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Lesson 59: Corridors in the Sky •

その瞬間、彼は特殊スキルを使えるようになった。

『創世のアクリア』にログインしたことによって、特殊スキルを会得した紘は、自らが使えるようになった未知の力をすぐに理解した。

曖昧だった結果に与えられる具体的な事象。

違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った理念。

不可解で不自然な現象。

それらは全て、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。

その不可解な力を仮想世界で得た紘は、すぐに現実世界でも利用することにした。

「この力を使えば、世界の真理にたどり着けるかもしれない」

その行動理念の赴くまま、紘はあらゆる領域に一方的に干渉していった。

過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力。

紘はその便利な力を使い、途方もない量の情報を手に入れ、処理する。

自身が想い描いた未来の中で、ひときわ鮮明に輝く未来だけを選択して世界を改変していった。

特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。

全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。

その言葉どおり、紘は仮想世界だけではなく、現実世界でも神のごとき振る舞いをほしいままにした。

だが、当時の紘は、自身が手に入れた未知の力を解明することに夢中で、愛梨に迫っていた未来に目を向けていなかった。

半年前ーー。

愛梨が死んだのは、愛梨の両親の離婚が原因だった。

だからこそ、半年前のあの出来事を、紘はいつまでも忘れられない。

徹が呼ばれ、紘が待ち望んでいた愛梨の誕生日は、悔やんでも悔やみきれない日になってしまった。

あの時、両親の離婚を止めることが出来ていたらーー。

この力をもっと早く使いこなして、愛梨を守ることが出来ていたらーー。

愛梨は、両親の言い争いに巻き込まれて死ぬことはなかったかもしれない。

否応なしに思い出す半年前の苦い記憶を振り切って、紘は最上階にあるギルドマスターの部屋に向かう。

愛梨の死をなかったことにするには、私の特殊スキルだけでは叶わなかった。

だが、蜜風望の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを用いたことで、それを実現することができたーー。

紘が部屋に入り、デスクに座ると、幾つものインターフェースホログラフィーが目の前に表示された。

紘の下には望達に限らず、逐一情報が入ってくる。

それらを選別し、必要な情報のみを収集している途中で、徹から連絡が入った。

『紘。『レギオン』側に動きがあった。紘が告げたとおり、愛梨と美羅のシンクロを狙ってきたみたいだな』

「徹。予定どおり、『カーラ』のギルドマスターを妨害してほしい。そうすれば、『レギオン』の企みは無に帰することになる」

『分かった』

紘は通信を切り、神妙な面持ちでホログラフィーを眺める。

「特殊スキルの力に目を付けて、私欲のために利用しようとしている連中がいる」

激情と悲哀、様々な感情が渦巻く無窮の瞳で、紘は選び取った未来を垣間見た。

「なら、私はこの力を用いて、愛梨が幸せになれる未来を選んでいくだけだ」

それは、紘が徹に語っていた夢を芽吹かせた瞬間でもあった。