数時間後、西の砦はやっと混乱が収まった。

原因はスネークス中将の使役するワイバーン二匹。

「ワイバーンを使役とか、もう何を言っていいのかすら分からん」

パウター少将は呆れ気味で言う。

「ですな、アレが野生のワイバーンだったら、大被害でしょうけど、中将も周りの事を考えて行動してほしいものです」

と、副官が答えると、

「お前、それスネークス中将に言えるか?」

「無理に決まってるでしょう‼︎ 怖い事言わないで下さいよ少将」

「だよなぁ……足に掴まれて連れて来られた2人に同情するな」

「中将の騎士と、奥方の侍女だとか。とんでもない主人を持つと苦労しますな」

「お前、それ聞かれたら奴の二の舞になるぞ? あと奥方は陛下の三女だった方だ。どちらにも頭上がらんから気をつけろ」

「口は災いの元ですな。気をつけます」

「とりあえず、周辺地域には伝えておけ、毎回視察で騒ぎになっては堪らん」

「承知しました。ですが、野生と見分ける目印とかが欲しいですな、野生が来ないと言う確証はありませんし」

「それくらいなら何とか言えるか、ワシから進言しておく」

「お願いします、で、とうの中将は今どちらに?」

「高見台だ」

「ああ、やっと降りれるんですね」

「ヤツの長い任務もようやく終わりか、休暇をやらんとな」

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「よう! 久しぶりだな。えっと名前なんだっけ?」

パトリックが足を高見台に固定された、とある男に尋ねると、

「クスナッツであります閣下」

と、とある男こと、クスナッツが答えた。

「うむ、ではクスナッツよ、充分反省したかな? 一応お前の素性は調査させてもらった。王都のスラムのボスだったらしいな。スラムを無くした張本人の俺に、かなりの恨みでもあったのかもしれんが、俺を殺してもスラムは復活しないぞ?」

「閣下を殺すなど滅相もございません。閣下の御顔を知らず、単に貴族の若者をからかおうとしただけで、他意はございません! 心からお詫びを」

クスナッツが土下座して詫びる。

「そうか、ならば鍵を渡してやるが、1つ選択肢をやろう。このままこの砦で働くか、我が屋敷の見張り番として、スネークス本家で働くか選ばせてやろう」

「え⁉︎」

突然の勧誘に驚愕の顔をするクスナッツ。

「ワイバーンに俺が乗って来た時、必死で鐘を鳴らしてたらしいな。自分が食われるかもしれんのに。その任務に対する姿勢を買っての話だ。俺が帰るまでに決めろ。では俺は視察に戻る。とりあえず一晩ベッドで寝て考えろ」

そう言い放ち、パトリックはその場を去る。

クスナッツは渡された鍵を持ったまま、呆然とパトリックの背中を見つめていた。