VRMMO Summoner Hajimemashita

124th VS Demon 2

 

 スキル《月光合成》

 月光兎の職業スキルであるこのスキルは非常に使い勝手の悪いスキルだ。

 まず、月が出ていない昼間はそもそも発動しないし、夜でも月光が遮られる森の奥や洞窟や屋内だと発動しない。

 そして発動する効果は月の満ち欠けによって決まる。

 新月の時はなんの効果も発生せず、満月に近づくほど効果が高くなる。

 FWOは10日で月の満ち欠けが一周するので、月光合成が最高の力を発揮するのは10日に一回の夜に月光が当たっている時間だけって事になる。時間で表せば1日20時間×10日で200時間の内、10時間だけってことだな。

 短っ!1日5分しか使えない奥義よりも使い勝手が悪いまであるな。

 と、まあそんな使い勝手の悪い月光合成だがその分効果は高い。

 今日の夜が満月のはずだからまだ最高の効果は確認したことが無いが、月光合成発動中のボーパルは体が月光色に輝き、全体的にステータスが上昇しHPとMPの自動回復速度も大きく上昇していた。

 ……非満月時でそれだけの効果があるんだから、今にも落ちてきそうな程でっかい真っ赤な満月の光を小さな身体で目一杯浴びているボーパルがどうなっているかというと……

「ひ、ひぃ!ちょ、やめ……聞いてない!こんなデタラメなウサギさんが居るなんて聞いてないんだけど!?」

「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!!」

 ドガガガガガガガガガガガガガガ!!

 とても打撃で出たとは思えない削岩音を出しながら、手足が伸びた所為で更にもぐりこみ易くなった魔人ちゃんの間合いの内側。ウサギの間合いに入り込んだボーパルが魔人ちゃんの胸を殴る蹴るの連続攻撃で一気に追い詰めている。

 せめて胸が大きければ一番攻撃しにくい胸の正面に居座られることは無かっただろうに……まぁ、その場合はお腹辺りに入られたボーパルの姿が見えないだろうから一長一短だろうが……

 このボーパルの猛攻に気勢を削がれたのか、怒り狂っていたプレイヤー達も「わざわざ病院でするのか……マニアックだな」とか、「メニアーック!!」だとか言っているのが聞こえてくる。

 お前らはボス戦中になんの話をしているんだ……

 まぁ、それはさておき、真っ赤な月光を浴びたボーパルは、もともと雪の様に白い体に真っ赤なおめめと、赤いマフラーがトレードマークだった全身が月の光と同じ真っ赤に染まり、何故か装備していた脚甲まで赤くなったため耳の天辺からしっぽの先まで赤一色になっている。

 血塗れみたいに全身真っ赤に染まったボーパルは、赤い彗星の様な超速度で魔人ちゃんを圧倒しているが、決定力に欠けているみたいだな。

 ボーパルは今、魔人ちゃんの胸の前に陣取る事で一方的に攻撃できているが、大きなダメージを与えられる大技を当てたら魔人ちゃんが吹き飛んじゃうからな。

 まぁ、それ以前に魔人ちゃんに大技を当てる隙も無いんだが……

「これでウサギ様の援護をしたら貢献度は貰えるんだろうか?」

「ウサギ様ならお前らの援護が無くても魔人さんに普通に勝てそうだしな……」

「今も謎の技術で空中に浮かんで魔人さんのちっぱ―――」

「ふんっ!」

 バァン!!

 あ、魔人ちゃんの地雷を的確に踏み抜いたプレイヤーの頭が爆散した。地雷は踏み抜くもの。

 まったく、バカだなぁ。いくら魔人ちゃんの胸がちっちゃ―――

「ふんっ!」

 バァン!!

 ……今、耳の真横を闇色の矢が通り過ぎていったんだが偶然だよな?俺は言葉にして無いしな。な?

「きゅい!!」

「くうっ!」

 俺や他のプレイヤーが命がけで作ったすきにボーパルが縦回転かかと?落としで魔人ちゃんを真下へと吹き飛ばす。

 そして隕石の様に地面に激突した魔人ちゃんが体勢を立て直す前に突然加速したボーパルが流星の様に魔人ちゃんの後に続いて落っこちる。

 ふむふむ。大技で吹き飛ばしたら距離を取られるから地面に叩きつけてすぐさま追撃をしたのか。なるほど。

 これで、魔人ちゃんが地面に倒れていたら地面方向への攻撃は全力を出せるしな。

 まぁ、そんなに甘くはないと思うが……

「ッ!『テレポート』!」

 ほらな?

 ボーパルの流星蹴りが当たる直前に魔人ちゃんの体がブレて消える。

 だが、同じ手が何度もボーパルに通じると本当に思っているのか?

「きゅい!!」

「なっ!?どうして私の場所が、ごふぅっ!?」

 地面にぶつかる寸前にVターンをしたボーパルが勢いを殺すことなく空中に出現した魔人ちゃんのお腹にロケット頭突きをかます。

 空間察知持ちのボーパルに空間移動が何度も通じるわけが無いだろうにな。まぁ、魔人ちゃんはボーパルのスキルなんて知らないからしょうがないんだろうけどさ。

「そんなカルビなのか河童なのか海老なのか分からないせんべいみたいに言われても……」

「スーパーウサギ様って……確かにウサギ様は戦闘民族なうえにベジタリアンだろうけども」

「いや、まだだ!赤髪って条件ならスーパーウサギ様ゴッドである可能性もありえる!!」

 だから外野(プレイヤー)はさっきから何の話をしているんだ……

 後方からちょこちょこと聞こえてくるプレイヤーの呟きに耳を傾けている間に後頭部とお腹に重たい一撃を貰って動きの鈍った魔人ちゃん相手にボーパルが無双している。

 それはもう蹴り技主体なのにテンプシーロールみたいな動きをしてボーパルが3匹に見えるほどに。

「ウサギ様が3匹だとォ!?絶望しかねえ!」

「きっとタバコの消し忘れの火を消そうとしてるんだよ!」

「中の人なんて居ない。はっきりわかんだね」

 相変わらず会話の流れが謎すぎるんだが……なにがどうしてそうなったし。

「ッ!わぁあああああああ!!」

「きゅい!?」

 空中で入り乱れて戦っているため下手に魔法攻撃をすることもできず精霊ちゃんたちと一緒に応援しているとHPが5割を切った魔人ちゃんが突然絶叫したかと思ったら魔人ちゃんを守る様に球体状のバリアのような物が展開されてボーパルが弾き飛ばされてしまった。あれは魔人ちゃんのボス能力か?ボーパルのHPは減ってないみたいだが……

「拒絶結界だと!?魔人さんはカラスの森の守護者だったんや……」

「いや、流石にそれは論理が飛躍しすぎだろう」

「スジだけならダイコンでも通ってる!」

 もう突っ込まんぞ。

「ふ、ふはははははははは!調子に乗るのもここまでだよ!この拒絶結界の中には私以外の生き物は侵入できない!これでもうそのウサギさんは怖くないよ!」

 魔人ちゃんが涙目でプルプルしながらなんか言ってる。

 でもそっかー。あの結界を越えられるのは生き物じゃない武器か魔法だけなのかー。

 ならしょうがないなー。

「レン君!ミヤヒナ!ボーパルブラスター発射!」

『OK船長!ボーパルブラスター発射!!』

『このまま出番が無いかと思ったよ!!』『ボーパルちゃん強すぎだよ!!』

『発射!愚痴の前に発射!エネルギーがもう臨界を突破してるから!!』

『えー、しょうがないにゃぁ……』『えー、レン君は欲しがりだにゃぁ……』

 なんでこのゲームのプレイヤーは全員ノリが軽いんですかねぇ……ネタに走らないと死んじゃう病気にでも掛かっているのかな?

「ふはははははは……え?」

 体の震えを諌める様に高笑いを続けていた魔人ちゃんを突如始まりの街の中(・・・・・・)から飛来した極太レーザーが飲み込んだ。