無事古龍の獣魔登録を終えた一行は、アントガルの工房へと向かうことにした。職人街エリアまでいくと、作業をする音が各工房から聞こえてくる。それはアントガルの工房も例に漏れなかった。

「よかった、作業は続けてるみたいだな。もう自信は取り戻せたようだ」

「ソータさんの刀を作ったことで、一つ壁を乗り越えた感じかもしれませんね」

二人はアントガルとのやり取りを思いだし、感慨深そうな表情で工房を見ていた。

「その刀を作った人なんだ……会うの楽しみだね!」

レイラは自分の槍以上の力を秘めている蒼太の刀には以前から密かに注目していたため、その作者と聞いて目を輝かせていた。

「さて、時間を作れるといいが……アントガル、入るぞ!」

蒼太は大きめの声で呼びかけると返答を待たずに工房へと入っていく。

「えっ? 勝手に入っていいんですか?」

「大丈夫ですよ、さあ入りましょう」

「ちょ、えっ、ちょっとディーナさんまで」

蒼太が何も気にせず入っていくことに驚いたレイラは慌てて声をかけるが、ディーナに背中を押され抵抗むなしくそのまま工房へと足を踏み入れることになった。

エドとアトラと古龍の人外組は中へは入らず外で待機することにしていた。

カーンカーンというハンマーの小気味いい音が作業場から聞こえてくる。

「さすがに、作業の最中はまずいか……こっちで待たせてもらおう」

蒼太たちはリビングへと移動して待機することにした。

勝手知ったる他人の家。それぞれが席につくと、蒼太は亜空庫から飲み物を取り出しそれぞれの前へと出す。そうしてしばらくお茶を飲んでくつろいでいると、ハンマーの音が止みアントガルが引き上げてきた。

「よう、返事がなかったから勝手に上がらせてもらってたぞ」

「……おぉ、あんたたちか。人数が増えたみたいだが、元気そうでよかったよ」

アントガルは休憩のためにリビングに戻ってきたところで蒼太たちがいることに一瞬驚いたが、すんなりとその状況を受け入れているようだった。

「アントガルも順調そうじゃないか。さっきもいい音を出してたぞ」

「お、おう。ありがとうな、面と向かって言われるとなんか照れるな……そうだ、前にもらったナイフ覚えてるか?」

アントガルは質問を投げかけると、蒼太の返事を待たずに踵を返して作業場へと戻っていってしまう。

「あっ……まあ、いいか」

返事をしようとした蒼太は肩透かしをくらってしまった。

ほどなくして、アントガルは作業場から二つの箱を手にして戻ってくる。

「悪い、待たせた!」

駆け足で戻ってきた彼はテーブルの上にそれらを置き、一つの蓋を開ける。

「これがあんたが俺にくれたナイフだ」

「あぁ、覚えてるよ」

蒼太の返事に満足そうに頷いた彼は、今度はもう一つの箱の蓋を開けた。

「じゃあ、今度はこっちを見てくれ」

箱の中には、一本のナイフがしまわれていた。

「ほう、これはなかなかのものだな」

ナイフを手にとると蒼太は目を細めて細部まで確認していく。その様子をアントガルは見てみろと自信満々の顔をしていたが、内心ではドキドキしており、心臓も早鐘を打っていた。

「ど、どうだ?」

その緊張は言葉にも表れていた。

「うん、いいできだな。俺の作ったやつより刃の部分が鋭く作られている。それに加えて、細かい装飾もなされているな」

「そ、そうか! いや、ここまでのものを作るのに結構苦労したんだ、ただ刃を薄くするだけじゃ強度がもたんからな! だが、少量の竜鉄を混ぜることで限界まで刃を薄くしても強度を保つことができたんだ! 装飾は悩んだ、俺はデザインセンスがないからなあ、それで知り合いの彫金士に頼んでデザインをやってもらったんだ、最初はやつも渋っていたんだがあんたの作ったナイフを見せて、それを越えるものを作りたいと話したらあいつも頷いてくれてな!」

蒼太に褒められたことでアントガルは大きく目を開いて、頬をやや紅潮させ興奮し次々にまくし立てていく。

「わ、わかった! わかったから少し落ち着いてくれ。そう一気に言われてもわかるものもわからなくなるだろ」

アントガルはまだまだ話そうとしていたが、蒼太に止められ冷静さを取り戻す。

「す、すまん。つい、な」

彼は額に浮かんだ汗を拭いながら頭を下げる。

「だがまあ、腕も発想力も鈍っていないようで安心したよ。これなら俺たちの装備を依頼できそうだ」

蒼太はここにきて、やっと本題を口にすることができた。

「装備? あぁ、言っていたな、次に来る時は装備が必要になる時かもとかなんとかって」

アントガルは自分のナイフが認められた余韻に浸っていたかったが、装備と聞いて以前の言葉を思い出していた。

「あぁ、俺たち全員……外で待たせているやつらも含めて全部で6人分の防具と、それぞれに武器を用意したい。俺はメインが夜月になるから、サブの武器を作ってもらいたい。ディーナは、そうだな……アンダインと銀弓の強化を図りたいところだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、今メモを用意する」

蒼太がそれぞれの装備について話し始めたところで、アントガルは慌てて棚からメモ用紙を取り出した。

「続けるぞ、レイラは現在槍を使っている。そちらもサブ武器が欲しいところだ。外にいるのは竜と狼と馬なんだが、あいつらの武器と防具も用意したい。素材は俺持ちで構わない、費用も言い値で払おう」

「……ふむ、とりあえずあんたら三人と外にいるやつらのサイズを測りたい。それと各人の要望をもっと細かく聞かせてもらえるか?」

そう言ったアントガルの顔は職人のそれになっていた。その表情の変化に蒼太は満足そうににやりと笑みを浮かべ頷いた。

「それと、竜と狼だが身体のサイズが変わるからそれにあわせて変化できる装備が望ましい」

今度はその言葉を挑戦状と受け取ったアントガルがにやりと笑う番だった。