パトリック達はスネークス領に戻って来た。
「お館様〜おかえりなさいませ〜」
屋敷の見張り台の上から声が聞こえる。
見上げたパトリックの眼に映るのは、スネークス辺境伯家の兵装姿のクスナッツ。
「おう! なかなか似合うじゃないかクスナッツ。しっかり見張れよ!」
パトリックが叫ぶと、
「勿論でございます〜!」
と敬礼しながらクスナッツが答えた。
「サボったらまた固定するからな!」
と悪い笑みを浮かべてパトリックが言うと即座に、
「それは勘弁してくだせぇ〜!」
クスナッツの悲壮な叫びに、手をあげて返事したパトリックは屋敷の中に入る。
屋敷に入って執事のサンティノにダークエルフ2人を雇う事を伝えると、
「雇うのは構いませんが、その意図は?」
と聞かれ、
「ウチ、エルフや獣人は雇ってるけど、ダークエルフはいないだろ?」
「はい。そもそも少数民族ですので」
「ウチは人種差別はしないとアピールするのに良いじゃないか。実力主義のスネークスと、良い宣伝になる」
「まあ確かに」
「あと、あの森でほっておくと、確実に軍務の邪魔になるからな。あそこは水場もあるし、潜むのに最適だ」
「なるほど。で、仕事はメイドと掃除係でよろしいのでしょうか?」
「別になんでもいいが、やれる事を聞き取りしてから仕事を振ってくれ。その辺は任せる」
「承知致しました」
サンティノが頭を下げる。
その後、執務室に向かおうとすると、いきなり全身に巻きつく柔らかいスベスベした鱗。
「お、ぴーちゃんただいま! って、ちょい待ち! どこ連れてくの⁉︎」
巻きつかれたまま拉致されるパトリック。
廊下に響くパトリックの声に、使用人たちの顔には、苦笑いが浮かぶ。
連れて行かれた先には大量の卵。
「あ、もしかしてそろそろ?」
ぴーちゃんに尋ねると、激しく頭を縦に振るぴーちゃん。
「おい!誰かいるか?」
パトリックが声を上げると、
「はい! お館様。何か?」
と、パトリックの使役獣の世話係が走ってくる。
以前、クスナッツにぴーちゃんを見せた男だ。
名をガルスという、ゴリマッチョなスキンヘッドの悪人顔だ。
「卵から産まれそうだから、大量に肉持ってこい! 適度な大きさに切ってな!」
「了解致しました〜!」
ガルスが慌てて走り去る。
その後、コマ切れ肉を大量に持ってきたガルスを労い、卵を見つめるパトリック。
卵1つに切れ目が入ると、次々と切れ目が入りだす。殻からニョキっと出てくる小さなワニ、もとい水竜の可愛いこと。
だがまあ、産まれるわ産まれるわウジャウジャと。
灰色の鱗を纏った黒い眼をした水竜達がワラワラ歩き出す。
唯一その中で見分けがつく水竜が1匹。
ほんのり黄色いクリーム色と表現すべき鱗を纏い、紅い眼をした、1匹の水竜。
「アルビノってやつか、この子だけ見分けつくな、よし! お前はポーちゃんだ!」
40センチくらいのワニ、もとい水竜を持ち上げて頭を撫でながら肉をあげるパトリック。
もちろん他の水竜にも餌をあげているが、ポーと名付けた水竜にだけ餌が多めなのは気のせいだろうか?
以後、水竜達はパトリックが見分けがつくようになるまでの暫くの間、ポーの兄弟と呼ばれる事になる。