Wortenia Senki (WN)

Chapter 1 Episode 21

異世界召喚6~7日目【奇襲】その1:

亮真に宛がわれたテントへ2人の客人が来た。

「いやぁお待たせして申し訳ない。上司が直接お会いしたいと言うのでお連れしたんだ。」

斉藤の後ろからシャルディナが前に出る。

「成る程。団長さんのお出ましか。」

亮真の言葉を聞き2人の顔に驚きが走る。

「あら?なぜ私が団長だと思うのかしら?別に団長さんじゃなくても上司になれると思うけど?」

「へぇ?まあ確信がある訳じゃないけれどもね。アデルフォの町を封鎖したのがシャルディナ皇女様だって聞いてね。其のシャルディナ皇女様が指揮するのが夢魔騎士団《サキュバスナイツ》と聞けば誰にでも予測はつくさ。」

「成る程。確かに普通で考えれば判る事かも知れませんな……」

斉藤の言葉にシャルディナも表向きは納得したが、其の心にはシコリが残る。

確かに落ち着いて考えれば、導き出せる答えかもしれない。

しかし拘束された状況でそこまでの判断が出来るだろうか?

(成る程……斉藤が口を濁すわけね、確かにいやな感じがする……)

斉藤の視線がシャルディナに向けられる。

(どう思いますか?)

斉藤の視線がそう訴えかけていた。

シャルディナは判ったと軽く頷くと亮真へ話しかけた。

「今回はわざわざお時間を割いてくださってありがとうございます。帝国を代表してお礼を申し上ますわ。」

皇室の人間が一般人にかける言葉としては信じられないほど丁寧な話し方だ。

「いえいえ。別に気にしてもらうほどの事ではないですよ。確かに街道を使わずに森を通るなんて怪しいですしね。」

亮真の回答を聞き2人の顔に笑みが浮かぶ。

「思ったとおりでしたね。殿下。」

「ええ。確定ね。」

2人は頷きあった。

「ようやく見つけたわ!異世界人さん。」

「何の話です?それ?」

だがシャルディナの言葉を聞いても亮真は平然と答えた。

「無駄だ。この世界で王室の人間からあれほど丁寧な話し方をされて、そのまま受け答えの出来る平民など居やしないよ。」

斉藤の言葉を聞きようやく亮真の顔に変化が浮かんだ。

当然といえば当然である。

この王を頂点とする君主制の世界において王や貴族は神にも等しい。

もし亮真がこの世界の人間のふりをするならここは黙って地に頭を擦り付けるべきだったのだ。

「ふ~ん……成る程。それは失敗したな。」

これ以上言い逃れは出来ないと判断したのかあっさりと認めた。

「さあこれでお互いに相手が誰であるかは理解できたわけだ。」

斉藤の言葉にシャルディナは頷くと亮真へ語りかける。

「初めましてと言うべきでしょうね。貴方の言ったとおり私はオルトメア帝国第一皇女シャルディナ・アイゼンハイトよ。貴方の名前は?異世界人さん」

「俺か?御子柴。御子柴亮真だ。」

シャルディナの言葉に亮真は平然と答えた。

「成る程。思ったとおり日本人でしたか。」

「そういうアンタも日本人みたいだな?斉藤さんよ」

斉藤が大きく頷く。

「ええ。立場も貴方と同じですよ。10年ほど前にこの世界に召喚されましてね。」

「へえ?10年で副団長まで上り詰めたのかい?」

斉藤の顔に苦笑いが浮かぶ。

「まあ運が良かったのでしょうね。異世界人というメリットも大きかったですしね。」

「それは力の吸収率のことを言っているのかい?」

亮真の問いに斉藤が目を見開いた。

「ほう、そんなことまで知っているのですか。驚きましたね……」

「なあに。ちょいと俺を召喚した爺を締め上げてね。いろいろと聞いたのさ。」

亮真の口に酷薄な笑みが浮かぶ。

「そうですか。やはり……遺体の損傷が酷かったとは聞いていましたが、ガイエスを拷問しましたね?」

シャルディナの口調に怒りが混ざる。

「ガイエス?ガイエスって言うのが俺を召喚した爺の名前ならそうだ。俺が口を割らせた。」

亮真はあっさりと拷問の事実を認めた。

隠したところで意味がないからだ。

「残念ですが貴方には死んでいただくことになります。我が帝国に弓引くものを生かしては置けません。」

シャルディナの言葉に亮真が戸惑いの表情を浮かべた。

「残念?何を残念がるのさ?」

「私は貴方という人間を買っています。異世界という特殊な環境に突然放り出され、右も左も判らない方が帝都を抜けこうやって国境近くまで逃れてくる。これを見ただけでも非凡な力をお持ちだと判ります。貴方ほどの力と知恵をお持ちの方を我が国に迎えられれば、西方大陸統一も一段と楽になったでしょうに。」

亮真はシャルディナの言葉を聞き嘲笑った。

「冗談は止めてくれ。俺があんた達に仕える?馬鹿言ってるんじゃねえよ。」

「馬鹿?」

「ああ。物語の主人公じゃあるまいし何で俺がお前達に使われなきゃならねえ?」

「あら?召喚された者が召喚した人間に従うのは当たり前でしょう?」

「まあ。この世界の人間ならそう言うだろうよ。」

亮真の言葉にシャルディナが眉をひそめた。

「どういうこと?」

「別に。あんた達に話したところで意味がないさ。ただ一つだけ言っておくぜ。俺が従うのは俺自身だ。他の誰でもねえ。俺が自分で思い考え決定する。ただそれだけだ。」

「そう、それが貴方の意思……でもね異世界人さん。この世界は貴方の自由意志を認めるほど甘くないわよ?貴方は確かに自分の意思を通したかもしれない。ガイエスも殺せた。でも結局はどう?貴方は今此処に拘束されている。」

シャルディナの顔に嘲笑が浮かぶ。

どれだけ亮真が自分の誇りを言おうとそんなもの負け犬の遠吠えにしかならない。

彼女の前に手枷を嵌められているのだから。

「貴方の誇りは立派なものよ。でもそれが何になるの?この世界はね。貴方の世界のように甘くない。力無き者は奪われ虐げられる世界。貴方の意思?そんな物にしがみついた結果がこれよ。おとなしく帝国に従えば斉藤みたいに取り立ててやったかもしれないのに。」

「ヘッ。犬みたいにあんた達に尻尾を振る気はないよ。」

「そう。馬鹿な男ね。この状況でそんなことを言うなんて。命乞いをすれば助けてあげたのに。」

斎藤はシャルディナと亮真の言葉を聞きながら言い知れぬ不安を感じ始めていた。

(そうだ……何故この状況でこんなことを言う?這い蹲り命乞いをするのが普通ではないか。)

シャルディナの言葉を聞き、斉藤の脳裏にいやな予感がよぎる。

勿論斉藤にはシャルディナの言葉が嘘だとわかっている。

たとえどれほど哀れみをこめて命乞いをしようと亮真の運命は決まっている。

死あるのみだ。

ガイエスを殺し帝国の威信に泥を塗った男に他の選択肢などある筈もない。

それなのに亮真はまったく平然としている。

(死を覚悟しているのか?)

だが斎藤の目に映る亮真の顔には死を覚悟した悲壮感など漂っては居なかった。

(なら何故だ?この状況からコイツは生き残ることが出来るというのか?。)

シャルディナが今回引き連れている兵は30名。

森を広範囲で探索するために其のうち26名を2人1組で派遣している。

シャルディナの居る野営地を守るのはわずかに4名。

亮真を発見し斉藤と相方の兵が戻ってきているので合計6名。

たった一人の異世界人を拘束しておくなど何の問題もない。

しかも夜が明ければ散っていた兵士達も戻ってくるはずだ。

状況は圧倒的に有利のはずだ。

しかし斉藤の心から不安がぬぐえない。

自分達にとって圧倒的に有利であるはずなのに。

其の瞬間、斉藤の脳裏にある想像が浮かんだ。

(まてよ……この状況はコイツが望んだことではないだろうか?)

突拍子の無い想像。

なんの確証も無いただの想像。

だが斉藤はこれこそが真実だと確信した。

(そうかそれなら理解できる。だが何のためだ?この状況がいったいこの男にとってどんな利点にとなるのだ?……いや。利点などどうでも良い。今やるべきはこの男を此処で殺してしまうのだ。この男が何を狙おうとこの状況で出来ることなど高が知れている。)

斉藤の目に殺意が宿る。

「斉藤……?」

自分の副官の雰囲気が変わった事にシャルディナは気がついた。

「殿下。申し訳ございません。この男は此処で殺すべきです。」

今まで黙って考え込んでいた副官の言葉にシャルディナは驚きを隠せなかった。

「な……そんなことは許されません!この男は帝都へ護送しなければ!」

「いいえ殿下。この男は危険です。生かしておけば何をするか……」

「陛下の命に逆らうというのですか!」

シャルディナの言葉にも斎藤は首を振る。

「申し訳ありません。お咎めは後で如何様にも・・・」

そう言うと斉藤は剣を抜き亮真へ歩み寄る。

「待ちなさい斉藤!」

シャルディナの静止を無視して斉藤が剣を振りかぶる。

「何か言い残すことはあるか?同郷の誼《よしみ》だ。聞くだけは聞いてやる。」

「別に無いな。」

亮真は白刃の光を受けてもまったく動じず薄笑いを浮かべて言い放った。

「そうか。いい度胸だな。」

「そんなことは無いさ。……死ぬのはお前達だからな!」

亮真の大声が闇夜を切り裂き森へ吸い込まれる。

「突然何を……!」

天幕を振るわせるほどの亮真の声に驚きを隠せないシャルディナ。

「なにを……はっ!殿下!」

斉藤の勘が危険を告げた。

そして彼がシャルディナへ覆いかぶさるのと同時に野営地を烈風が吹き荒れる。