With my brother and sister. VRMMO games.
Episode 154: Herbarium of Memory (7)
「行け!」
ガーゴイル達による連携飽和攻撃を、徹が呼び出した光龍が迎撃する。
「よし、望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ。塔に異常がないか、調べるぞ!」
杖を手にしたまま、有は周囲に活を入れた。
有の指示の下、望達は塔の外観を細心の注意を払いながら調べていく。
しかし、光龍の包囲網を逃れたガーゴイル達が、望達に対して襲い掛かってきた。
「調査をしながら、ガーゴイル達と戦うのは得策ではない。先に、ガーゴイル達を倒してしまうしかないな」
塔の外観周辺の道筋を見つめていた有は覚悟を決める。
「望、奏良、プラネット、妹よ。塔の調査を行うための活路を切り開いてほしい」
「ああ」
「うん」
「はい」
「調べながら、戦うよりはマシか」
有の方針に、それぞれの武器を構えた望と花音とプラネットが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。
「よーし、一気に行くよ!」
花音は跳躍し、ガーゴイル達へと接近した。
『クロス・リビジョン!』
今まさに望達に襲いかかろうとしていたガーゴイル達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、ガーゴイル達は身動きを封じられた。
「望くん、お願い!」
「ああ!」
花音の合図に、跳躍した望が剣を振るい、ガーゴイル達を木端微塵に打ち砕いた。
だが、さらに三体の影が空中から襲いかかってくるのが見える。
「奏良よ、頼む」
「言われるまでもない」
有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。
発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、ガーゴイル達は次々と落ちていく。
「行きます!」
裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。
「はあっ!」
気迫の篭ったプラネットの声が響き、行く手を遮るガーゴイル達は次々と爆せていく。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のようにガーゴイル達へと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「これでどうだ!」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、ガーゴイル達は消滅した。
「塔の調査に集中できそうだな」
襲い掛かってきたガーゴイル達を全滅させてみせた望達の姿を見て、有は感嘆の吐息を漏らす。
望達は改めて、塔の調査へと乗り出した。
しかし、浮上している点を除いて、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』にはオリジナル版との変化は見当たらない。
「本当に、何も手がかりはないのかな?」
承服できない花音は不満そうに塔を見上げる。
頭上では、光龍とガーゴイル達が激しい戦闘を繰り広げていた。
この塔に来たこと自体が、無意味だったのではないだろうか。
塔を視界に捉えた勇太の胸に、言いようのない不安が去来していた。
「リノア。俺のーー俺達の望みは、おまえが目を覚ますことだ」
「……勇太くん」
勇太の悲痛な願いに、望は蚊が鳴くような声でつぶやいて、自分の袖を強く握りしめる。
もし、俺がリノアのもとを訪れたら、恐らく彼女は目覚めるだろう。
だが、それでもリノアは、俺と同じ言動を繰り返すだけだ。
そこに、彼女の意思は存在しない。
美羅を宿したリノアは、虚ろな生ける屍になっているからだ。
塔の記憶とともに、鮮明に望の脳裏に蘇る。
「ーーっ」
あまりにも唐突な事実を前にして、望は理解が追いつかなくなったように唇を噛みしめた。
勇太くんの望みを叶えたい。
だが、俺が彼女に近づくことで、『レギオン』と『カーラ』の思惑が成立してしまうかもしれない。
それに目覚めたリノアは、勇太くん達が求めている彼女ではない。
二律背反に苛まれ、望は困ったようにため息を吐いた。
太陽の光が煌めく無骨な塔の下、望達の会話は途切れ、静寂の時間が訪れた。
不意に、勇太の脳裏に、あの日のリノアの言葉が蘇る。
『うん、どっか行くね』
あの日ーーリノアの声も感情も、幻想に溶けてしまった。
「……何処にも行かせないからな」
勇太は瞳に強い意思を宿して主張する。
今もあの時も、俺はリノアを救ってあげられない。
俺はいつだって、リノアに救われていたのにーー。
リノアが向かう先はいつだって、俺の手の届かない場所だ。
冷たい風に打たれながら、勇太はそう感じていた。