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Lesson 84: The Goddess of Salvation and the Melted World of the Stars ②

「美羅様、どうかお目覚め下さい」

立ち上がった賢は再び、眠り続けてしまった銀髪の姫君を愛おしそうに抱き寄せようとした。

だが、望とのシンクロが途切れた美羅に触れることは叶わず、彼の手はすり抜けてしまう。

「蜜風望」

賢はゆっくりとした動作で、今度は望に手を差し出してくる。

「美羅様の真なる覚醒には、君の力が必要だ」

「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」

賢の訴えに、剣を構えた望はきっぱりと答えた。

「……愚かな」

望の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。

「恐れる必要はありません」

凛とした声が、室内に響き渡った。

前に進み出たかなめは、無感動に望を見つめる。

「蜜風望。あなたも、『明晰夢』の中で、理想の世界を垣間見たはずです」

かなめは両手を広げて、静かな声音で告げた。

「あなたが女神様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導くことができるのです。これからあなたがおこなう功績は、未来永劫、称えられるでしょう」

「望くんは渡さないよ! 望くんは、私達の大切な仲間だもの!」

かなめの誘いを、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。

「ああ。望は、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかない」

「愛梨を守ることが僕の役目だ」

強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。

「マスターを、あなた方に渡すわけにはいきません!」

「そんなことさせるかよ!」

プラネットと徹も、かなめの申し出を拒む。

望はそんな有達に苦笑すると、ため息とともにこう切り出した。

「悪いけれど、俺は協力するつもりはないからな」

「敢えて、無益な争いを好むか」

望達の否定的な意見を、賢は予測していたように作業じみたため息を吐いた。

「蜜風望。あなたは愚かなことを口にしています。シンクロは、あなた方と美羅様を繋ぐ希望です。未来の趨勢(すうせい)は、あなたの手にかかってーー」

「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」

かなめの説得を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。

望は万感の思いを込めて、蒼の剣の切っ先を賢達に向ける。

「そもそも、理想の世界は一時的なものだろう!」

「……浅はかな」

望の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。

「蜜風望。あなたの言うとおり、いずれ、寿命が来ることで、女神様による理想の世界は失われるでしょう」

「ーーっ」

望が剣呑の眼差しを返すと、かなめは祈りを捧げるように指を絡ませる。

「ですが、女神様は、神にも等しい叡知を宿した存在。あなたの言う寿命そのものがないのです」

「寿命がない?」

望の戸惑いに、かなめは懐かしむように沈痛な面持ちを浮かべる。

まるで明晰夢そのものに答えがあるような立ち振る舞いに、望の思考は一つの推論を導いた。

愛梨のデータの集合体である美羅は、望達とシンクロすることで、その力を引き出すことができる。

美羅の特殊スキルーー。

それは、全ての人々に神託というご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力だ。

そして、それが未来永劫、おこなわれる現象だと過程するのなら、それはつまりーー。

「蜜風望、そして椎音愛梨。女神様のために、その全てを捧げなさい。あなた方の意思は、未来永劫、女神様の意思へと引き継がれていくのですから」

「……っ」

望の疑問に答えるように、かなめは厳かに、だが明らかに不可解なことを告げた。

望達の理解が及ばない言葉。

だが、問題はそれではない。

もっと根本的な疑問をぶつける必要がある。

「それって、どういう意味なんだ?」

「君が日々、美羅様とシンクロを続ける限り、君達は永遠に歳を取ることもなく、死ぬこともない」

望の疑問に、賢は恍惚とした表情で天井を見上げながら、己の夢を物語る。

「そして、明晰夢を使える私達も、君達と同じように不老不死となり、永遠に生き続けることができる」

「ーーなっ!」

あまりにも残酷な事実を突きつけられていたことに気づいた望は驚愕する。

『レギオン』のギルドマスターである美羅。

彼女はいずれ、『レギオン』の作る未来の象徴になる存在だった。

彼女のご加護の下、全ての人々が穏やかな平和を享受できる理想の世界。

しかし、それは言い換えれば、『レギオン』と『カーラ』が全ての実権を握る世界でもあった。

そこで、有が核心に迫る疑問を口にした。

「だが、望と美羅がシンクロをおこなったところで、望自身が協力しなくては意味を為さないはずだ。根本的に辻褄が合わないぞ」

「ーーっ」

有の鋭い指摘に目を見張り、息を呑んだ望は明確に言葉に詰まる。

敵である俺達と同じ言動を引き起こさせても、美羅は味方とはいえない。

たとえ、座標をずらしても、美羅の言動までは変えることができないはずだ。

それなのに何故、『レギオン』と『カーラ』は、俺達と美羅を繋げようとするんだろう。

望の思考を読み取ったように、賢は静かに告げる。

「それについても問題はない。メルサの森の戦闘で、君達の特殊スキルのプロセスはほぼ解析済みだからな」

「解析済み? まさかーー」

賢のその反応に、望は忌々しさを隠さずにつぶやいた。

「ああ。メルサの森の戦闘で、私達がほとんど動かなかったのには理由がある。ニコットのシンクロを用いて、君達のことをいろいろと調べさせてもらった。蜜風望、そして椎音愛梨。どちらをベースにしても、美羅様を動かすことができる」

長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。

メルサの森でおこなわれた戦闘は、全て『レギオン』によって仕組まれたものだった。

あまりにも冷酷な事実に、花音と奏良は思わず感情を爆発させた。

「望くんと愛梨ちゃんに酷いことしないで!」

「あの時、望と愛梨を苦しめていたのは、貴様の仕業だったのか!」

「彼らに無礼を働いたことは謝罪しよう」

花音と奏良の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。

「だが、これは必要な事項だ」

花音と奏良の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。

「シルフィ。電磁波の妨害、このまま頼むな」

「うん」

不可解な空気に侵される中、徹は自身の周りを浮遊するシルフィに改めて、これからのことを指示する。

「とにかく、ここからが正念場だな」

徹は一呼吸置くと、賢達を油断なく見つめたのだった。