母子を、ガレキの中から見つけた木の柱に、ロープでガッチリ縛りつけ、その柱をプーの両腕に持たせる。
背中の籠には、ギブス侯爵の孫と侍女。
それにパトリック。
5人のうち2人は子供だとはいえ、プーの飛行速度は遅くなる。
王都の住人に、漆黒の翼竜の姿を見せつけつつ、ギブス侯爵邸に降り立つと、慌てて屋敷から出てきたギブス侯爵と孫との、感動の再会。
パトリックは、孫を抱きしめるギブス侯爵に、
「アンドレッティ家に保護を求めろ。王都はこれからさらに混乱するだろう。兵の居ない宮廷貴族では、巻き込まれたら向かう先はあの世だ」
そう告げてパトリックは飛び立つ。
いつもの高度ではなく低空を飛び、プーの飛行した地域に住んで居た人達に、翼竜の恐怖という名の置き土産を残しつつ、パトリックは一旦、南に飛びんでガナッシュの孫達をウィリアムに預け、その後、北に向かった。
たどり着いた先は、アボット辺境伯家。
応接室のソファに座るパトリックと、アボット辺境伯家の人々。
「では、母上はワイリー子爵家の兵に護衛されて、北に向かっていると?」
と、ライアンの妻であるクロージアが尋ねる。
「ええ、空からお連れすると言ったのですが、頑なに拒否されましてね」
と、パトリックが言うと、
「気持ちは分かる」
と、アボット辺境伯が言う。
「良い眺めなんだけどなぁ」
と答えたパトリックに、
「そりゃ、辺境伯だけかと」
と、ライアンが言うと、
「いや、ソナもだいたい一緒に空の散歩するぞ」
と、ライアンを見てパトリックが自分だけでは無いと否定した。
「似た者夫婦って事で」
と、ライアンが少し呆れ気味で言った。
「まぁいいけど、無事助け出したことだし、約束は履行してもらうぞ」
とパトリックは、アボット辺境伯を見て言う。
「勿論! 兵を王都へ向け進軍させます。到着してからは、アンドレッティ家の指揮下に入ります」
アボット辺境伯は、パトリックの目を見てそう言った。
「よろしく頼む。私は一旦領地に戻るから」
パトリックが席を立つと、
「では!」
と、アボット辺境伯も席を立つ。
「ああ、王都で会おう! 見送りは不要だ」
パトリックはそう言って、アボット辺境伯、それにライアンと握手してから、応接室を出て行く。
パトリックは西へ向かって、プーの背に乗り去っていく。
その様子を応接室の窓から見ていた、ライアンとアボット辺境伯。
「父上」
ライアンが西の空に羽ばたく、漆黒の翼竜を見つめながら口を開く。
「なんだ? ライアン」
と、同じく空の翼竜を見ているアボット辺境伯が、息子の問いかけに、問いで応える。
「同盟組んでいて、正解でしたね」
「当たり前だ! あんなのと敵対したら、死以外無い! 謀反するなど、正気と思えん!」
「ですね」
「さて、私は王都に向かう。ライアンはここで領地の方を頼むぞ」
「私の方が兵力になりますが?」
「お前はアボット家の、跡取りだ。死地に向かわせるわけにはいかん!」
「父上! まさか死ぬ気ではありませんでしょうな!」
「勿論死ぬ気はない! が、戦とは何が起こるか分からないモノだ。ましてや王家のゴタゴタだ。そこでの動きは家の格に響く! 無様な動きで生き延びるより、命を賭けた動きで、孫のマルクが少しでも楽になれるようにしてやりたい」
ソファに座る息子の妻、クロージアの腕の中で、スヤスヤ眠る孫に視線を移して、アボット辺境伯が言った。
「生き延びて、マルクに父上の顔の記憶を残して貰いたいのです」
と、ライアンは父親の顔を真っ直ぐ見つめる。
「案ずるな! スネークス辺境伯も来る! 生きて帰るさ。では準備するとしよう」
そう言って歩き出す父の背中を、ライアンは見つめて、
「どうかご無事で」
と、呟いた。