Yuusha Dakedo, Maou Kara Sekai Wo Hanbun Moratte Uragiru Koto ni Shita

Launch plan What if this piece is a school love comedy

爽やかな朝の通学路。

これから学校が始まるということで通りは学生で溢れかえっている。

そんな中で、俺は褐色の小学生と手をつないで歩く。

赤いランドセルを背負った彼女は俺を見てニコニコと笑っていた。

「勇者っ。いい天気だな! 今日は空が綺麗だぞ!」

「そうだな。でも魔王の方が綺麗だよ」

「ば、ばか……こんな人通りのある道で言うなっ。照れるだろう」

俺もニコニコと笑う。彼女は照れ照れとはにかむ。

通学路だろうと関係なかった。

愛のままに、感情が抑えられなくなってはしょうがない。

そして俺と彼女は見つめ合い、お互いの手をぎゅっと握りしめたところで――

「ねぇ、そこの君。ちょっといい? そこの女の子との関係性を教えてくれるかな?」

――警察さんが俺に話しかけてきた。

しかも警戒するように俺を見ている。

「べ、べべべ別に変なことしてないですよ!? ちょっといいムードになっただけでまだそういうことは一切していないんですよ!! それだけで捕まえるなんて酷いと思いませんか!?」

「いや、まだ捕まえてないんだけどね?」

慌てて否定したのだが、警察さんの疑いは余計に強くなってしまったようだ。

まずい。小学生と手を繋いでいるところを警察さんに見つかってしまった!

「妹です」

「……は? いや、君は実の妹に『綺麗だよ』とか言うの?」

なんと。会話は聞かれていたようだ。

「家庭の事情なんです」

「複雑な家庭だね。相談所を紹介しようか?」

まっとうな対応である。実の妹に『綺麗だよ』とか言う家庭の事情なんて問題しかないだろう。

むむ、もう言い訳できる余地がなかった。

なぜなら俺は、この子――魔王と付き合っている。

高校三年生の男子高校生が、小学六年生女子児童と愛を育んでいるのだ。

これ以上、言い逃れできそうな言い訳は思いつかない。

なので俺はもう諦めた。

「……取調室ではかつ丼が食べたいです」

「あのね? 君、結構余裕あるね」

警察さんは呆れたようにため息をついている。

詳しく話を聞いてみると、別に逮捕のために声をかけたわけではないようだった。

「あんまりくっついてると周囲の目を集めるから、ほどほどにね? まさか付き合ってるとは思わないけど、君は高校三年生だろう? 受験もあるんだから、不祥事には気をつけなさい」

どうやら注意のためだったらしい。

パトロール中に怪しい高校生と小学生を見つけたから、声をかけただけのようだ。

良かった。まさか本当に付き合ってるとは警察さんも思っていないようである。

「は、はいっ。気をつけましゅ!」

言葉を噛みまくってしまったが、警察さんはそれだけを言って立ち去っていく。

どうにかピンチは脱したようだった。

「で、魔王ちゃん? なんで警察さんが見てるのに手を離してくれなかったわけ?」

「手を握りたかったからな……ああ、勇者って本当にかっこいいな。情けなく言い訳するところも素敵だった。思わず見とれて警察に文句が言えなかったぞ」

「なるほど、だったら仕方ないな」

今まで黙っていたのは俺に見とれていたからのようだ。

可愛い子である。こんな子を好きにならない理由がやっぱり俺には分からなかった。

「む、もうこんな時間か……少し急ぐぞ。学校に遅れそうだ」

「了解」

また、二人で仲良く歩き出す。

先程よりは露骨じゃないものの、やっぱり手は握られたままだった。

俺、勇者(自称)はとある高校の三年生である。

彼女、魔王(自称)はとある小学校の六年生だ。

俺と彼女はいわゆる幼馴染というやつで、彼女が零歳の時からの付き合いである。

俺が六歳の時に魔王は産まれた。

家が近所ということで毎日遊んでいたらいつの間にか懐かれていたのだ。

それから12年間もの間俺たちはずっと一緒である。

ちなみに本名は別にあるのだが、幼い頃に『勇者と魔王ごっこ』をして以来、今の呼び方に落ち着いた。なんとなくしっくりきて外でもそう呼び合うようになったのである。

まぁ、それはたぶんお互いに照れとかあるのだろう。

ずっと一緒にいるが、だからこそ本名で呼び合うと照れくさくなるのだ。

たぶん、俺たちの呼び方が変わるのは結婚した時になると思う。

それまではこの呼び方で、仲良く過ごしていこうと思っていた。

二人でおしゃべりしながら歩いていると、すぐに高校に到着してしまった。

「勇者! いってらっしゃい!」

「うん、いってきます」

魔王に高校前まで送ってもらって、彼女との登校時間が終わる。

魔王は俺を見送った後に自分の小学生に行くのだ。本当は見送りなんていいと言っているが、『いってらっしゃい』がどうしても言いたいとのこと。

可愛いので、結局毎日送ってもらっていた。

「気をつけてな~」

遅刻しそうなので走り去る彼女に手を振って、俺は一つ息をつく。

さて、学校だ。

魔王のいない退屈な時間の始まりである。

「あ、ロリコンだ」

「ロリコンが歩いてる」

「きゃっ、ロリコンがこっち見た」

「おお、ロリコンじゃん」

そして周囲からはロリコンと認知されているものだから、もうやってられなかった。

仕方ないことである。毎日手を繋いで登校して校門まで見送られるのだから、当然周知されていた。

別に虐められてるわけじゃないが、これは『いじられる』というやつだろう。

こういう時は決まってこう言うことにしている。

「ロリコンじゃねーよ! たまたま好きになった子が幼女だっただけだ!!」

そうするとみんな口をそろえて、こう言うのだ。

「「「「世の中ではそれをロリコンって言うんだよ!」」」

そんな世の中は嫌いである。

学校が終わる。

魔王のいない地獄のような時間がようやく終わりを迎えた。

授業の終業合図と同時に、俺はダッシュで校舎を出る。

校門の方では既に褐色の幼女が待っていた。

小学生なので高校生の俺より授業が早く終わるらしい。

彼女はいつも校門前で俺を待ってくれる。そのおかげで警備員さんともすっかり仲良しである。

今日も談笑していたが、俺に気付くや否や魔王はぴょんぴょんよ飛び跳ねた。

「勇者! おかえりだぞー!!」

走り寄ると、彼女は勢いよく飛びついてくる。

魔王は魔王で俺のいない時間を寂しがっているのだ。

俺たちは両想いなのである。

「ただいまっ」

ぎゅっと抱きしめて、二人でおでこをくっつけあう。

やっぱり彼女が隣にいると落ち着いた。俺にとって魔王は酸素みたいなものなのだ。

なくてはならない存在である。

「お熱いね~。さようなら、二人とも」

高齢の警備員さんはそう言って、いつも通り俺たちに手を振ってくれた。

気のいい人で、俺が魔王とイチャイチャしようと通報しない優しい方である。

「さようなら!」

「お疲れ様です」

二人で軽く頭を下げて、俺たちは帰路につく。

もちろん手は繋いで。

「そこの君、ちょっといい?」

そして二度目の職務質問が始まる。

今日は厄日だった。

「うわぁあああああん!! みんな酷いよぉおおお!!」

自宅にて。

俺は魔王に泣きついていた。

下校してそのまま魔王を連れ込んだのである。

実はこれ、いつもの日課だったりする。

「よしよし、勇者は悪くないぞ」

ベッドで俺を膝枕する魔王は、優しい声をかけてくれた。

「勇者は本当に仕方ないやつだな。まったく、我にたくさん甘えるといい」

ゆっくりと魔王は俺の頭を撫でる。

毎日、学校から帰ると魔王からそうしてもらっていた。

じゃないとやってられないのだ。

「警察にまた職務質問されたし!」

「そろそろ慣れても良い頃ではないか? ほら、ここのところ毎日だろう?」

「で、でも、今日は二回もあった!」

「それは酷いことだな。勇者は何も悪くない」

「学校のみんなにもロリコンって言われるし!」

「いっそのこと認めたらどうだ? 勇者は我が好きなのだろう?」

「でも『幼女』が好きってわけじゃなくて、魔王が大好きってだけなのに!」

「そ、それは、うむ……嬉しいぞっ。よしよし」

不満を吐き出すと、魔王は全て受け止めてくれる。

俺が最も欲しい言葉をかけてくれる。

なんというか、母性を感じていた。

甘えると甘やかしてくれる彼女の優しさに、俺はすっかり溺れていたのだ。

「……勉強したくない。受験めんどくさい。受かる気がしない……」

ポツリと弱音を吐き出しても、魔王はイヤな顔一つしない。

むしろ嬉しそうに微笑んでくれた。

「では、勉強しないでもいいのではないか? どうせ勇者は我に養われるのだからな」

「み、魅力的すぎる提案だけどっ」

だけど、そこまでいくと『依存』だ。

俺は魔王から『搾取』するだけのうんこになってしまう。

それはちょっと違うのだ。

俺は魔王にも与えてあげたい。彼女を幸せにできるような男になりたいと、そういう目標を持っていたのだ。

だから、ちょっとだけ難しい大学を目指しているわけで。

そこに受かったら、俺はきっと自分を誇れるようになる。

魔王をより深く愛せる自信がつくと思うのだ。

「……でも、勇者はどうせ頑張るのだろう? 貴様はなんだかんだそういうやつだからな」

そんな俺を、魔王は理解している。

彼女の見守ってくれるような笑顔は、とても嬉しいものだった。

「……うん。でも、合格したらご褒美ほしいかも。なんかあったら、もう少し頑張れる気がする」

「ほう? では、我の全てとかどうだ?」

「それは大人になったら貰うの確定してるから、もう少し控え目なやつ頼む」

「むぅ……なら、貞操はどうだ?」

「控え目って意味分かる? あと、刑法176条とかもあるし、そういうのは大人になってからって約束しただろ」

「……こんなに愛し合ってるのに、もどかしいものだな」

唇を尖らせながらも、魔王は俺とのおしゃべりが楽しむように頬を緩めていた。

彼女が楽しそうだから、俺も楽しい気持ちになるのだろう。

ふと、思う。

やっぱり、魔王と過ごす時間が大好きだった。

願わくば、これからもずっと。

「……じゃあ、大学に合格したらいっぱい甘えたい。赤ちゃんみたいに甘やかしてくれ」

「赤ちゃん? ママになれということか……それも良いな。うむ、まったく! 勇者は仕方のないやつだっ」

魔王と、笑い合う日が続くように……と。

俺は、彼女との幸福を願うのだった。

そんな日々が続く。

緩やかに、穏やかに――。

【発売記念企画、終わり】