敵陣中央は、かなりの火の手に包まれていた。
パトリックは、残った油を1番大きなテントに向けて投げかけて、マッチを投げつけその場を離れた。
「戻ったぞ」
その一言だったのだが、待っていた三人は体を跳ねあげたようにして、驚いた。
「少尉、頼みますから、味方に近づくときは、足音大きめでお願いしますよ〜」
ミルコが申し訳なさそうに言う。
「いや、火の手も上がってるし、大騒ぎしてるから、そろそろ戻ってくるって分かれよ!」
「そう思って待ってたんですけどねぇ」
コルトンまで、この言い草だ。
「で? 首尾は?」
「バッチリさ。鎧替えて逃げるぞ」
急いで革鎧を替え、走竜に乗ると、森の中に入っていく。
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「燃えたテントはいくつだ?」
先鋒隊を指揮していた男が部下に聞く。
「は、20ほど焼かれました。何より、食料を保管していたテントは、軒並みやられました」
部下が答える。
「馬鹿者! 兵は何をしていたっ! これでは明日以降戦えんではないかっ!」
ツバを飛ばしながら怒鳴る指揮官。
しかし、この指揮官も人の事は言えないのだ。
1番大きなテントの中で寝ていたため、火のまわりに気がつくのが遅れ、右腕に大火傷を負っているのだから。
(兵が戦っているのに、呑気に寝てるから火傷するんだよ!)
と、心の中で叫んだ部下は、
「申し訳ございません、しかし、兵達は怪しい者は見てないと言っておりまして」
と、言った。
「明らかに敵の放火だろうが! これだけのテントが、自然に燃えるはずがないだろうがっ!」
当たり前である。
「それはそうなのですが、誰に聞いても、変な者はいなかったと」
「ええぃ、無能どもがっ! とりあえず本隊に伝令を出せ!」
「は! 直ちに!」