With my brother and sister. VRMMO games.
(d) Episode 117: The Rondo of Hearts ⑤
「誰もいないな」
「誰もいないね」
先行していた望とリノアが警戒するように、周囲の様子を窺う。
牢獄を抜けた先は、石造りの殺風景なフロアになっており、モンスターや『カーラ』のギルドメンバー達の姿は見受けられない。
「今は『カーラ』のギルドメンバー達はいないようだな。よし、妹よ。ここで一旦、作戦を立てるぞ!」
「うん」
有の指示に、花音は満面の笑顔で頷いた。
「ここは、モンスターが出てこないエリアみたいだな」
「ここは、モンスターが出てこないエリアみたいね」
「ああ」
周囲を窺っていた望とリノアは意外そうに、奏良に水を向ける。
フロアにはモンスターが出ないため、望達の警戒心も薄かった。
「この先は、螺旋階段を上がる必要があるのか。また、トラップが仕掛けられている可能性が高いな」
「そうだな」
「そうだね」
奏良の思慮に、望とリノアは自分と周囲に活を入れるように答える。
「まずは、アイテム生成をする必要があるな」
有はアイテム生成を使い、新たなアイテムを産み出していった。
敵を撹乱させるための氷属性の飛礫アイテム。
トラップ解除用の魔弾アイテム。
『氷の結晶』と複数のアイテムを用いて、次々とアイテムを作成していく。
その様子を眺めていた花音が、興味津々な様子で尋ねた。
「その、氷属性の飛礫アイテム。『カーラ』の人達を牽制することに使えないかな?」
「恐らく、使えるだろうな」
「わーい! 風の魔術による付与もあるから、すごい連携攻撃が出来そうだよ!」
曖昧に言葉を並べる奏良をよそに、花音はぱあっと顔を輝かせる。
「ロビーでの戦闘は、向こうが有利な状況にあるな」
「なら、敵を引き付ける役と、トラップを解除する役にそれぞれ分担した方がいいよな」
「そうだな」
「そうだね」
徹と勇太の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから応える。
『カーラ』が待ち構えているロビー攻略戦は難航する気配を見せていた。
「どうやって対処するかな」
「どうやって対処しようか」
望とリノアが思い悩んでいると、腕を組んだ有はとんでもないことを口にした。
「よし、ならば、俺は敵を引き付ける囮役をやるぞ!」
「お兄ちゃん、私も囮役するー!」
「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップ解除役の方がいいんじゃないのか……!?」
「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップ解除役の方がいいんじゃないの……!?」
有と花音の突拍子のない作戦を聞いて、望とリノアは呆気に取られてしまう。
その指摘に、プラネットは水を得た魚のように前に出て提唱した。
「有様。敵を引き付ける役は、私達にお任せ下さい。囮役の大役、私達が務めてみせます」
「……うむ、仕方ない。プラネットよ、頼む」
「はい」
プラネットの決意に満ちた真剣な眼差しを見て、有は折れた。
「ここまでは、予定どおりだ。このまま、紘の指示どおりに動くしかないな」
「徹様、電磁波の発信源の特定、お任せ下さい」
徹の方針に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。
プラネットは感覚を研ぎ澄まし、『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。
電磁波の発信源を特定することで、かなめ達以外ーーニコット達による妨害がないのか、探ろうと考えたのだ。
「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいんだろうな?」
「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいのかな?」
「氷属性の飛礫アイテム以外にも使える撹乱方法がある」
望とリノアの疑問を受けて、徹は花音と勇太に目配せした。
勇太は即座にインターフェースを使い、ステータスを表示させると、先程覚えたばかりの新たなスキル技を確認する。
「妹よ、どういうことだ?」
「あのね、お兄ちゃん。『クロス・バースト』を使えば、封印の効果で特性そのものを使えなくなるんだよ!」
有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
「花音の天賦のスキル『クロス・バースト』を使えば、『カーラ』が呼び出したモンスター達は封印の効果で、特性そのものを使えなくなる」
「そういえば、鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多かったな」
奏良が事実を如実に語ると、勇太は納得したように首肯する。
「そういう君も、新しいスキルを覚えたんじゃないのか?」
「ああ。突破口を開くきっかけになるのかは分からないけどな」
奏良の指摘に、勇太は切り替えるように表情を引き締めた。