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Episode D 138 And I Love You Until That Day ②

「望、花音!」

「勇太くん」

「わーい、勇太くん!」

ダンジョンを調べていた望と花音は突如、かけられた声に振り返った。

「遅くなってごめんな」

望達のもとに駆け寄ってきた勇太は、居住まいを正すと、改めて遅れた事を謝罪する。

「皆さん、お待たせしてしまって申し訳ありません」

「リノアの容態は大丈夫ですか?」

「はい、未だに目を覚ますことはありませんが、容態は安定しています」

リノアの父親の真摯な対応に、望達もまた、不安そうに尋ねた。

望達の懇意に触れて、勇太は想いを絞り出すように宣言する。

「ああ。だけど、絶対にリノアは守ってみせる! 頼む! いつかリノアを救えるように、これからも望達の力を貸してくれないか!」

「……勇太くん」

思いの丈をぶつけられた望達は、その全てを正面から受け止める。

「ああ、リノアは守ってみせるな」

「勇太くん、頑張ろうね」

望と花音は吹っ切れたように、勇太の申し出を承諾した。

そして、今までダンジョンを調べていた際の成果を伝える。

「……サモナークエストのダンジョン。アイテム生成クエストのダンジョン。探索クエストのダンジョン。最後に、護衛クエストのダンジョンに向かうんだな。今日は、サモナークエストのダンジョンーー『這い寄る水晶帝』とアイテム生成クエストのダンジョンーー『ネメシス』か」

一瞬の静寂の後、勇太は感想をそのまま口に出した。

「『ネメシス』というダンジョンは、どんな場所なんだ? それに、どんなアイテムを生成する必要があるんだ?」

「『ネメシス』は、これから向かう『這い寄る水晶帝』の近くに存在するダンジョンだ。生成する必要があるアイテム名は『ネメシス・アメジスト』。『這い寄る水晶帝』で手に入れることができる素材『アメジスト』、それに『ネメシス』のダンジョンで手に入る素材『ネフローゼ』を合わせることで作ることができる」

勇太の疑問に、有はダンジョンに関する情報を調べながら応える。

「『這い寄る水晶帝』では、そんな素材も手に入るんだな」

「使い魔を呼び出すことが出来るだけじゃないんだね」

有が発した詳報に、望と花音はそれぞれの観点で着目した。

「そういえば、リノアはまだ、二階にいるのか?」

「ああ。俺と同じ言動を繰り返している。今は、有のおばさんが見てくれているはずだ」

勇太の疑問に、望は真剣な眼差しで捕捉する。

その言葉を聞いて、勇太は自身の希望を口にした。

「リノアに会ってきてもいいのか?」

「勇太よ、もちろんだ。ただ、望と一緒に行った方が、ここに連れて来やすいだろうな」

そんな彼の意を汲むように、有は自身の考えを纏める。

「分かった。望、一緒に来てもらえるか?」

「ああ」

「望くん、勇太くん、私もリノアちゃんのところに行きたい」

勇太の誘いに、立ち上がった望は肯定した。

それに花音も付き添い、二階へと上がっていく。

望達が部屋に入ると、リノアは有の母親に支えられながら、ベッドの縁に座って力なく頭を垂れていた。

リノアに近づいた勇太は躊躇うように訊いた。

「リノア、大丈夫なのか?」

「ああ」

「うん」

望の言葉に反応するように、顔を上げたリノアは答える。

目の前にいるのはリノアなのに、まるでどこか得体の知れない相手と対峙しているような気分に襲われた。

望と同じリノアの表情が、どうしようもなくそれを証明する。

それでも、先程までの虚ろな表情とは異なり、リノアは柔らかな笑みを浮かべていた。

「そうか」

リノアの様子に、勇太は表情をこれ以上ないほど綻ばせる。

リノアは、望の側なら動く事が出来る。

同じ言動だが、話す事も出来る。

それは、仮想世界のみの出来事だが、こうしてリノアと話せることに喜びを噛み締めていた。

だが、それでも心配の種は尽きない。

現実世界のリノアは今もまだ、『レギオン』と『カーラ』の関係者がいる病院に囚われたままだからだ。

『私が美羅様になったら、もう勇太くんが知っている『私』じゃない。だから、絶交中でも、最期のお別れを言いたかったの』

勇太は不意に、あの日、リノアが浮かべた寂しげな笑みを思い出す。

リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。

今のリノアは、もう俺の知っているリノアではない。

だけど、今度こそ、リノアを守りたい。

リノアを、あいつらの思い通りには絶対にさせない。

ただそれだけの想いが激しく勇太の心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまった。

「おじさん、おばさん!」

勇太は後方に控えていたリノアの両親に視線を向けると、真剣な眼差しで訴える。

「絶対にリノアを救い出そうな!」

「ああ」

「ええ」

勇太の意気込みに、リノアの両親は決意を込めて応えた。