもらった。ありがとねー2人とも。もう休んでていいからね~。

「きゅい!」

「コーン!」

「……助かりました。2人ともありがとうございます」

 フィアちゃんがイナリとボーパルにペコリと頭を下げてお礼を言っている。

 よく出来た子だなぁ……あれ?

「ん?2人?あれ?俺は?」

「……あなたには何もしてもらって無いじゃないですか……」

「酷い!?俺だって椅子をずらしたりしたよ!?」

 椅子をずらしたり……椅子をずらしたりしたよ!!

「……椅子をずらすだけならフィアにだってできます。実際に助けてくれたのはイナリちゃんとボーパルちゃんです」

「むー、たしかにそうかもしれないけどさー」

 ちぇー。折角フィアちゃんにお礼を言われるチャンスだったのになー。まぁいっか。お礼ぐらいいつでも言ってもらえるしね。

「……でも、心配してもらったのは嬉しかったですよ。ありがとうございます」

「ん?フィアちゃんなにか言った?」

「……なんでもありません」

 ありゃりゃ、プイッてそっぽ向かれちゃった。何か気に障ること言っちゃったかな?

 ……はっ!つまりフィアちゃんは俺に助けて欲しかったんだな!次は俺が一番に助けよう。そうしよう。

「……そういえば、ちょっと前から突然倉庫に素材や、装備品がどんどん入ってくるんですが、あれはあなたの所為ですよね」

「決め打ち!?なんで!?」

「……倉庫に入ってくる素材の量が急に落ち着いたと思ったらあなた達がアトリエに来たので」

「うん。そりゃ怪しいわ。というか多分俺達の所為だわ」

 勝手に倉庫に素材が入ってくるってあれだよな。貢献度によるドロップアイテムの自動分配。

 生産職も自分が作った薬とかを使ってもらったら貢献度が上がるってテトとメトが言ってたしな。MP回復薬を今回のイベントで全て出し切る勢いで使いまくっているしな。

 ……本当に使い切りそうで心配になったから今時間経過での回復を待っているぐらいには盛大に使っているしな。

「まぁ、その素材たちは今回の防衛戦の正統な報酬だからありがたく貰っておけばいいんじゃないかな?」

「……錬金術の素材になるのであればそうなのですが、剣とか鎧とかを貰っても使い道が無いです」

「あ~、装備品とかも出たのか。俺はまだインベントリをチェックしてないからなぁ……アイテムが多すぎてみる気が失せるんだよね。どんなのが出たの?」

「……んっと、蟻甲の鎧とか、ワイバーンの牙の槍とか、ワイバーンの皮膜の水着とか、」

「ぜひ着てみよう!!今着てみよう!!」

「……絶対に着ません」

「えー」

 まぁ、確かに海でも無いのに水着になるのは恥ずかしいよな~。水着なんてもういいですから。って気分になりそう。

「じゃあこうしよう!まず俺が水着を着るから、その後にフィアちゃんが着るってことで!それなら恥ずかしく無いでしょ!」

「……意味が分かりません。それをしてなんになるって言うんですか……」

「俺が嬉しい」

「……絶対に着ません」

「えー」

 やっぱり拒否されてしまった。そうだよね。俺が着た後の水着なんて着たくないよね……俺も他の人が脱いだ水着なんて着たくないしな。

「……そういう問題では無いのですが……水着を着ても海なんて危ないので行けませんし……そもそもフィアはこのアトリエからは出ませんし」

「えっ……」

 堂々と引きこもり宣言をされてしまった……そういえばエルはちょこちょこと採取とかに出かけているみたいだけど、フィアちゃんはアトリエの外に出かけている所を見たことは無いよなぁ……あっ……

「……なぜ突然慈愛に満ちた目でフィアを見つつ頭を撫でるんですか。やめてください。子供扱いしないでください……どうして今度は訳知り顔で頷きながらフィアの肩を叩くんですか。やめてください。不愉快です」

「大丈夫分かってるから……俺はフィアちゃんの味方だからね?街の外の話もいっぱいしてあげるからね?」

「……絶対勘違いをしていると思うのですが……くやしいですが、外のお話は聞きたいです。森のお話は姉さんからも聞いているので森以外の場所のお話をお願いします」

「よしきた!ん~、じゃあ山の洞窟の話をしようか。すごーく真っ暗な洞窟で、奥地にはすんごく綺麗な場所があったんだよ」

「……ふむふむ。それは楽しみですね……あ、待ってください。この前とてもおいしいお茶を手に入れたのでいれてきますね」

「お、フィアちゃんがおいしいって言うからにはきっとすごくおいしいんだろうね。楽しみだな~」

「……無駄にハードルを上げないでください……と、いつもなら言う所ですが今回のは本当においしいので楽しみにしていてください」

「うん!楽しみに待ってるよ!」

 その後フィアちゃんがいれてきてくれたお茶はすごくいい香りがするほんのりと甘いお茶だった。

 ボーパル達がお昼寝している姿を見つつ、おいしいお茶を飲みながら、フィアちゃんとお話をする。

 幸せを絵に書いたら多分こんな感じになるんだろうなぁと思いつつ、このあと滅茶苦茶おしゃべりした。

 ……あれ?何か忘れているような・・?