With my brother and sister. VRMMO games.
Episode 60: Thank You for Being Born ①
「よーし、行くよ!」
裂帛の咆哮とともに、花音は力強く地面を蹴り上げた。
花音の鞭には、奏良の弾丸と同様に、風の魔術による武器への付与効果と愛梨の特殊スキルが施されている。
特殊スキルの使い手を狙う、二大高位ギルドに囲まれた状態。
ニコットを退(しりの)けたとはいえ、有達を取り巻く状況は何も変わっていない。
有達は、二つの高位ギルドに囲まれているという絶望的な状況を打破するために賭けに出た。
それは、骨竜を速やかに倒して、徹を始めとする『アルティメット・ハーヴェスト』の行動を円滑に 回すことによって、『レギオン』と『カーラ』、二大高位ギルドの猛攻に対抗していくというものだ。
「愛梨ちゃんに手出しはさせないよ!」
「うわっ!」
「くっ!」
率先して先手を打った花音は身を翻しながら、鞭を振るい、『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄する。
風の魔術による付与効果、そして、愛梨の特殊スキルの効果の影響で、鞭は舞い踊るように色鮮やかな彩を示す珠を生み出しながら技を繰り出す。
だが、相手は高位ギルドのプレイヤー達だ。
容易く攻撃を喰らってはくれない。
『カーラ』のギルドメンバー達は、花音が振るった鞭を身体を反らし紙一重でかわした。
「あっ……」
完全に虚を突いたはずの攻撃を避けられて、花音は唖然とする。
「今だ!」
その隙を突いて、『カーラ』のギルドメンバー達のあらゆる属性の遠距離攻撃が花音を襲った。
投げナイフ、鎖鎌、ダガー、弓、魔術、召喚されたモンスターの咆哮。
全てを確認することが、不可能なほどの攻撃が一斉に花音に殺到する。
しかし、鞭から生み出された珠は、全て輝線で繋がり、それらの攻撃から花音を護った。
「何だ、これは?」
「攻撃が吸い込まれ……っ!」
「私の召喚したモンスターが……」
花音達を中心に描かれた光の多角形。
風の属性を内包した珠状の光盾は、『カーラ』のギルドメンバー達が繰り出した攻撃、召喚したモンスター達全てを吸収していく。
「愛梨ちゃんの特殊スキル、すごーい!!」
まさに絶対防壁と言わんばかりの光景に、花音は両手を広げて喜び勇んだ。
その隙に、骨竜の射程距離へと入った奏良は、弾丸を素早くリロードする。
「奏良よ、頼む」
「言われるまでもない」
有の指示に、骨竜から距離を取った奏良は銃を構えた。
発砲音とともに、奏良の放った弾丸が骨竜へと向かう。
「喰らえ!」
奏良の風の魔術による武器への付与、そして愛梨の特殊スキルが込められた弾は、光龍と相対していた骨竜を貫通する。
その弾は彗星の如く、虹を纏う光芒と化す。
絶え間なく弾丸が放たれるその光景は、まさに流星群のような輝きを見せる。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
奏良が放つ流星の弾を前に、骨竜は為す術もない。
やがて、骨竜は、閃光に塗り潰されて、断末魔を上げながらこの世界から消えていった。
「なるほど。椎音愛梨の特殊スキル、侮れませんね」
「ーーよしっ!」
一方、有達の下へと向かっていた徹は、紘に指示されていた相手によって、行く手を阻まれていた。
目の前で巻き起こる想定どおりの結果に、拳を突き上げた徹は安堵の表情を浮かべる。
「骨竜に、光の魔術の付与を再び、施させるわけにはいかなかったからな」
「そうですね。それを行わなかったのは、私の不手際です」
徹の訴えに、かなめはあっさりと自分の非を認めた。
「戦闘中は、ご挨拶をすることは叶いませんでした。ですので、改めて名乗りを上げます。私は『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめです」
「愛梨を狙う、高位ギルド『レギオン』の傘下のギルドマスター様に名乗るつもりはないからな」
かなめが祈りを捧げるように両手を絡ませると、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
見え透いた挑発に、かなめは目を伏せると静かにこう続けた。
「誤解があるようですね。私達は、女神様による世界の安寧のために、特殊スキルの使い手を欲しています」
「……世界の安寧というより、美羅のご加護が本当の目的だろう」
かなめの戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「否定はしません。ですが、女神様のご加護なしではーー」
「とにかく、愛梨も紘も、そして蜜風望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
かなめの言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえ達が言う美羅様は、愛梨の紛い物だろう!」
「……紛い物」
徹の答えを聞いて、かなめは失望した表情を作った。
高位ギルド『レギオン』は、愛梨のデータの集合体である美羅の覚醒を企む不気味な集団である。
データの集合体である美羅の覚醒そのものが、実際にはあり得ない出来事だ。
しかし、望が愛梨としても生きるようになったことで、『レギオン』は先程、一時的に愛梨のデータの集合体である美羅を動かすという離れ技を実行してみせた。
賢の報告を思い返して、かなめは憐憫の眼差しを徹に向ける。
「まるで美羅様は、特殊スキルの使い手である椎音愛梨を元にした『データの残滓』とでも言いたげですね」
「そのとおりだろう!」
そう言い放った徹をまっすぐに射貫くと、かなめは静かな声音で真実を告げる。
「鶫原徹。あなたは愚かなことを口にしています。美羅様は、椎音愛梨の紛い物などではありません。その証拠に、私達はかって、美羅様のご加護によって、神のごとき力を授かりました」
「ーーっ!」
その瞬間、徹は凍りついたように動きを止める。
彼女の発した衝撃的な言葉は、緊迫したその場の空気ごと全てをさらっていった。