Woof Woof Story ~I Said I Wanted To Be A Rich Person’s Dog, Not A Fenrir!~

Episode 50: Control complete! If you think so, invasion begins!

「な、ナイトメア、貴様、何故、死霊導師様の元へ戻らない……?」

 最後に残った骸骨が、体を崩壊させながら、厩舎から顔を覗かせるメアに腕を伸ばす。

「ヒヒーン!(ひ、ひええ、死霊導師様って誰ですか! こ、来ないでくださいー!)」

「GARORO!(ふんっ!!)」

 怯えるメアを遮るようにレンが立ち塞がり、骸骨を前足で叩き潰す。

「わふー(あー、そいつは生かしといて、情報聞き出そうと思ってたのに)」

「GARORO(忠誠心の高い兵に尋問など無駄じゃ。万が一聞き出せたとして、敵の情報の真偽を測る方法もない。自分の目で確かめるのが最良じゃ)」

「わんわん(つーても、こいつらがどこから来てるかくらいは知りたかったが……)」

「ガウガウ(王、どうやらこの骸骨ども、東の地からやってきているようです)」

「わふん?(分かるのか?)」

「ガウ(はっ、我ら魔狼族の鼻ならば、痕跡の匂いを遡ってたどり着けるかと)」

 整列した魔狼族たちが、任せろとばかりにひと吠えする。

 みんなほんと頼りになるなぁ。またご褒美期待してて良いんだからね。

「GARORO!(ようし、行くぞぬし様! 諸悪の根源を滅ぼしてくれる!)」

 えー、めんどいー。

 と言いたいところだが、すでにパパさんが騒ぎを聞きつけてるし、今日は酔っ払ってたから良かったものの、明日も大軍で来られたら今度こそ見つかってしまう。

 やるなら今日中に決着をつけねばならないだろう。

「わふー……(しかし死霊導師か……。本に書いてたことが事実だとしたら、それって魔王の幹部のことなんだよな)」

 どう考えても勝てない気がするんだけど。

「GARO(ふっ、魔王の手下ごとき、ぬし様の敵ではないのじゃ)」

「ガウガウ(竜の姫に同意します。ロウタ様に敵はおりません)」

 ううっ、キラキラとした信頼の視線が痛いっ。

 ここにいるのはただの子犬で、中身は元社畜ですよ。

 いったいどこからその信頼が沸いてくるのか。

 俺、お前らの前で良いところとか魅せたことない気がするんだけど。

 つーても、ここでなんとかしないと、どのみち俺のペットライフは終わってしまう。

「わふ……(はぁもう、やりたくないけど、やるしかないか……)」

 俺はただ平穏で怠惰な生活が送りたいだけなのに、どうして次から次へと問題が降りかかってくるのか。

 大体あのポンコツ女神が人の話を聞かないのが悪い。

 今度会ったら、絶対文句言ってやる。

「ガウ!(みな! 王のご出征だ! 隊伍を組め!)」

「「「ガウガウガウ!(王よ! 王よ! 我らを存分にお使いください!)」」」

 二列縦隊になった魔狼たちが、俺を先導するように森へ入っていく。

「ちゅー(飛んでいくと屋敷の連中に見つかるかもしれんな)」

 ネズミの姿になったレンが体を駆け上がって俺の頭に着席する。

「にゃー(じゃあ、ナフラめも失礼してー)」

 ナフラは俺の背中に飛び乗って、箱座りする。

「わふわふ(お前ら、自分で歩くという発想はないのか)」

「ちゅー(さっきまで暴れ回っておったんじゃ。少しは休ませんか。まぁ、ぬし様が戦わずにわしらの後ろで構えていたのは、敵を威圧して畑と馬たちを守るためなのは分かっておったがな)」

 いえ、普通に怖かったので下がってただけです。

 完全に過大評価です。

「ヒ、ヒヒン(み、みなさん)」

「わふ?(なんだ?)」

「ヒヒンヒヒン!(どうして……、どうしてボクに優しくしてくれるんですか? あのお化けさんたちはボクのせいで、ここへやって来てるのに……! それに、もしかしたらボク、あの人たちの仲間かも知れない!)」

 最後の骸骨の言葉が気になっているらしい。

 死霊導師の元へ『戻る』って言ってたもんな。仲間なのかは別にしても、メアがそいつのところから来たのは間違いなさそうだ。

「わん(いや、今は違うじゃん)」

「ヒン……?(え……?)」

「わんわん(お前は今、ファルクス家の馬なんだろ。だったら、あいつらの仲間じゃねーじゃん)」

「ちゅー(そうじゃ、駄馬とは言え、もはやおぬしはわしらの身内、見捨てはせんのじゃ)」

「にゃーん(右に同じですー)」

「ヒヒン……(で、でも……)」

「わふん!(つーか、お前にはまだ畑泥棒の貸しがあるんだからな! ちゃんと働いて返せよ!)」

 大事な労働力であるメアがいなくなったら、おっさんに何を言われるか。

 ゼノビアちゃんだって『お前が食ったんだろう』とか言って疑うんだ。間違いない。

 絶対逃がさんぞ。

「ヒ、ヒヒン……(ボク、ここにいても良いんですか……?)」

 声をうわずらせるメアに、両隣からイルーシブ夫妻が鼻を寄せる。

「ブルル(当たり前じゃないか)」

「ヒヒン(私たち、もう家族でしょう)」

「ヒ、ヒヒン……(お、おじさん……おばさん……)」

 メアは涙を溜めた瞳をぎゅっと閉じると、強く目を見開く。

「ヒヒン!(ロウタさん! 僕も一緒に連れて行ってください!)」

「わふ?(おお? いいけど、怖いんじゃないのか?)」

 俺以上にビビりのこいつが、そんなことを言い出すとは思ってなかった。

「ヒヒン!(ボクは、ボクが何者なのか知りたいです。そしてその上で皆さんと一緒にいたいです! だから、死霊導師さんにこんなことはやめるように言います!)」

「わふ(ふーむ)」

 やめろと言ったところで相手が聞くとは思えんけど、メアが自分のことを知りたいって言うなら、断る理由はない。

 一回は逃げ出してきてるんだし、やばくなったら全力で逃げるのだ。

 俺もついて行く所存だぜ。

「わふっ(んじゃあ、行くか)」

「ヒヒーン!(はい!)」

 先導するガロたちの後を追って、俺たちは森の東へ向けて出発した。