ギブス侯爵の話は続いた。
「長男の息子で、我が家を受け継ぐ大事な孫だ。言う事を聞けば無傷で返すと言われたが、マクレーンが勝つ見込みなど無い! スネークス家を敵にして勝てる訳がない! そんな事もわからぬ王子に協力できるか! 頼む! パトリック殿に繋いでくれ! 今の私
は王都から出るところを、マクレーン側の間者にでも見られたら、いや絶対に門で監視しているはずだ。間違いなく裏切りと取られる!」
そう言ったギブス侯爵の瞳に、マクレーン第3王子への、怒りの炎が見えたような錯覚を覚えたモルダー。
「マクレーン第3王子の命令は?」
モルダーが静かに尋ねると、
「協力しないなら静観しろと。うちは宮廷貴族だし、兵など居ないからな。武の数には入っておらんのだろう」
ギブス侯爵が力無く声をだす。
宮廷貴族は、守る領地が無いので、屋敷の警備兵ぐらいしか、兵力の保有が認められていない。
「なるほど、お孫さんの居る場所はお分かりですか? それとお孫さんの名前は?」
と、モルダーが聞くと、
「ガナッシュの領地の屋敷だ。孫の名は、ケント。ケント・ギブスだ」
と、即答したギブス侯爵。
「いいでしょう。うちのお館様に連絡します。で、アリシア第3王妃の居場所は?」
「東のキュリアル男爵家の屋敷だ。ガナッシュのやつの末娘が嫁いでる家だ」
「ああ、あの有名なギラギラ娘ですか」
と、モルダーの顔に嫌悪感が見てとれた。
「モルダーにも、一時期、嫁にと話が上がっていたよな?」
「ええ、好みではなかったし、あの宝石だらけのファッションにはついていけないので、断りましたけどね」
「金使いが荒いのは、昔から有名だったからな」
「あの女の話はいいでしょう! では、すぐにお館さまに連絡をいれますので、返事があり次第、内密に連絡差し上げます」
「頼む!」
そう言ってカウンターの上にあるグラスを掴み、一気に酒を飲み込んで、席を立って帰っていくギブス侯爵。
ギブス侯爵の背を見送ったモルダーが、
「さて、聞いてたな?」
と、店の奥に声をかけた。
「はい」
と、奥から1人の男が姿を現した。
「ニック、すぐにお館様に知らせてこい!」
モルダーの声が少し大きくなった。
「アイン様に報告は?」
ニックと呼ばれた男が、モルダーに尋ねると、
「そちらは別に報告する者を走らせる。とにかくお前は1秒でも早くお館様に報告を!」
モルダーの声の強さに、ニックは、
「すぐ走ります!」
と、真剣な顔をして言い、すぐに店の扉に向かう。
「頼むぞ!」
モルダーの声を背に、
「はっ!」
と、振り向かずに答えて、ニックが走り出した。