With my brother and sister. VRMMO games.
Lesson 143 Unfinished Etoile ③
望達は準備を整えた後、有の両親にギルドを託してカウンターに集まった。
「望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ! 王都『アルティス』へ!」
「ああ」
「うん!」
「はい」
有の決意表明に、望と花音、そしてプラネットが嬉しそうに言う。
望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。
望達が気づいた時には視界が切り替わり、王都『アルティス』の城下町の門前にいた。
王都、『アルティス』の城下町。
そこは、望達のギルドがある湖畔の街、マスカットより、はるかに大きな都だった。
煉瓦造りの建物が並び、中央の大通りを馬車が進んでいく。
望が視線を向けた先には、警備が牽かれた厳格な門と美しき白亜の塔が見渡せる。
王都にそびえる白亜の塔ーーそれが『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームだった。
五大都市の一つであり、ログインしている高位ギルド『アルティメット・ハーヴェスト』の拠点の街でもあるためか、プロトタイプ版でも大勢の人で賑わい、プレイヤー達の行き来も激しかった。
望達は、王都『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、必要なものを揃えていく。
「転送アイテム自体も高いが、転送アイテムを生成するための素材も高いな。転送石を購入したことで、ギルドの予算は少なくなっている。一つ作るのが精一杯か」
転送アイテムは、お店では高額で取り引きされている。
有はそれより安く見積れるようにと、必要な素材を購入して、新たに転送アイテムを一つ生成した。
オリジナル版で、手に入った転送アイテムが残っているとはいえ、五大都市まで赴かなくては転送アイテムの素材が全て揃うことはないからだ。
煉瓦造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。
「ねえ、お兄ちゃん。今回は買い物をした後、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに行くんだよね?」
「その通りだ、妹よ。今回は馬車に乗って、ギルドホームに向かうつもりだ」
花音の疑問に、有は少し逡巡してから答えた。
その予想外な発言に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。
「お兄ちゃん、馬車に乗るの? なら、馬車に乗ったまま、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームの中に入れるのかな?」
「今回は、クエスト紹介の件と、リノアを救うための方法を提示する重要な案件だ。恐らく、入ることができるだろう」
花音が興味津々の表情で尋ねると、有はきっぱりと答える。
やがて、中央の大通りを馬車が進んでいく姿を見留めると、花音はずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。
「でも、お兄ちゃん。ギルドホームまで、馬車に乗ったら、どのくらいのポイントを消費するのかな?」
「心配するな、妹よ。今回は、『アルティメット・ハーヴェスト』が無償で馬車を手配してくれているからな」
花音が戸惑ったように訊くと、有は意味ありげに表情を緩ませた。
「そうなんだな。だけど、馬車に乗った場合でも、検問はありそうだな」
インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。
望達は準備を終えると早速、冒険者ギルドに立ち寄り、馬車に乗ることにした。
クエストを受注したり、馬車を手配するためには、基本、自身のギルドか、冒険者ギルドで行う必要がある。
「『キャスケット』のギルドマスター、西村有だ。椎音紘と今後のことで話をしたいため、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに行きたい」
「『キャスケット』の皆様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
「ああ」
有が宣言すると、NPCの受付は丁重に頭を下げた。
「ギルドホームまで馬車に乗るのか」
「わーい! 今回は、街中で馬車に乗れるよ!」
「街中で、馬車とか目立ちすぎるな」
望が緊張した面持ちで告げると、花音は歓声を上げて、奏良は持っている銃を悲しげに揺らして肩をすくめる。
「こちらが、皆様の馬車になります」
NPCの御者に案内されて、望達は馬車に乗り込んだ。
NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。
そして、望達は目的地の『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームへと向かったのだった。